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【346 仮面の下】

「・・・発光弾か、おそらく味方に自分の状態、戦局を伝えたのだろうな・・・」


ペトラの斬空閃に喉を切り裂かれたディーン・モズリーは、息を引き取る最後の瞬間、空に向かい発光弾を撃ちあげた。


夜の闇が突然の黄色い光で照らされ、ペトラは眩しさに目を細めた。


この光は自分の読み通り、味方へ現在の状況を伝えるためのものだろう。

だが、現在前線はエリンが隊を立て直し、帝国軍を押し返している。


フローラ率いる白魔法部隊のおかげで、死傷者も最小限に抑える事ができている。

戦場の勢い、支配がカエストゥスにある今、そう簡単に崩される事は無い。


ペトラは前線で戦っているエリン隊よりも、さらに先へ目を向けた。


闇夜で何も見えるはずはなかったが、不意に小さな明かりが見えた。


いや、小さいと言ってもここからあそこまで1,000メートル以上離れているだろう。

これだけ離れていても見えるのだから、現場ではかなりの大きさだろう。


おそらく炎だ。

ペトラはエロールとルシアンの戦いが始まったのだと感じていた。



帝国軍との戦いが始まると、エロール率いる隊は、闇に紛れ帝国に気付かれないよう大きく迂回をしながら、遥か後方に陣取るルシアンの軍隊に向かい進んで行った。


エロールからの申し出だった。


偵察隊の調査、そしてエリンの遠目の鏡で帝国の陣形を丸裸にすると、ルシアンが後方に待機している事が分かった。


モズリー率いる隊だけが先発して向かってきたが、状況次第で加勢に入る事は予想に易い。

そうなる前に、敵の戦力が分かれている内に、ルシアンだけは確実にとっておきたい。


ペトラはそう話すエロールに、別動隊として行動する事を許可した。

エロールの率いる部隊は総数5,000人程である。対するルシアンの隊は、一万弱というところだろう。モズリー隊に人員を多くさいているようだが、それでもエロール隊の倍はいる。


だが、エロールは一対一で、第三師団長のジャック・パスカルに勝利した。

最も戦いに不向きな白魔法使いであるが、誰よりも卓越した戦闘センスを持っている。


そして、隊を仕切る指導力、人を引っ張て行く強さまで備えていた。


エロールならばやり遂げるだろう。

そう思わせるだけのものをエロールは持っていた。



「・・・絶対に生きて帰って来いよ。フローラが待ってるからな」


フッ・・・どうやら私はあの二人が気に入ってしまったようだ。

少しだけ口元に笑みを作る。



そしてすぐに表情を引き締めると、ペトラは前線へと上がって行った。


モズリーとの戦いで体力も大分消耗させられたが、まだ十分戦えるだけの力を残している。

モズリーの敗北による動揺、そしてペトラが戦線に加わった事で、帝国軍はここから一気に崩されていった。





「くっ、貴様!」


「ハッ!やるな!だが・・・」


エロールの振り下ろした反作用の糸は、ルシアンの頭ではなく、ルシアンが咄嗟に顔の前に出した槍の腹を砕いていた。


ルシアンの頭を狙った攻撃だったが、槍で受けられてしまった事で、ルシアン自身にはダメージが与えられていない。振り抜いた事で、すぐにはマフラーを防御に回す事はできない。

