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【372 兄の想いに】

「・・・兄さま!?・・・そ、そんな・・・兄さまーーーッツ!」


森の中、手を引いて走っていたクラレッサが足を止め、後ろを振り返り悲痛な叫び声を上げた。


テレンスの魔力が消えた。それはつまり・・・


「くっ!・・・テレンス・・・」


さっきテレンスの魔力が跳ね上がったと思った直後、セシリアの気がそれ以上に高まった。


おそらくテレンスはアレをやったんじゃろう・・・自殺とも言える魔法使いの最後の手段、命を燃やしたんじゃ。


しかし、それでもセシリアに敵わんかった。

あの女はそれ程の強さだというのか!?



そう考えた直後、耳をつんざくような爆発音と、追いかけて来るように背中にぶつけられる強烈な爆風に、転ばないように手を引いているクラレッサを抱き寄せた。


足腰に力を入れふんばらなければ、簡単に倒されてしまう程だった。

慌てて木を背にして腰を下ろし体を丸める。爆発による衝撃波が治まるまでやり過ごすしかない。


「くっ、なんという威力じゃ!だいぶ離れたはずじゃが、ここまで届くとはっ!」


残り少ない魔力で自分とクラレッサを包むだけの最低限の結界を張ったが、長くは持たんじゃろう。

カエストゥス軍の陣営までなんとか戻るんじゃ。


あの女、セシリアは絶対に追いかけて来る。

今のワシでは何も抵抗できんまま殺されるじゃろう。なんとか自軍の魔法使いと合流して、魔力を分けてもらわねばならん。


テレンスとクラレッサを気遣い、すぐに戻らず人目を避けた事が裏目に出てしまった。


だがテレンスよ、お主から託されたクラレッサだけは護り抜いて見せる。




「兄さまが・・・兄さまが・・・兄さま、兄さま、兄さま・・・いやぁぁぁぁぁーっつ!」


抱きしめているブレンダンの腕を振りほどくように強くもがくクラレッサに、ブレンダンは声を大にして懸命に呼びかけた。


「クラレッサ!落ち着くんじゃ!ワシを見ろ!ワシを見るんじゃ!クラレッサ!」


「ハァッ!ハァッ!・・・・・はぁ・・はぁ・・お、おじい、さん?」


やがてブレンダンの声が届いたのか、クラレッサの目がブレンダンの顔を映した。


「お・・・おじい、さん・・・おじいさん・・・おじいさん!兄さまが!兄さまが・・・」


テレンスが死んだ事はクラレッサも頭では理解している。


だがどうしても、死という言葉は口に出せない。

それを口にすれば、現実として認める事になってしまうから。



「・・・テレンスは・・・ちょっと、遠いところに行っておる」


優しさと悲しみ、二つの感情が入った声だった。


「遠い・・・ところ・・・ですか?」


「そうじゃ・・・遠いところじゃ・・・」


「会えますか?」


「・・・あぁ、クラレッサが一生懸命生きて、大人になって、おばあちゃんになって・・・いつかその時が来れば・・・テレンスが迎えに来る」


ごまかす事はしなかった。なぜならクラレッサも分かってはいるからだ。

ただ、今だけでも・・・現実を直視しないですむ逃げ場が欲しかっただけなのだ。



「・・・おじい、さん・・・う、うぅ・・・うぅぅ・・・あぁぁ・・・」


「泣いてえぇ・・いっぱい泣くんじゃ・・・クラレッサ、生きるんじゃ。一生懸命生きるんじゃ。テレンスはお主が生きて幸せになる事を一番に考えておった。いつかテレンスに会った時に、胸を張れるよう一生懸命生きるんじゃ」



思い出すのう・・・これまで本当に沢山の子供達を見て来た。

孤児院じゃからな・・・何かあっても心に溜め込んでしまう子が多かった。


気持ちを吐き出させる事が大事なんじゃ。大人がそれをしっかり受け止める。

何度でも受け止めてやるんじゃ。



クラレッサ・・・今日からワシがクラレッサの親じゃ。




「・・・・・おじいさん、私・・・おじいさんの言う通りにします。兄さまが迎えに来てくれるように頑張ります」


やがて泣き止んだクラレッサが、ブレンダンに顔を向ける。

目元に泣き跡が残っているが、現実を見ている強い目にブレンダンは頷いた。


「・・・うむ、そうじゃな。では行く前に話しておく事がある。お主の力、悪霊はもう使ってはならん」


「・・・なぜですか?さっきは我を忘れてしまいましたが、落ち着いてやればあんな女に負けません」


「確かに、そうかもしれん。じゃが、お主も気が付いておるじゃろ?お主の足元にしがみつく亡者に。悪霊を使う度にその数は増えておるように見える。そしてお主を地の底に引きずりこもうとしておる。暴走したのは、もう限界だからではないのか?」



「・・・おじいさんも霊力を使いますものね。隠し事はできませんね」


ワシはクラレッサの両肩をしっかりと掴んだ。


「よいか、お主の白魔法は頼りにしておる。素晴らしい腕じゃ、平和のためにぜひ力を貸してほしい。だが悪霊は駄目じゃ。テレンスも望んでおらん」


クラレッサはワシの迫力にすこし驚いたようじゃが、構わず言葉を続けた。


「幸せに生きて欲しいというテレンスの想いを、大事にしてくれ」


「・・・・・はい。分かりました」


クラレッサは少しだけ目を瞑ったあと、はっきりワシを見て頷いた。

話しを終えて立ち上がると、自然とクラレッサから手を繋いできた。


「道が分かりません。はぐれるのは怖いので、手を繋がせてください」


「ほっほっほ、こんなじじいの手でよけりゃ、遠慮せんで繋いでくれ」



まだ風は吹き荒れているが、ピークは過ぎたようだ。

転ばされる程ではなく幾分か弱くなっている。


だが、ほんの十数メートル後ろまで火の手が上がっており、ここもすぐに火に呑まれてしまうだろう。

すぐに行かなくてはならない。



「走るぞ、クラレッサ」


「はい、おじいさん」



手を繋いで走りだした。


クラレッサももう前を向いている。

心の中はまだまだ整理できていないはずじゃ。だが、テレンスの気持ちに応えるため、立ち上がって生きる道を選んだ。


強い子じゃ・・・




走りながらワシは一度だけ後ろを振り返った。

まだその姿は見えないが、おそらくセリシアはもう追いかけてきているはず。


なんとしても逃げ延びよう。

掴まればもう魔力の尽きかけているワシにはなすすべがない。


ワシはクラレッサのためにこの命を使う事は惜しまない。

だが、それは誰かに託してからじゃ。

今クラレッサ一人にする事はできん。


だから生き延びよう。


二人で。



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