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【318 友よ】

負けるわけにはいかない。


皇帝の行いが善か悪か?

二択で答えろと言われたならば悪だろう。それは分かっている。


だが、ブロートン帝国内だけで見れば、皇帝は良き王であり、完全に善なる存在だ。


この10年で帝国は激変した。

かつては他国と変わらず、格差は激しく貧困者も孤児も多かった。

その日の生活に窮する者への支援など無く、弱者は切り捨てられる事が当たり前だった。



だが、ある日を境に皇帝は変わった。



皇帝が街で拾ったという二人の子供、テレンス・アリームとクラレッサ・アリーム。

浮浪孤児だった二人は、日々の糧を盗みで繋いでいた。


しかし、兄テレンスが掴まり、城へ連行されそうになった時、

妹のクラレッサは、結界でも防げない恐ろしい力を使い、取り押さえようとした帝国の兵士を次々に殺してのけたという。



殺された兵が100人を数えた時、興味を持った皇帝が現場に赴きクラレッサと言葉を交わした。


この時皇帝とクラレッサが、どのような言葉を交わしたかは分からない。


だが、その日から皇帝は、これまで全く関心を示さなかった民へ目を向けるようになり、貧困者への支援を手厚くしていった。

孤児院も十分な数が設置され、至る所で目にした浮浪孤児も嘘のように見なくなった。


数年も経つと民の生活は驚く程に改善され、街は活気で溢れ、子供達の笑い声が絶えない。


今や全ての帝国の民が、皇帝を支持していると言っても過言ではないだろう。



皇帝には何らかの利が合ったはずだ。

皇帝とクラレッサ、あの日二人は何かの契約を交わしたのではないかと私は考えている。


だが、そんな事はどうでもいい。

結果が全てだ。

帝国の民は豊かになった。私の目に映る全ての人が笑顔で溢れている。

それだけでいい。


他国へ侵略戦争を仕掛ける事はどういう事か、それは十分に分かっている。


ロビンは我々帝国を、許されないクズと言ったが、その通りだ。十分に承知している。

むしろそんな生易しい言葉では足りないだろう。



私は帝国で生まれ育った。

私は帝国の民のためならば、喜んで泥を被ろう。

帝国に住む全ての民のために、喜んで命を捨てよう。



だが私も戦場に立つ者として一つだけ譲れないものがある。


それは勝利だ。

戦場で散った仲間達に報いるためにも、この戦いは絶対に・・・・・


「負けるわけにはいかないんだぁぁぁぁーッツ!」



フルトンは喉が張り裂けるのではと思える程強く、声の限りに叫びを上げた。






土竜と灼炎竜がぶつかり合う。

大地を抉り突き進む土竜の衝撃は、15メートル級の炎の竜に対し決して引けをとらず、それどころか僅かながらに押しているようにさえ見えた。



「フル、トン・・・様?」


フルトンの傍らに立つキャシーは、フルトンの顔を見て言葉を失った。


フルトンはその目から、鼻から、血を流していた。


よほど強く歯を噛み合わせているのか、歯茎からも血が流れ出し口の端を赤く染める。

充血し血走った目は、これまで見た事のない鬼気迫るものだった。


そして魔力は枯渇しかけていたはずなのに、体から沸き立つ魔力は衰えるどころか力強さを増し、それに比例するように土竜の威力も上がり続けている。



・・・まさか


フルトンが何をしているのか、キャシーは考え至った。


それは技術として定着しているものではない。

ただ、過去に例がなかったわけではなく、話しに伝え聞いた事があるだけだった。



底をついた魔力の代わりに、命を削っているのだ。



それは不可能ではないが、代償は大きい。


すでにフルトンの目と鼻から、血が流れ出ている事からも、体内に大きなダメージを受けている事が分かる。

