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【335 弥生の気持ち】

目が覚めた時、最初に目に入ったのは、板張りの天井だった。

ぼんやりと眺めていると、だんだんと意識がはっきりしてくる。


「・・・そうだ、戦いは?」


アタシは、あの少女、マイリスと戦って勝利したところまでは覚えている。

でも、あの子が倒れたところから先は、何も覚えていない。


体を起こそうとすると、まるで油の切れた機械人形のように体が軋む。

ひどい倦怠感に襲われながら、やっと上半身を起こしたところで、白い毛布が胸から落ちる。

自分がベットに寝ていた事に気が付く。


「痛っ!」

頭が痛み、右手で掴むように押さえる。頭だけじゃない。腕も足も、まるで全身が筋肉痛のようだ。



木作りの扉がかすかに軋む音を立てて開くと、トレーに水差しを乗せたパトリックが部屋に入って来た。


「あ!ヤ、ヤヨイ!気が付いたのか!?」


アタシが体を起こしているのを目にするなり、パトリックはテーブルの上にトレーを置いて、急ぎ足で近づいて来た。


「大丈夫か?何度もヒールをかけてもらったんだが、一向に目を覚まさないから心配したぞ。具合はどうだ?」


ベット脇に片膝を着いて、アタシの手を握ってくる。

その顔を見れば、どれだけ心配してくれていたのか伝わって来る。



「心配かけてごめん。なんかだるいし、あちこち筋肉痛みたいだけど、この通り大丈夫だよ」


アタシが笑いかけると、パトリックはようやく安心したように、ほっと息を付いた。


「・・・そっか、それなら良かったよ」


「あはは、心配性だなぁ・・・ねぇ、ところでアタシ、あの子を倒したところで気を失ったみたいでさ、何も分からないんだけど、戦いはどうなったの?」


「あぁ・・・戦いは終わったよ・・・」




パトリックの話しでは、アタシは丸三日寝ていたらしい。



アタシはマイリスが倒れた後、そのまま一緒に倒れたようだ。

帝国兵も、アタシとマイリスの一騎打ちに目を奪われていた事、そしてマイリスが一太刀で倒された事で、その後の行動を決めるまで、少しばかり時間がかかってしまったらしい。


とにかくアタシに止めを刺さなければと、黒魔法使いが攻撃に入ろうとしたところで、パトリック率いるカエストゥス軍が追い付き、間一髪アタシを護る事ができたそうだ。


その場にいた帝国兵を全滅させると、再びパトリックはメディシングに引き返し、メディシングで攻防を繰り広げる帝国軍を全滅させる事ができたという話しだった。



「そうだったんだ。ごめんね、パトリックが、みんながいなかったら、アタシ死んでたね」


自分が突っ走って行ってしまうのは自覚がある。アタシは戦いになるとどうしても一直線に向かってしまうようだ。

ただ、今回はそれでパトリックにも、軍のみんなにもだいぶ無理をさせ、迷惑をかけてしまった。


俯いていると、ふいにパトリックが指先でアタシの頬を差してきた。


「え?なに?」


普段、そういうちょっかいを出さないのに、なんで急に?

驚いて顔を上げると、パトリックは優し気な笑顔を向けてくれた。


「弥生、俺は旦那だから迷惑なんて事は気にしなくていいよ。それに、軍のみんなも自分達から、風姫に続け!なんて叫んで突っ込んで行ったから、悪い印象は持っていないさ」


「・・・そうなの?でも・・・・・」


「そうだね。今回は弥生のおかげで敵の指揮官も討ち取れたし、この戦いにも勝利できたけど、もっと安全で確実な手段もあったと思う。軍のみんなには、もう少し体が回復したら挨拶に行こう。それと、俺も弥生のフォローに徹すると決めてはいたけど、キミが自分の戦い方を見直すんなら、一緒に話して決めようよ」



「パトリック・・・うん、分かったよ」


アタシがそう返事をすると、パトリックはアタシの顔を少し見つめて、納得したように頷く。

コップに水差しから水をついでアタシに手渡してくる。


あまり意識してなかったけれど、喉はとても乾いていたようで、一気に飲み干してしまう。



「・・・ねぇ、ヤヨイに会いたい?」


コップをパトリックに返す。

ふと思いついたように、そんな質問をしてみた。


パトリックの妻は、あくまでもう一人のヤヨイだ。アタシじゃない。



いきなりそんな質問をしてくるとは思わなかったのだろう。

パトリックはきょとんとしたように目を丸くするが、すぐに大口を開けて笑った。


「あはははは!なに言ってんだよ、そりゃ会いたいに決まってるじゃないか。でも、キミだって弥生だろ?たまにはゆっくりしていったらどうだい?」



意外な返事・・・ではなかった。そうだ、パトリックはアタシという存在も、妻として見てくれている。決してヤヨイと分けたりしない。

だから、こんなふうに答えてくれるかもしれないと、心のどこかで思っていた。


「あはは!そんな事言って、ヤヨイが聞いたら嫉妬するかもしれないよ?」


「え?ヤヨイが弥生に嫉妬するのか?同じ弥生ヤヨイじゃないか?う~ん、なんか言ってて混乱してきたぞ」


パトリックが腕を組んで頭を捻り、ヤヨイが弥生で、とか言い出したので、アタシは笑いが止まらなくなってきた。



ヤヨイ・・・本当に良い旦那だね


アタシも羨ましくなってきたよ


安心して、取ったりしないから


でも、今回はもう少しだけこっち出てていいかな?


アタシも戦い以外で・・・ちょっとだけこの世界に居場所を感じてるんだ



心の中でヤヨイが笑ってくれた事を感じる


ありがとう・・・・・アタシの中のもう一人のヤヨイ・・・


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