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【305 セインソルボ山の戦い】

11月下旬になり、チラチラと雪が降るようになった。


カエストゥス国と帝国の国境沿いにある、セインソルボ山。


標高は6636メートルの独立峰である。

山頂部分が雲に覆われており、切り立った崖のような急斜面が多く、巨大な一枚岩という印象だ。


山裾に構えた拠点は大きなテントが張られている。

テント奥の中央に座する、指揮官ロビン・ファーマーの元へ伝令が届いた。


「団長、偵察からの報告が入りましたのでご報告します。まず指揮官が判明しました。青魔法使いのジャキル・ミラーです」


「む、ヤツか・・・」


指揮官の名を聞き、ロビンは何かを考えるように顎に手を当てた。

ブレンダン曰く、ミラーはブレンダンに匹敵する青魔法使いだという。


事実、ウィッカーの攻撃をことごとく防いだという強力な結界は非常に厄介だった。

ロビンは自分が戦う事になった場合、ミラーはやりにくいと思っていた。


「そして、ついに動きがありました。こちらに向かい進軍しております。体力型を最前列に、黒魔法使いと青魔法使いが後方から援護する陣形です」


「・・・ふん、やっと動いたか。何を準備していたかは知らんが、おかげでこちらも体制を整える事はできた。カエストゥスに喧嘩を売った事を後悔させてやろう」


ロビンはイスから腰を上げると、隣に立つ、ダークグレーの髪をオールバックにまとめた男に顔を向けた。



「ビボル、任せたぞ」


「ふん、やっと出番か。では魔法大国カエストゥスの強さを見せてやろうじゃないか」


青地に深い緑色のパイピングがあしらわれている、カエストゥス国の青魔法使いのローブを羽織っているその男は、ブライアン・ビボル。

今回ロビンの補佐に付いた、青魔法使いであり、ロビンの同期で残っている数少ない男である。



年齢は50歳。身体つきは太っている訳でも痩せ気味でもなく、年相応の標準的なもので、背丈は172cmと高くはないが小さいという程でもなかった。

身体的には目立つところは何も無い。


だが、自分の出番を告げられた時、ビボルのその目にはギラリとした狂気が宿り、少しだけ口の端を上げたその表情は、これからの戦いに喜びすら感じているように見えた。



「ロビン、もう一度だけ確認するぞ。俺に任せるって事は、全て俺の好きにしていいんだよな?」


ビボルはやや見上げる形でロビンにその目を向けた。

ロビンに対して確認という言葉を使っているが、ロビンに向けるその目は、今更否定しないだろうな?と言う強い力がこもっていた。


「無論だ。お前を俺の補佐に付ける事が決まった時点で、お前のやり方は全て了承している。ビボル、あらためて言おう。全てお前の好きにしていい。後始末は俺が引き受ける」


ロビンもまた、ビボルの目を真っ直ぐに見返し、断固たる意志を込めた言葉で返した。

少しの間、隣り合う二人は視線を交わす。


やがてビボルは視線を外すと、ロビンに背を向けテントを後にする。


「・・・ロビン、良いツラになったなぁ。戦争になってやっと昔のお前が戻ってきたか・・・クックック・・・」


ビボルは去り際に少しだけ振り返り、ロビンに言葉を残す。

それは若かりし頃、魔法兵団の仲間にすら恐れられた、ロビンを指した言葉だった。




「・・・戻らねばなるまい。これは戦争だ。一切のあまい感情は捨て去らねばならん」


遠ざかるビボルの背中に向け、ロビンは呟いた。










「撃て!撃ち続けろ!上級魔法はいらん!爆裂弾だ!爆裂弾を絶やす事なく打ち続けるんだ!」


ビボルの号令が飛ぶ。横一線に並び立つ黒魔法兵達、その数は千を数える。

彼らは休むことなく魔法を撃ち続けた。


帝国兵は一瞬たりとも休まずぶつけられる、嵐のような攻撃魔法にさらされていた。


無論、帝国側も青魔法使いが結界を張り凌いで入る。そして、結界は張ったままでも動く事はできる。


だが、千人の魔法使いが休まず撃ち続ける爆裂弾は、進もうとする帝国兵を押し返し、完全にその足を止めていた。



「時間だ!次の一発を最後に第一部隊は後ろへ下がれ!第二部隊は前へ出ろ!」


ビボルの指示で、第一部隊は最後の一発を放つと同時に慣れた動きで、最後尾へ下がった。

代わって前線に出た第二部隊も、入れ替わりの間隙を感じさせない程のスムーズな動きで、魔法を撃ち出す。


「よし!第二部隊はそのまま撃ち続けろ!第三部隊、すぐに出番だぞ!集中して備えておけよ!」



ビボルが大きく声を上げ指示を飛ばすと、後方に待機している第三部隊も、はい!と声を張り上げる。


士気の高さにビボルは満足そうに頷いた。



ビボルは三千人の黒魔法使いを三つの部隊に分け、横一線に並び立たせた。

そして一定の時間で隊を入れ替え、休息を挟ませながら、代わる代わる撃ち続ける。


これは魔力切れを起こさせないようにするためであった。


魔力を瞬時に回復させる道具は無い。

そのため、魔力を回復させるには、その場で動かず休むしかなかった。


短い時間であっても、体を休め呼吸を整えれば随分違ってくる。

ビボルが隊を三つにまで分けたのは、一部隊ができるだけ長く休息を挟めるようにするためだった。



カエストゥスの黒魔法使いによる、爆裂弾の嵐は一向に休むことなく続いている。


しかし、帝国とて結界を張り凌いでいる。完全な膠着状態だった。

だが、それで良かった。ビボルの狙いは帝国兵に結界を使わせ、その場に釘付けにする事にあった。


カエストゥス兵の使用する魔法は、魔力消費の少ない基本とも言える初級魔法の爆裂弾。


帝国兵の使う魔法は、維持しているだけでも大きく魔力を消費し続ける結界魔法。



「あっちの指揮官はジャキル・ミラーだったな。青魔法使いのてめぇなら分かってんだろ?結界は維持しているだけでもどんどん魔力を消費していくんだ。ダメージを受ければ猶更な。三千人分の爆裂弾にいつまで耐えられるかな?」


幾千幾万の爆裂弾を撃ち込み、濛々と爆風が舞う戦場を眺め、ビボルは口の端を持ち上げニヤリと笑った。



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