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【320 吹雪が上む時】

誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。

ウィッカーの出現に、カエストゥス兵達がざわめき出した。


「あ、あれは、ウィッカー様?」

「そうだ、ウィッカー様が来てくれたんだ!最高の援軍だ!」

「すげぇ!あの灼炎竜をもっとでけぇ竜で呑み込んだ!」


キャシーの灼炎竜が迫った時、死を覚悟していたカエストゥス兵達だったが、ウィッカーが現れキャシーの灼炎竜を一蹴した事で、希望を見出しその士気は息を吹き返した。



空中で対峙するウィッカーとキャシー、くしくも二人は同じ竜の炎を身に纏い、睨み合っていた。



「・・・ここの指揮官はジャキル・ミラーかと思ったが・・・いないようだな?」


キャシーから目を逸らし、地上を見渡す。

魔力も探ってみるが、カエストゥスで対峙した時に触れたミラーの魔力は、どこからも感じ取る事ができなかった。


ウィッカーの独り言のような問いかけに、キャシーは何も言葉を返す事はせず口を閉ざし、

ただウィッカーの一挙手一投足を見据えていた。



「・・・そうか、今ここにいないという事は・・・・・死んだか」



それはキャシーへの確認を必要としていない口ぶりだった。


ウィッカーは戦場を見て、戦いが終盤だという事を一目で理解した。

そして、この場面にいないという事は、その者は戦う事ができない状態・・・怪我で戦線を離脱した可能性もあるが、指揮官であるあの男が戦場を離れるだろうか?

そう考えた時、いないという事は、生きていないという事に、考えが至った。



そして、その考え方をする以上、自軍の状態も冷静に受け入れなければならない。


・・・・・ロビンさん・・・ビボルさん・・・あなた達まで・・・



ウィッカーはビボルとの交流が深かったわけではない。

魔法兵団の古参で、ロビンの同期という事くらいしか分からなかった。


だが、まだウィッカーが幼かった頃には、魔法の教えを受けた覚えもある。

口が悪く、やる気も見えない人だと思っていたが、面倒見は良く、仲間想いな一面もあった。

人付き合いが下手なだけなんだ。

それがウィッカーのビボルへの印象だった。



ドミニクに続いて、ロビンとビボルの二人を亡くした事を察し、胸がひどく傷んだ。

だが、ここは戦場だ。今は生き残っている者を一人でも多く帰す事だけを考えろ。


ウィッカーは正面のキャシーに、右手の平を向けた。



「喰らえ」


先制攻撃はウィッカーの灼炎竜だった。






突然現れ、自分よりも大きな灼炎竜を出したウィッカーに対し、キャシーは身動きが取れないでいた。

驚きがあったというだけではない。

キャシーが身動きを取れず、ただウィッカーを見ている事しかできなかった理由には、圧倒的な魔力の差があった。


キャシーから目を逸らし、地上を見ていたにも関わらず、ウィッカーから向けられる魔力はキャシーを牽制しており、一瞬で実力の差をキャシーに分からせた。



まともにやったら絶対に勝てない。



ウィッカーが現れるまで、逃げると言う選択肢はキャシーには無かった。


だが、正面から戦っても10秒も持たないだろう。

死ぬ事に恐れはない。だが何もできないまま犬死にする事だけはできない。


玉砕覚悟でぶつかるしかないか?

だが、自分まで死んでしまったら、残された兵士達はどうなる?