ここで反撃を受ければ、それがただの拳の一撃だったとしても、エロールを戦闘不能に陥らせる事は可能だった。


だが、ルシアンも槍の両端を持っていたため、それが二つに砕かれた衝撃でバランスが崩れ、反撃に遅れが出る。


結果、エロールが振り抜いたマフラーを戻し、結界を張ったその時、ルシアンが体勢を立て直し、拳を撃ち込んできた。



「ヘッ!惜しかったな」


「チッ、すばしこいガキだ・・・」


ルシアンの拳は、エロールの青い輝きを放つマフラーによって止められていた。


エロールの魔道具、反作用の糸を知らない者からすると、実に不思議な光景だった。

少し風が吹けば飛ばされそうな、見るからに柔らかく軽そうなマフラーで、自分よりはるかに体の大きいルシアンの拳を受け止めているのだ。


舌打ちをすると、ルシアンは一歩後ろへ下がった。

このまま攻撃を続けても、エロールの結界を突破できないと判断しての事だ。



「なるほど・・・よく分かった。貴様を潰すには、その魔道具を突破せねばならんという事だな」


軽く息を吐くと、観察するように目を細め、エロールのマフラーを見やる。


「そういうこった。だが、お前にできるかな?今のが最高の技なら、俺の反作用の糸には勝てねぇぞ」


攻撃に移る事を教えるように、マフラーを鎖鎌のように回し始めた。



余裕を見せているが、エロールはルシアンを甘く見てはいなかった。


今程受けた槍の一撃は防ぐことはできた。

だが、燃え盛る炎が壁となり、ルシアンに見えてはいなかったが、エロールは楽に防げていたわけではない。


上空から叩きつけられた凄まじい炎の圧力で、エロールの結界には亀裂が入り、打ち破られる寸前だった。

全力で魔力を放出し続け、ルシアンのボルケーノはなんとか凌ぎきった。

だが、これを凌いだ事ですぐに一つの懸念が頭に浮かぶ。



ナパームインパクトは、これ以上の威力なのかと。



街を数十メートルの広範囲で吹き飛ばしたナパームインパクト。


果たして自分の結界で受け切れるのか?


自分の結界は、本職の青魔法使いの結界にも劣らないという自信はある。

むしろそこいらの青魔法使いより、よほど頑丈だとも思っている。


エロールは自信家ではある。だが、自分を過大評価する事も、敵を過小評価する事もない。

冷静に現実を見て、その上で対策を立て行動を考える。



・・・厳しいな。


その上で出した答えだった。


ここまではルシアンの油断もあり、エロールが攻勢に進めている。

だが、ボルケーノを防いだ事で、ルシアンの自分を見る目がハッキリと変わった。


もはや格下とは見ていない。

最大限の警戒を持って向かってくるだろう。




あ~あ、全く嫌になるぜ。

自分でこいつの相手を買って出てなんだけどよ、こいつ強ぇわ。

斧野郎の時みたい、乱れ打ちでぶちのめせればいいけど、こう警戒されるとさすがに難しいな。


しかも、まだ大技残してやがるしよ。

俺一人に使ってくる事はねぇと思いたいけど、こいつウィッカーとジョルジュの二人に使ったって言うしな。必要とあらば躊躇なくやりそうだ。やっぱ俺一人で来て正解だったか。


隊の連中連れてゾロゾロ来てたら、さっきの炎でもかなりの被害が出てただろうしな。


まぁ、勝ち筋がねぇわけじゃねぇ。

幸いと言うか、予想通り帝国軍もこの一対一に邪魔入りしねぇんだ。

それならなんとかなる。


「オラ、かかってこいよ。まさか白魔法使いにびびってんのか?」


間合いを計りながら、じわりと足を動かす。

ルシアンが迫った時、カウンターの一撃をぶつける事が狙いである。


身体能力で大きく劣るエロールがルシアン勝利するためには、後の先を取る手段が有効であり、それしかないとも言える。


ルシアンが構えている状態で向かって行っても、かすることさえできず一撃の下に葬られるであろう。

エロール自身、それがよく分かっているからこそ、挑発を繰り返しルシアンに向かって来させようとしているのだ。





フッ・・・浅はかだな?

貴様の狙いなどお見通しだ。

魔法使いの貴様が、運動能力で私に叶うはずがない。

その挑発は、私に接近させてのカウンター狙い。そうなのだろう?


貴様のそのマフラーが、結界と爆発系の魔法を使用できるのは分かった。

だが、おそらく飛び道具はない。

切り札として取っている可能性はあるが、そのマフラーはそこまで万能ではないだろう。


ならば、この私に対して接近戦を挑むしかない。

しかし、自ら私に向かってきても、攻撃をぶつける事はできない。そこまで分かっているようだな?

ならばどうするか?


やはりカウンターしかなかろう。

フッ・・・私の攻撃を止める自信はあるという事か?


先の一撃で自信をもったのかもしれんが、このルシアン・クラスニキも随分舐められたものだな。


このまま貴様の挑発にのらず、遠距離から削っていけば100%勝てる。

こいつが魔法使いである以上、いつかは魔力が切れて結界を維持できなくなるからだ。


だが、それでは面白くないな。


貴様はこの私に一撃を食らわせ、ボルケーノまで止めたのだ。


部下の前で大恥だよ。


その償いはしてもらわんとな。



ルシアンの顔に歪な笑みが浮かぶ。

爽やかな仮面の下の隠された、破壊の紳士と呼ばれるもう一つのどす黒い感情が姿を現した。



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