このまま続ければ・・・いや、今すぐにでも止めなければフルトンは死ぬだろう。

おそらく過去最大の威力を放つ土竜を見て、キャシーは察した。



フルトンの肩に手をかけようとすると、正面を向いたままフルトンが口を開いた。



「キャシー・・・止めないで・・・ください」



キャシーの手が止まる。

フルトンは振り返らない。


「・・・帝国は・・・負ける訳には・・・いかない、のです・・・」



「・・・・・はい。その通り・・・です」


手を下げる・・・・・


一歩下がろうとして思い直す


せめて・・・


フルトン様・・・もし・・・もし土竜が押し負けたら、あなたはそのまま竜に呑まれるでしょう


その時は・・・


「せめてご一緒させてください」



その言葉が何を意味しているか・・・・・

感覚的に分かったが、フルトンは返事はしなかった。


だが、自分のすぐ傍に立つキャシーに、心強さを感じた事は確かだった。








自分の全身全霊の灼炎竜と互角、いやむしろ僅かに押されている。


ぶつかり合う男、ステイフォン・フルトン。これまでの攻防で、魔力は自分が上だと感じていたし、確かな手ごたえもあった。


だが、ここに来てこの魔力はなんだ?

ついさっきまで魔力切れを起こしかけていた人間とは思えない。


ロビンは歯を食いしばり、フルトンの土竜の圧力に耐えていた。


だが・・・



・・・・・押し負ける



限界ギリギリまで魔力を絞り出し、それでも自分の灼炎竜が押されている事で、ロビンは嫌でも認めるしかなかった。


何をしているかは分からない。

だが、このフルトンという男は、今この瞬間自分を超える魔力で攻撃を繰り出している。



ロビンさえ倒せばここで死んでもいい。

そこまで覚悟を固めこの一騎打ちに挑んだフルトンの執念が、自力で勝るロビンを上回った。



そして・・・・・


限界を超え、その命さえ差し出したフルトンの土竜が、ロビンの灼炎竜を打ち破った。


土竜の直撃は大爆発を起こし、その衝撃と爆発はセインソルボ山を揺るがした。








「ぜぇ・・・ぜぇ・・・がはっ・・・」


土竜がロビンに直撃した事を見て、フルトンはその場に崩れ落ちた。


「フルトン様!」


仰向けに倒れたフルトンを見て、キャシーも腰を落とす。


抱き起そうとして、キャシーの手が止まる。



・・・・・これは・・・もう・・・・・



フルトンは、目、鼻、そして耳からも血を流し、息も絶え絶えだった。



命を削り、無理やり魔法を使う代償の大きさ。


だが、命と引き換えでなければロビンの灼炎竜には勝てなかっただろう。


国のためならば命でさえ差し出す。


フルトンの帝国を想う気持ちは本物だった。



「・・・フルトン様、聞こえますか?あなたの勝ちです。これでこの戦場は、帝国が勝利を治めるでしょう。ご立派でしたよ・・・・・」



もはやフルトンには聞こえていないだろう。


キャシーはフルトンの頭をそっと持ち上げ、自分の胸に抱く。


「・・・ご立派でした」


もう一度繰り返す。



返事は無い。浅く早い呼吸が徐々に浅くゆっくりになっていく。


土竜による大爆発、そして打ち破られた灼炎竜は火の粉となり、まるで炎の雨のように散っていく。


カエストゥスと帝国・・・両国がぶつかり合う戦場で、キャシーとフルトンの、この空間だけが隔離されたように静かだった。



キャシーの金色の瞳が優しく、そして愛おしそうにフルトンを見つめる。



・・・気持ちを伝えた事はなかった


私もフルトン様も帝国のために戦う魔法使い・・・・・軍人だ

いつどの戦場で死ぬかも分からない・・・・・ならば今の関係が・・・お互いの重荷にならない今の関係が一番良いのではないか?


