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【380 獲物】

「ねぇ、ジャミール、あんた親の仇を討ちたいのよね?」


カエストゥス国、東のブリッジャー渓谷を進む帝国軍。


兵士の疲労を考え小休止を入れたが、生い茂る枝葉に遮られ太陽の光が地面まで届かない。

この辺りはこんな暗い場所ばかりだった。


この時期の寒さは堪えるものがあるが、ジャミールと呼ばれた男はわずかに白い息を吐くだけで、寒さに震える様子も見せず、一人が腰をかけるには丁度良い平たい岩に座り、誰と話すでもなくただ前だけを見ていた。


若い男だった。年の頃は15~16歳というところだろう。

深紅のローブを羽織っている事から、魔法使いだと察せられるその男は、背丈は170cmあるかどうかのやや小柄で細身だが、魔法使いにしては引き締まった体付きだった。


黒い肌、眉も太く、その黒い瞳はどこまでも深い闇のようだった。

チリチリと縮れて絡まりそうな長い髪は何本にも編み込まれ、首筋から束にして垂らしている。



「・・・・・あぁ、そうだ。俺の親は頭を矢で貫かれて死んだ。俺はあの男、ジョルジュ・ワーリントンを殺す事だけを考え生きて来た」


セシリアに声をかけられてから返事をするまで、たっぷり10は数えただろう。

いや、言葉を返す事も面倒に思っていたのだろう。だが、いつまでも離れる様子を見せないセシリアに、しかたなく顔を向け返事をしただけだった。


人付き合いをまるでしないジャミールは、軍の中でも浮いた存在だった。

深紅のローブを纏っているが、協調性が全くないため役職にはついていない。

実力だけを評価されての特例だった。


横柄な口ぶりだが、セシリアは苛立ちを見せず、むしろ嬉しそうに目を細めた。


「そうだったわね。あなたの父親も、伯父さん達も、みーんなアイツらが殺したんだもんね。

そりゃあ復讐したいわよね」


「・・・何が言いたい?」


ハッキリと眉間にシワを寄せ、セシリアの目をじっと見るジャミールに、セシリアは楽しそうに口元に手を当て笑いをもらしながら話した。


「うふふ、変な意味はないわ。獲物は分けましょうって話しよ。感じるのよ・・・こっちにね、私の獲物が向かって来てるみたいなの。黒髪の女で槍に似た長物を使うんだけど、ヤヨイって言うの。ブレンダンの孤児院の人間だから知ってるでしょ?そいつは私に頂戴。邪魔をしないで欲しいのよ。代わりにあんたがジョルジュと一対一になれるように協力するわ」


ジャミールは少しの間、真意を探るようにセシリアの目を見続けた。


シンジョウ・ヤヨイは当然知っている。

ジャミールは自分の親、そして二人の伯父を殺した人間は調べ上げていた。

一番の標的は、自分の親、ジャーガル・ディーロを闘技場で射殺したジョルジュ・ワーリントンだったが、当然ヤヨイ達も標的に含まれている。


「・・・いいだろう。俺もあの二人を同時に相手にできると思う程、自惚れてはいない。どちらかしか相手にできないのなら、ジョルジュを殺す。だが、うまく離せるかは分からないぞ。状況次第では、二対二になる事も、俺がヤヨイと戦う事もあるだろう」


