【358 マーヴィン 対 テレンス ②】
一体何をされた?
マーヴィンは地面に手を付いて起き上がろうとしていた。
まるで無防備な背中に突然受けた衝撃。
鎧の背中の装甲を吹き飛ばされる程の威力。おそらく中級レベルの爆発魔法だ。
これだけの威力の魔法を背後から撃たれ、まるで気がつかないなどあるだろうか?
しかも後ろには、自分の側近達が控えている。
敵の伏兵が潜んでいれば、フォローに入るはずだ。
彼らの目をかいくぐり自分に直撃させるなど、一体どうやったらできる?
「マーヴィン様!」
側近の一人が駆け寄ろうとすると、マーヴィンは手を向けて制した。
「来るな!お前らが来ても殺されるだけだ・・・こいつは俺がやる!お前達は周囲の警戒だ。自分の役割をこなせ!」
「マ、マーヴィン様・・・くっ、はい・・・了解しました」
無力な自分を責める様に、悔しそうに歯噛みして足を止める。
側近も実力の差は分かっていた。
自分達はテレンスの爆裂弾でさえ防ぐことで精一杯だった。とても入って行けるレベルではない。
だが、いざとなればこの身を盾にしてでも、マーヴィンを護る気持ちは持っていた。
おそらくマーヴィンはそれを見越していたのだ。
生ける伝説マーヴィン・マルティネスの側近達は、マーヴィンに対して崇拝にさえ近い感情を持っている。
自分のために命さえ投げ出さん覚悟の部下達だが、それはマーヴィンの望むところではない。
「フッ・・・若い命を守らんで、なんのための老兵か」
立ち上がったマーヴィンは、再び黒い剣、鴉をテレンスに向け構える。
「立ったな?それじゃあ、じいさん・・・続きをやろうか」
「ふぅ・・・まさか、この俺がこんな若造に攻撃を待ってもらうとはな・・・年はとりたくないものだ」
「僕の事をずいぶん軽く見ていたようだからね。どうだい?赤子とまで言った相手に倒された気分は?」
「根に持つ性格のようだな?まぁ、俺が思っていたより上位の使い手だというのは分かった。ここからは俺も本気でやろう」
マーヴィンの目に力がみなぎり剣を構えるその体から、気圧されそうな闘気が発せられる。
それを受けテレンスの表情も一気に引き締まり、対抗するように魔力が高まっていく。
「う、ぐぅッ!」
右脇腹での爆発がマーヴィンの体を吹き飛ばす。
背中から地面に落ちそうになるが、体をひねり左手で地面を弾く。体を回転させ両足で地面に着地する。
「左脇腹」
「ぐあッ!」
テレンスの言葉と同時にマーヴィンの左脇腹で爆発が起こる。
苦悶の表情、鎧が弾き飛ばされ、その体が大きくグラつき前のめりに倒れそうになる。
「胸」
「がはぁッツ!」
倒れそうになったマーヴィンの胸で爆発が起こり、衝撃で体が宙に飛ばされる。
「ほらほら、どうした?じいさん、あんたその程度か?本気でやるんじゃなかったのか?それとも本気でこれかい?」
正体不明の見えざる攻撃に、マーヴィンはなすすべもないまま撃たれ続ける。
一発一発は中級魔法相当の威力がある。
マーヴィンの装甲を破壊し、肉を撃ち皮膚を裂き、その体を血に染めていく。
・・・これほどの、使い手だとは・・・このマーヴィン・マルティネス、見誤ったわ・・・
おそらく魔道具・・・魔法を任意の場所で自由に発動させる・・・これが能力だ・・・
背中、脇腹、死角からの攻撃ばかりだ・・・だが、ここまで追い込まれて、ようやく掴めてきた
「そろそろ死ぬか?」
テレンスの目に殺意の光が宿ったその時・・・・・
「見切ったわぁ!」
頭上に向け下から突き上げるように剣を振ると、その刃の先から鮮血が飛び散る。
「・・・ふん、こんな奇怪な魔道具初めて見るわ・・・これはどう見ても、手だな」
マーヴィンが斬りつけた刃の先には、肘から先の右手が浮いていた。
「く、ぐぁぁぁぁーッツ!き、貴様、いったい何をしたぁーッツ!?」
テレンスの叫びがマーヴィンの耳に届く。
左手をローブから出し、何かを振り払うように目を強く掻きむしる。
「フッ・・・見えんだろ?鴉に斬られた者は視界を闇で蔽われるのだ。貴様はもう光を見る事は無い」
剣を振り下ろし、切っ先に付いた血を振り払う。
鎧はほとんど砕け、上半身はむき出しだった。血だらけの体から見て、あと数発も受ければ立つ事はできなくなる程のダメージを受けている事が分かる。
「くっ!なぜ分かった!?」
「攻撃を受ける直前に、僅かだが魔力を放つ気配を感じた。なんらかの魔道具で魔法を任意の場所で自由に発動できるのだと思った。そして攻撃は全て俺の死角から、ならば止めは首から上を狙ってくるだろうと予想した。そして頭上に感じた僅かな気配・・・魔法を切り落とすつもりが、まさか手があるとは考えつかんかったがな」
「チッ、確かに魔法を放つ気配は隠しきれるものではない。だが、あの状況でよくもそこまで・・・」
無論、マーヴィンとて何度も攻撃を受け、ギリギリの状況の中で冷静さを失わずに考え気付けた事だった。余力もあまり残ってはいない。
テレンスは視界が戻らないと悟ったのか、目元を拭っていた左手を下ろす。
そして右腕でローブを払いのけるように振るうと、肘から先は切断されたかのように消えていて、ぼんやりと僅かな光に包まれていた。
「ほぅ・・・そんなふうになるのか?実に興味深い。貴様は両手を消す事も出す事も、自由にできる。そういう能力で間違いないようだな」
「その通りだ。こんな風にな」
テレンスの消えていた右肘から先が、瞬き程の一瞬の間に元通りに付けられている。再生というよりも、外した物をはめたという印象だった。
「これが僕の魔道具、幻の腕、だ。そして魔道具と言ってもこの通り生身だ」
テレンスは右手を前に出す。
マーヴィンに斬られた右手が血を流している事から、義手ではないと証明している。
「ほう、目も塞がれていると言うのに、そこまで手の内を明かすとはな。覚悟を決めたか?」
「いいや、自信だ。視覚を奪われたくらいで僕を封じたと思わない事だな。じいさん、あんたもけっこうやるけど、限界は近いはずだ」
「フッ・・・・・」
それ以上の会話は不要だった。
相対する両者の気力が高まり、緊迫した空気は肌を刺すようなプレッシャーとなってぶつかり合う。
戦いを見守っていたマーヴィンの側近達だが、大きく距離を取らざるを得なかった。
技に巻き込まれかねないこの状況では、しかたのない事だった。
睨み合うマーヴィンとテレンス。
決着の時が来た。




