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【325 窮地】

誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。

あと少しで帝国兵に壁際まで詰められるところだったが、五体の氷の竜は、帝国兵の結界を破り、一人また一人と氷漬けに変えていき、帝国兵を押し戻し始めた。


その五体の氷の竜も、すぐにマイリスの追撃でコナゴナに砕かれてしまうのだが、パトリックの時間差をつけた策が功を奏し、ヘリング以外の帝国兵は壁まで進む事はできずに足を止められていた。


だが、壁まで到達できずとも、帝国の黒魔法使いと弓兵も、十分に射程距離まで詰める事はできていた。


帝国兵の放つ火魔法には氷の魔法を当て、爆発魔法には爆発魔法で相殺する。

飛んでくる弓を火魔法で焼き消し、上級魔法を結界で防ぐ。


一進一退の攻防がメディシングで繰り広げられていた。





「ふぅ・・・お前、名前は?」


ヘリングは一つ息をつくと、正面で剣を構えるルチルに軽い口調で声をかけた。

外見にはダメージは見えないが、深紅の鎧がところどころひび割れている事から、ルチルの攻撃が何度か届いていると分かる。


それに対し、ルチルはかすり傷一つ付いておらず全くの無傷だった。


「・・・ルチルだ。ルチル・マッカスキル、この軍の副官を務めている」


ルチルは聞かれたままに名前を答えた。

ルチルの名を聞くと、ヘリングは、そうか、と一言だけ口にすると、深紅の鎧から発していた炎を解除した。



「ルチル、俺は速さには自信があんだけどよ、お前は俺が捉えきれない程の速さだ。ちょっと信じられねぇけど、実際こうして相手してるわけだしな・・・・・」


ヘリングは顎に手を当てる。話しながら状況を整理しているように見える。

ここまでの攻防で、ヘリングはルチルにただの一撃もかすらせる事すらできていなかった。

それもすべて、ルチルの圧倒的なスピードに対応できなかったためだ。

しかし、ルチルもヘリングの深紅の鎧から発せられる炎により、攻撃を届かせる事に困難をようし、かろうじて数発かすらせる事が精いっぱいだった。



最大の障壁と言っていい炎を解いた事により、一見するとルチルが攻めやすくなったように見えるが、ヘリングは話しながらもルチルの僅かな動きも見逃さないように目を見張っており、一部の隙も無い。



速さで圧倒しておきながら矛盾する事になるが、自力には大きな開きがあった。

そう、ルチルは速さだけヘリングを上回っていた。だが力も技も戦闘経験もヘリングに遠く及ばない。


なぜ速さだけヘリングを上回れたのか・・・・・



「お前よぉ~、なんかやってんだろ?」


「なんかって何?大雑把過ぎない?」


目を細め、秘密を暴こうとするような視線を向けるヘリングに、ルチルは表情を変えずに問い返した。

十秒足らずの短い時間だが、ヘリングとルチルがその視線を交え睨み合う。



「・・・ヘッ、男でも女でも、大抵のヤツは俺に睨まれると、ビビッてすぐに大人しくなっちまうんだけどな。お前は気が強ぇしなかなか良い女だな」


「なに言ってんの?剣を向けられてる女をナンパ?」


「そうしてもいいんだけどよ、マイリスがうるせぇからな。悪いが戦闘続行だ」


口の端を上げてそう言うと、ヘリングの両手が炎に包まれた。



「普通に攻撃しても、どうしてもお前にあたらねぇ、直線的な攻撃が駄目だってのは分かった。面倒くせぇけど、しかたねぇな・・・俺にこの技をつかわせた事を誇りに思って死にな」


深紅の鎧から発せられる炎が、全て両手に集められている。ヘリングの両手は炎が吹きあがり、集中したそのあまりの熱量は、ルチルを大きく後ろに飛び退かせた。



「おいおい!これで下がってたら一瞬で終わっちまうぞ!」


ヘリングは両手握り合わせ高々と上げると、その手に宿した巨大な炎が天に向かって激しく吹き上がった。


「こ・・・これは!」



その巨大で激しく燃え盛る炎は、コバレフが最後に見せた炎の柱と酷似していた。

コバレフは全身から炎を発していたが、ヘリングは両手に集めた炎を噴射させているようだ。

大きな違いは、ヘリングの炎は両手から放出している事から、自在に動かせるであろう事が予想できた。



・・・ドミニク隊長・・・あなたはこの炎に焼かれてまで、私達を助けてくれました。


ルチルの目に映る炎には、あの日コバレフを倒すために命を落としたドミニクの姿が浮かんで見えた。


「・・・これは、私が越えなければならない過去。あの日、何もできなかった無力な自分を超えてみせる・・・・・来い!ヘリング!」


「・・・いい根性だ。敵にしておくはもったいねぇくらいだぜ。さぁ、いくぞ・・・」


ヘリングの目は鋭くルチルを見据えているが、その眼差しには怒りや憎しみという負の感情は無く、純粋に目の前の強い相手を歓迎する。戦いを楽しむ喜びに満ちていた。


ヘリングとルチルの視線が交差し互いの出方を見る。


高まる緊張感と炎による熱気に、二人の周囲の景色が歪んでいく・・・


ルチルは後の先。カウンター狙い。

それは分かっていた。あえて乗ったのは戦闘におけるヘリングの思考。一方的に楽に勝つ事が信条だが、自分が認めた強者との戦いは、真正面からぶつかっていく。



・・・ルチル、躱せるもんならかわしてみろ!


ヘリングの目が意を決したように開かれた。

高く上げた両手の炎がさらに強く激しく高く燃え上がる。



天地焦炎斬てんちしょうえんざん



天まで届く巨大な炎の柱がルチルに振り下ろされた。






「くそっ!この野郎、魔力も無尽蔵なのか!?何発撃ってきやがる!?」


時間差での攻撃でマイリスの隙をついたパトリックだったが、それもすぐに撃ち破られた。


石壁の上に立つ、パトリックと上級魔法要員に狙いを定めた攻撃が止む事なく撃ち込まれ、パトリックと青魔法使いは結界で防ぐ事だけにその手を止められていた。


「パトリック様、もう駄目です!帝国兵も我々の結界の目の前に詰めてます。この結界が破られれば、壁は一瞬で破壊されてしまいます」


黒魔法使いの一人が険しい顔で状況を伝えてくる。

パトリックにも十分に分かり切った事だったが、あらためて言葉にされると、否が応でも厳しい現状を思い知らされる。


「くっ・・・増援が来るまで、どのくらいかかる?」


「写しの鏡で現状を伝えましたが、やはりどれだけ急いでも10時間はかかるとの事です。ここが、これほど早く追い込まれたのは完全に計算違いです」



パトリックは内心で舌打ちをしながら、現状をどう切り抜けるかに頭を回転させていた。

メディシングの防御力を考えれば、当初5000人で配置させた事は妥当と言える。

兵力にも限りがある。首都の防衛もあるし、他の戦場に兵を回す可能性を考えれば、首都に兵を待機させておく事も当然と言える。


だが、この状況で10時間・・・・・


遠距離攻撃だけでなく、敵の魔法兵に一斉攻撃を受け、全青魔法使いによる結界もギリギリだった。



「・・・ここは任せるぞ。俺が出る」


「パトリック様、それでは・・・」


黒魔法使いの表情に緊張の色が見え、確認するように目を向ける。



「あぁ、俺の雷の指輪で一掃する」



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