そう思い、今日まできた・・・・・


だけど、やはり私は任された指揮を放り出しフルトン様の危機に駆け付け、フルトン様もロビンを攻撃せずに私を助けた



「ふふ・・・・・気持ちは一緒だと・・・そう思っていいですか?」


・・・気持ちを伝えた事はなかった・・・でも、最後くらい軍人という事を忘れ、正直になろう



「フルトン様、愛しております・・・」



聞こえたのかは分からない


だが、呼吸が弱まり止まるその瞬間、少しだけ笑ったように見えた



「・・・・・安らかにお眠りください。あとは、私が・・・・・・・」



その場にフルトンを横たわらせ、キャシーは立ち上がった



全ては終わってからだ

泣く事も、悲しむ事も、なにもかも全て終わってからでいい


フルトン様を生かす事はできなかった

だけどカエストゥスもロビンを失った


ならば帝国の勝利は揺ぐ事はない

ここからは私が指揮を執り終わらせる



ミラーからフルトンへ、フルトンからキャシーへ、帝国を勝利へ導くための覚悟と意思が引き継がれる



「・・・聞け!勇敢なる帝国の兵士よ!敵の司令官ロビンは討ち取っ・・・・・」



振り返り、自軍の兵に顔を向け、激励の言葉を上げようとしたキャシーの目に、信じられないものが映った



土竜の大爆発により、火の粉と土煙が舞い、濛々と爆煙が立ち昇る中にその男は立っていた



「・・・ロビン・・・貴様・・・・」


・・・・・あの土竜を受けていったいどうやって



右腕を止血していた氷は融け、切断面からはとめどなく血が流れ落ち、結界刃で斬られた肩、左右の脇腹からも血が溢れだしている


全身が赤黒く焼けただれ、爆発によるダメージの凄まじさを表していた



この時、ロビンに意識があったのかは分からない


あったとしても戦う力は欠片も残っていなかった



立ってはいるが、生きているのか死んでいるかも分からない

だが、そんな死者同然のような男から発せられるただならぬ気配に、キャシーは身動きが取れずにいた







・・・・・おい、もう動けねぇのか?情けねぇな・・・


その声は・・・ビボル?お前、生きてたんだな・・・






・・・・・・・・・・なぁ、ロビン・・・俺は満足してるんだぜ・・・


何の話しだ?


・・・・・楽しかったぜ・・・十数年ぶりに、お前と戦術を練ってよ・・・


不謹慎だぞ・・・これは戦争だ


・・・・・真面目だなぁ・・・やっぱ、お前が隊長で良かったんだろうな・・・


ビボル・・・・・



・・・なぁロビン、まだやり残してんだろ?せっかく見抜いたんだ、もったいねぇよな?


だが、もう体力も・・・魔力も・・・・・




・・・・・へっ、貸し一つだぜ?


俺に・・・力を貸してくれるのか?





・・・・・・・・なぁ、ロビン・・・俺とお前は・・・いや、なんでもねぇ・・・


ビボル・・・・・





「・・・友よ」


それがロビンのこの世での最後の言葉だった


その言葉を口にしてロビンが倒れるまで、時間にして僅か十秒にも満たない短いものだった



左手に握っていた十数センチ程の銀のプレートは、ロビンの魔道具 大障壁だいしょうへき


それを自軍の空に向かって投げた


ロビンは言葉を発せなかった

だが、ロビンを見ていたカエストゥスの兵士が大声を上げた



「あれは・・・全員下がれ!団長の大障壁だ!急いで入るんだ!」


その言葉に、カエストゥスの兵士達は戦闘を止め、全員が後退し銀のプレートの下に移動を始める


空に投げられた銀のプレートは空中で停止すると、青く強い輝きを放ち、その下にいるカエストゥスの兵士達を、その光で包み込んだ


数千人の兵士をもれる事なく包みこんだその青い光は、巨大な結界だった



「こ、これが団長の・・・大障壁・・・」

「初めて見た・・・でもこれって・・・」

「・・・そうだ、天衣結界よりも固いと言われるこれは・・・」

「あぁ、団長が本当に危険だと思われる時にしか使われない・・・」

「・・・なにを、する気なんだ?」



カエストゥス軍が巨大ば結界の中に入った事を見て、帝国軍にざわめきが起きる


なにをしているのか?なにを狙っているのか?

意図が読めず困惑している帝国軍だが、その答えはすぐに判明する事になる



それはビボルの魂が残した魔力だったのかもしれない

ロビンは最後の魔力を左手に集中させた



その動きはしっかりと目的と意思を持っていた

首は力なく下がっていて表情は見えない


だが、その左腕は目標を的確に捉え、一切の迷いが見えなかった



放たれた破壊の魔力は、帝国軍の背後、急斜面の山の中腹辺りに命中する



「な!?まさかっ!ロビン、貴様!」



キャシーがそう叫んだ時には、ロビンはすでに倒れ伏していた


地鳴りのような轟音が山全体から響き渡る



雪崩と共に、爆発によって転がり落ちてきた大岩は、カエストゥスとブロートン帝国を呑み込んだ



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