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【381 ジョルジュ 対 セシリア ①】

上空に向け放たれた矢は重力に従い雨あられのように降り注ぎ、正面からは風魔法ウインドカッターが絶えなく襲い掛かる。

万全の準備で待ち構えていたカエストゥス軍の攻撃は、帝国軍を圧倒していた。


攻撃魔法を風にだけ絞った事には理由がある。


森での戦いである以上、火や爆発魔法では自軍も巻き込まれてしまう恐れがある。

戦う以上どうしても地形を壊してしまうが、できるかぎりダメージを少なくしたいという思いからである。


そして森で育ったジョルジュとしては、できれば避けたい手段であったが、森での風魔法にはもう一つ利点があった。



「うわぁぁぁーッツ!」

「来るぞ!避けろー!」


ウインドカッター。風の刃をしゃがんで避けた帝国兵だが、次の瞬間にはその頭の上に真っ二つに斬られた大木が倒れて来る。



「・・・・・ウインドカッターを躱しても、倒れた樹で潰されるか。単純だがこれだけ数がいれば効果的だな。考えてやがる」


最後尾のジャミール・ディーロは、先頭集団が矢で射られ、坂を転げ落ちてくる倒木に潰されていく様を感心したように眺めていた。


仲間であるはずの帝国兵が何人殺されようと、ジャミールは何も感じる事はない。

ただ数が減っていく。それだけの事である。



「・・・まぁ、いい作戦だ。大方ここを破壊したくねぇってのもあるんだろうな。だが、こっちがそれに付き合う義理はねぇよな」


ジャミールは右手を前に出すと、カエストゥス軍がいるであろう高台に狙いを付けた。



「あいにく俺はここがどうなろうと知った事じゃあねぇんだよ」


ジャミールは右手に溜めた破壊の魔力を解き放つ。


爆発の中級魔法 爆裂空破弾


夜の闇を照らすように、周囲の空気を震わせながら、大人の頭よりも大きい光輝くエネルギー弾が撃ち出された。





「来た!青魔法使い、結界だ!」


ジョルジュに代わり指揮を執るエリンが指示を飛ばすと、すでに準備ができている青魔法使い達数人が前に出て、息の合った動きで一斉に結界を張る。


目の前の青い結界にぶつかった爆発魔法の衝撃で、足元が揺れ動き転ばされそうになる。


「くっ、この威力っ!こいつもかなりの使い手だな!ジョルジュ様、どうか、ご無事で・・・」


予想外の威力に驚かされたが、エリンはすぐに体勢を立て直すと、二発目、三発目に備えるように指示を出す。


「ジョルジュ様の予想通りだったな。確かに帝国からすれば、ここがどうなろうと問題はない。

平気で火も爆発も使うと、そして最後尾の少年はそれを真っ先にしかけると。怖いくらいに頭のキレる人だ」




初撃を撃ち終えると、ジョルジュは高台から飛び降り、単身で帝国軍に向かって行った。

狙いは敵の指揮官セシリア・シールズ。


軍の先頭に立っていたセシリアを見つける事は簡単だった。

暗闇の中、頭上から襲い来る無数の矢をいともたやすく斬り落としている。


首を狙い斬りつけてくるウインドカッターは、その体から発する炎でかき消し、斬り落とされ正面から転がって来る樹も、深紅の片手剣が纏う炎で焼き払われていた。



「派手な女だ・・・」

樹々の間を潜り抜け、ジョルジュはセシリアの背後に飛び出した。

左手の平をセシリアに向け、右手は左手に集めた風を摘まみ、強く後ろに引いている。


ジョルジュの奥の手 風の矢、である。

威力こそ鉄の矢に劣るが目にも見えず、矢は指一本につき一発、つまり一度に五発同時に撃つ事もできる強力な武器である。



・・・決めさせてもらう


セシリアの背中を目にするなり、ジョルジュは躊躇なく右手を離し風の矢を射った。

僅かな風切り音と共に、風の矢がセシリアの背に突き刺さる。


「むっ!?」


「うふふ、残念ね。衝撃波みたいなものかしら?私の炎は貫けなかったみたいよ」


振り返ったセシリアは、ジョルジュを品定めするかのように目を細め妖しく笑う。

ジョルジュの風の矢は、セシリアの纏う炎によって当たると同時に撃ち消されていた。



「・・・見誤ったな。五指の矢ではお前の炎を貫けないようだ」


感触を確かめるように、ジョルジュは左手首を軽く回す。


「火の勢いを増せばそれだけ層が厚くなる。今くらい攻撃なら防ぐのは簡単よ」


笑顔のままセシリアが一歩近づいて来た。

深紅の片手剣の切っ先をジョルジュに向け構える。



「うふふ・・・ジャミールに恨まれそうだけど、あなたも素敵ね。私が殺してあげるわ」


「あいにく妻が待ってるのでな、死ぬわけにはいかん」


「死ぬのよ」



ジョルジュを見つめるセシリアの瞳に火が灯る。


くる!

ジョルジュは視線を下げた。セシリアと目を合わせれば体の中へ熱を送られる。



「うふふ!そうするしかないわよね?でも、それでどのくらい戦えるのかしら!?」


地を蹴る微かな音と共に一瞬で距離を詰め、セシリアの突きがジョルジュの頭を狙う。


「視覚など俺には何の影響も無い」


低く腰を落とし、難なくセシリアの突きを躱すと、ジョルジュは左手を地面に着き、そのまま体を右へ回転させ、右脚を蹴り出した。


「うぐっ!」


セシリアの腹にジョルジュの蹴りが深々と突き刺さる。

肺の中の空気を無理やり吐き出させられ、セシリアは腹を押さえよろよろと足をもたらせ後退する。


素早く足を戻し立ち上がると、右足を軸に腰を回し、セシリアの右側頭部を狙った左の蹴りを繰り出した。


「むっ!」

しかしセシリアの右手が反応し、ジョルジュの蹴りに合わせ片手剣を足元から振り上げる。

斬り落とされる寸前で足を止める。僅かに切っ先がかすり、黒いブーツの脛部分が一の字に切り裂かれる。


「・・・タフだな」

一歩大きく後ろへ飛ぶ。

腹に入った蹴りで倒れなかった事も意外だった。ジョルジュの感触では、倒れて当然の手ごたえだったからだ。

だが、倒れないどころか即座に反撃に移った事に、ジョルジュは目を見張らされた。


「・・・痛いわね。一瞬息が止まったわ。それに、炎を纏っている私を蹴って何ともないなんて、あなた何かしてるわね?」


左手で腹を撫でながら、セシリアはジョルジュを鋭く睨みつけた。

先程までの笑みは消えて、強敵を前にした油断の無い表情だ。


「あぁ、足の周りを風で保護している。短い時間ならお前の火も通さない」


「・・・簡単にタネも教えてくれるのね。私をあまく見てるのかしら?」


「聞かれたから答えただけだ。対応できるものでもなかろう?この程度なんのハンデにもならない」


人を食ったような態度のジョルジュに、セシリアの体を纏う炎が膨れ上がった。


「私ね、バカにされるの嫌いなのよ」



冷たく響く声がジョルジュの耳に届くと同時に、セシリアの刺突がジョルジュの心臓に迫った。



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