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【334 対峙】

「くっ・・・なぜ?なぜ急に当たらなくなった?」


マイリスの狙いは変わらず正確だった。百回撃てば百回当たる。決して外す事はない。

外すことなどありえない。マイリスはそれほどの腕の持ち主だった。


だが、ここに来て突然躱され始めた。

狙いは外していない。という事は、相手に見極められている。


「・・・すごいですね。さっきまであれだけ撃たれていたのに、むしろ強くなっている。あなたはどういう人なのですか?」


これ以上撃っても当たらないだろう。

そして、敵の姿も小さくだが見えるようになってきた。マイリスはもう詰められていると理解した。




「・・・皆さん、覚悟はできてますか?」


後ろを振り返り、この場に残っているおよそ1,000人の魔法使い達の顔を見渡す。


誰一人怯えを見せない、強い目をしている。


「はい!もちろんです!」

「敵も無傷という事はないはずです!」

「マイリス様!帝国の強さを見せてやりましょう!」



そう、無傷と言う事はないだろう。

なんらかの手段で爆発を防いでいる事は分かったが、吹き飛ばされるという事は、衝撃までは無効化できていないという事。

ならば、ダメージは絶対にある。


マイリスの考えは当たっていた。そして、自分とここにいる1,000人の魔法使いが一斉にかかれば、

十分に勝機はあるはずだと考えた。



例え死んでも、この敵だけはここで討ちとらねばならない。

それが帝国の勝利に繋がるはずだ。


だが、マイリスは思い直したように首を横に振り、自分を見る帝国兵達に向き直った。


「・・・僕一人にやらせてください」


なぜ急に?


どよめきが起きる。当然だ。全員でかかればおそらく勝てる。だが、一対一ではどう転ぶかわからない。

むしろ、ここまでかわされているだけに、不利だと思える。


だが、マイリスの意思は固く、その目から断固たる決意を感じ取った帝国兵達は理解を示したように口を閉じた。



「ヘリングさん、僕に力をください・・・」


マイリスは拳を握り締め、自分の頭上で止まった弥生を睨み上げた。







風の道しるべを頼りに、敵の指揮官の元にたどり着いたアタシは、地上から4~5メートル程上空で止まり、その子を見つめていた。


そう、ボスとか大将とか、そういう言葉は合わない。

その子、この子、こういう言い方がしっくりくる。


だって、どう見ても15~16歳くらいの女の子なんだから。



「・・・ふーん、ちょっと意外かな。こんな小さい女の子が指揮官なんだ?」


アタシの独り言のようにそう呟くと、帝国兵の間にどよめきが起きた。


え、女の子? なんて言った? 誰の事? まさかマイリス様?


色々な言葉が耳に入り、アタシも一瞬眉を寄せたけど、すぐに検討がついた。


きっとこの子、この指揮官の女の子は自分が女である事を隠して、男として生きてきたんだ。



「・・・ってか、こんだけいて何で誰も気づかないのさ?全員節穴?」


まぁ、アタシには関係ないんだけどね。

でも、なんとなく毒気を抜かれて、アタシは地上に降りた。


ほんの数メートルの距離を空けて、アタシは目の前の女の子と視線を交える。



「・・・なんか、ごめんね。あんた、女だって隠してたんでしょ?」


今だに後ろでざわついている帝国兵を尻目に、女の子に話しかけてみた。

何となく話してみたかっただけだ。返事が無ければそれでもいい。


でも、女の子は少しだけ意外そうに眉を上げると、口調は冷たかったけれど言葉を返してくれた。


「・・・別に、男だ女だなんて、もうどうでもいいんです。僕は、この力のせいで色々嫌な思いをしてきました。しかも、女となると余計にあたりがキツくて・・・あまく見られてしまうんでしょうね。だから、男と偽ってきました。でも、帝国軍に入って、いつか・・・本当は女なんですって、打ち明けたい人ができたんです。でも、その人はもういなくなってしまいました・・・だから、もうどうでもいいんです」


悲しみが痛い程に伝わってくる。

その口から紡ぎ出される言葉、一言一言に喪失感が満ちていた。


「そう・・・うん、気持ち、分からなくはないよ。会いたい人に会えないって辛いよね」


アタシだって、日本にいる母にも、新にも修一にも会えない。

この子の気持ちも分かる。


「・・・そう、あなたも・・・・・・あなたがカエストゥスの人でなければ、もっとお話しできたのにね」


女の子は右手を前に出すと、アタシに向かって人差し指を突きつける。


「ぼく・・・いえ、もういいですね。私は、マイリス・グラミリアン。あなたは?」


マイリスの人差し指に魔力が集まり、高まっていく。


「・・・アタシは弥生、新庄弥生。じゃあ、決着つけようか?」


マイリス・・・あんたみたいな子、嫌いじゃないよ。

こんな出会いでなければ、友達になれたと思う。


アタシは愛用の薙刀、新緑を上段に構えた。



静かだ。

まるでここだけ時間が止まってしまっているような・・・・・



数百、いや千人はいるかもしれない。

それだけの数の魔法使いが揃っているのに、誰一人としてこの場に割り込んでこないのは、それだけこのマイリスという指揮官を信頼しているから?


それもあると思う。だけど・・・きっとこいつらもこの戦いを見届けたいんだと思う。


自分達の指揮官と私、どっちが勝つか・・・いや、このマイリスが勝つところを。




刹那の瞬間、マイリスが微笑んだように見えた。


私も笑っていたと思う。


マイリスの指先が光ったその時、私も大きく踏み込み上段を振り下ろしていた。





「・・・あなた・・・強いんですね・・・」


アタシの薙刀、新緑がマイリスの左胸から右脇腹へと、袈裟懸けに斬り裂いていた。


「・・・あんたもね・・・どっちが勝っても、おかしくなかった」


アタシの右肩は赤く焼けただれて、血煙が上がっている。

骨も折れているようだ。


あの瞬間、残った力を全て光に変えて上段からの一撃を放った。

マイリスの射撃とほぼ相打ちだったが、アタシの刃はマイリスの体を袈裟懸けに斬り裂いた。


一瞬早く、アタシの刃が届いたからだろう。

マイリスの射撃は、僅かに狙いがそれてアタシの右肩をかすめていった。

アタシの光を貫いて・・・・・


最後の一撃は、アタシの光を突破する程の攻撃力だった。

正面から受けていれば、死んでいただろう。


もう光も消えてしまった。

ギリギリ、薄氷を踏む勝利だった。



「・・・ヘリング、さん・・・・・」


血しぶきを上げて、マイリスは倒れ伏した。




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