判断を決めかねキャシーが逡巡していると、それまで地上に目を向けていたウィッカーが、突然手の平を向けて、灼炎竜を撃ち放ってきた。



不意打ちと言う言葉は当てはまらない。

向かい合ってお互いを認識していたのだから。だが、キャシーからすれば、唐突な攻撃だった事は否めない。


「くっ!」


足元に纏った風を操り、左へ大きく飛び退いて灼炎竜を躱す。


だが、当然灼炎竜もキャシーを追う。

灼炎竜は術者が操り攻撃できる事が最大の利点である。


ウィッカーの意のままに動く灼炎竜は大口を開けてキャシーを喰らわんと迫る。






「問答無用で撃ってくるとは・・・」


カエストゥスで一番と言われる黒魔法使い、ウィッカーの事は知っていた。


確かにそう言われるだけの事はある。

こうして対峙して感じた魔力の強さは、自分なんて話しにもならない程だった。


「精神的なあまさがある。そうも聞いていたけど、敵とみなした相手には容赦がないな」



話しに聞いていたウィッカーという男の認識をあらためた。

この男の本質は分からないが、少なくとも敵であれば、女でも容赦なく撃ってくる。


「・・やむを得ん!」



再び大口を開けて迫る灼炎竜を飛び上がり躱すと、キャシーは何かを決断したように、深紅のローブの衿に手をかける。


今戦っても勝てない。兵達を護る事を考えるべきだな。

ならば・・・


ウィッカーの灼炎竜はどこまでも追いかけて来る。

キャシーの身に纏う炎など、ものともせず呑み込んでしまうだろう。



「今が吹雪で良かったよ」


キャシーは深紅のローブを脱ぎ捨てると、その身に纏う灼炎竜を解除した。途端に吹雪がキャシーを隠し、炎を視認し追っていたウィッカーはキャシーを見失ってしまう。




決断したキャシーの行動は素早かった。

キャシーは地上へ降りるなり、退却命令をだした。


帝国兵も、命を惜しむ気はなかった。

だが、無駄死にする事だけはできない。


ほんの僅かな時間だが、ウィッカーの魔力を肌で感じたキャシーは、現在の戦力ではウィッカーに傷一つ付ける事さえできずに全滅する。

それほどの力量の差を感じとった。


「ミラー様、フルトン様、申し訳ありません。勝機を無くした今、みすみす兵を死なせる訳には行きません。明日の勝利のために撤退致します」





キャシーの姿を見失ったウィッカーだが、すぐに魔力探知に切り替えた。


たった今まで感じていたキャシーの魔力を探る。

だが、キャシーの魔力はまるで消えてしまったかのように、感じとる事ができなかった。


地上では数千人もの兵士達が入り乱れて戦っているため、確かに探りにくい。

気配を消すように魔力を抑え、ウィッカーから見つかりにくくしていることもあるだろう。


だが、それでもここまで見事に消せるものだろうか?



ここでウィッカーが少しの間、空中で思案した事が、帝国の命運を繋いだ。





地上で戦っていたカエストゥス兵は疲弊しきり、撤退をする帝国兵にとても追撃をかけれる状態ではなかった。


このまま戦い続けていたら、更なる死傷者を出していただろう。

帝国の撤退が結果として、多くのカエストゥス兵の命を繋いだと見る事もできる。


吹雪の中、空中にいたウィッカーは、遅れて帝国の撤退に気付く。

キャシーの魔力を探っていた事と、吹雪で視界が悪かった事が原因だ。


どうやったかは分からない。

だが、ウィッカーに見つかる事なく、キャシーは軍の撤退を速やかにやってのけた。



「力の差を見て、すぐに撤退か。優秀な指揮官のようだな・・・」


追うべきだろうか?


遠ざかる帝国兵を見て、ウィッカーは決断を迫られた。

自分一人ならば追える。そして敵を殲滅できるかもしれない。


だが・・・






ウィッカーは地上に降り、生き残った自軍の兵に目を向ける。


消耗しきっていた。

全員傷だらけで、もはや戦う力は微塵も残っていなかった。



・・・・・ロビンさん、あの日あなたに言われた事・・・俺、やってみます



生き残った兵士達は、皆ウィッカーを見ていた。

いずれも何かを期待するような眼差しだった。


誰も何も言わない。口を閉じ、ウィッカーの言葉を待っていた。



やがて、何かを決心したような表情のウィッカーが口を開いた。



「みんな、遅くなってすまない。ここに、ロビンさんとビボルさんがいないという事が、どういう事かは分かっている。二人の事だから、勇敢に戦い、みんなのためにその命を使ったんだと思う。

俺は、気持ちが弱いから、ずっと自分は人の上に立つ事なんてできないと思っていた。でも、弱いなら弱いで、みんなに助けてもらえばいい。昔、ロビンさんにそう言われた事があるんだ。

軍を預かる責任から、ずっと逃げてきた・・・・・でも、今俺がやらなきゃロビンさんに、ビボルさんに、死んでいった仲間達に顔向けできない。

だから、こんな弱い俺だけど、どうか力を貸してほしい!俺について来てほしい!カエストゥスのために!」



頭を下げて偽らざる気持ちを口にするウィッカー。


やがて、一つ、また一つ拍手が鳴り、それはウィッカーを歓迎する大きな音と成った。


自分を新しいリーダーと認めてくれる。

その拍手の大きさに、ウィッカーは顔を上げる事ができなかった。


・・・・・ロビンさん。

俺なんかにあなたの代わりは務まるとは思えないけど、頑張ってみます。




【俺を見本にしなくていいんだ。お前にはお前の良さがある。自分の気持ちが弱いと思うのなら、周りに助けてもらえばいいんだよ。お前一人で人を引っ張らなくていいんだ。周りがお前を認めれば、自然とフォローしてくれるもんなんだよ。俺は、お前はそういうリーダーかなと思っている】


・・・あの日のロビンの言葉が思い出され、ウィッカーの目に涙が溢れた



いつの間にか吹雪は止んでいた


この戦いの終わりを告げるかのように



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