「えぇ、それでいいわ。恨みっこ無しね。じゃあ、そろそろ行きましょうか。偵察に出ていた兵が、カエストゥス軍を見つけたみたいよ」



ジャミールにそう言い残し背を向けるセシリアを見送る。

周りの兵士達も一人また一人と腰を上げ、出立の準備を始めている。




長かった・・・ジャミールの目に殺意の炎が宿る。

ジョルジュ・・・父の仇、もうすぐ会えるな。


この時を待っていた。

父と伯父がいなくなり、子供だった俺が一人でどうやって生き抜いてきたか・・・

貴様の死を持って過去に決着をつける・・・



復讐の男は体中から溢れそうな殺気を押さえるように、長く溜めた息をゆっくりと吐く。


すでに自分の周りには誰もいない。いつもの事だ。


セシリアが歩いて行った方に目を向けると、最後尾を歩く兵の姿が小さく見えた。


ジャミールはゆっくりと腰を上げると、後を追うように歩き出した。






「・・・来ました。帝国軍です」


偵察に出ていた兵士が報告に戻って来た。


陽のあるうちであれば色鮮やかな緑に包まれた森の中だが、すっかり夜の闇に覆われた今は、僅かな月明かりが足元を照らすだけだった。


カエストゥス軍が陣取った場所は高低差のある高台。

帝国の進行ルートを考えれば背後を取られる心配はない。先制攻撃もしかけやすく待ちには理想的な場所だった。


「・・・ジョルジュ、ヤヨイさんは?」


不安そうに聞いてくるジャニスに、ジョルジュは首を横に振った。


「こっちに向かっているのは感じる。だが、もう少しかかりそうだな。最初は俺達だけでなんとかするしかないだろう」


「そっか・・・でも、南の援軍が間に合ったのは大きかったね。エリン、本当に助かったわ」


「いいえ、こちらこそお二人には南で助けていただきました。この東での戦いで、帝国に止めを刺しましょう」


青く長い髪を耳にかけ、エリンはジャニスに意思のある視線を向け答えた。

南のブローグ砦が余力を持って勝利できたのは、一人で千人もの黒魔法使いを倒したジョルジュの戦闘力と、白魔法使いとして並ぶ者がいない治癒力を持つジャニスがいた事が大きい。


「エリン、あなたの遠目の鏡でセシリアの場所は分かる?」


ジャニスの問いに、エリンは、はい、と即答した。

エリンの魔道具、遠目の鏡。


透明かつ極めて薄いレンズのそれを瞳に付ける事で、闇に包まれた真夜中であって、はるか先までその目に映す事ができる。


兵士が指した帝国兵の進行ルートに顔を向け、エリンは意識を瞳に集中させる。


僅かな月明りしか射さない夜の闇の中、視界がどんどん鮮明になっていく。

目に映る物がどんどん近くなり、エリンの瞳に次々と情報が映し出されていく。



「・・・いました。赤い髪の女は隊の先頭集団の中です。それと・・・もう一人、深紅のローブの・・・少年ですね。ローブ深紅のローブは指揮官クラス、こいつが最後尾にいます、帝国とこちらの距離は800~1000メートル程かと思います」


深紅のローブの少年、おそらくそれがディーロだろう。

エリンの説明に、ジョルジュは補足するように言葉を紡いだ。


「・・・南の戦いの経験から言えば、帝国のサーチは500メートル未満だが、その距離ならもうすぐ掴まるな。では、当初の作戦通り弓兵による射撃と、風魔法で先制攻撃だ。俺は初撃が終わったら前に出る。あの女が簡単にやられるとは思えんからな」


ジョルジュ達の後ろでは、すでに臨戦態勢の兵達が攻撃の合図を待っていた。

魔法使いは魔力を練り上げ、弓兵も合図とともに射撃できるよう集中力が高まっている。



「ジョルジュ・・・気を付けてね」


両手でジョルジュの手をそっと包み込む。

白魔法使いの自分は後方支援しかできない。前線で戦うジョルジュの身を案じていた。


「大丈夫だ。俺が負けると思うか?夫を信じろ」


ジョルジュはジャニスの頭に手を乗せた。

大きく逞しい手に、安心を感じる。



「・・・悪くない風だ」

アイスブルーの髪が風になびかせられ頬を撫でる。




「来ました!正面を真っ直ぐ射程内です!」

「よし!撃て!」


エリンが目視で帝国兵の姿を捉え声を上げると、それを受けジョルジュが号令をかける。


臨戦態勢で待ち換え舞えていた弓兵による射撃と、黒魔法使いの風魔法、二つの攻撃によって戦いの幕が切って落とされた。



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