【300 配置】
「ロペス、国境はどうなっとる?」
エンスウィル城の一室で、ブレンダンとロペスがテーブルを挟み向かい合ってイスに腰をかけていた。
二人の目の前には一枚の地図が広げられ、何か所にも印がつけられている。
王位継承の儀から14日が過ぎていた。
「膠着状態です。セインソルボ山の山裾で、一定の距離を持って睨み合っています。あそこはロビンが指揮をとっていますので、大丈夫だと思います」
「そうか、西のセインソルボ山はしばらくは動きそうもないか。北は?」
カエストゥス国、首都バンテージの北を指してブレンダンが尋ねる。
「北はまだ帝国の姿は見えません。ですが、北の街メディシングはカエストゥスの物流の中心地です。あそこは落とされるわけにはいきません。現在は剣士隊2,000人、魔法兵団3,000人を送っています。もし帝国兵の姿が見えれば、12時間以内に第二部隊8,000人を送れる手筈になっております」
「・・・ふむ、さすがの準備の良さじゃな。メディシングの指揮官は誰じゃ?」
「パトリックです。補佐に剣士隊副隊長のルチルを付けました」
北の街メディシングには、13,000人の兵力を揃えられる準備が整っている。
構成は、剣士隊4500人、魔法兵団8500人の割合である。魔法兵団副団長として経験の長いパトリックとはいえ、剣士隊を指揮した事はなかった。まして一万を超える軍になるため、剣士隊副隊長のルチルを補佐においた事は妥当な判断であった。
「うむ、良い采配じゃ。では南は?」
「はい。南はご存じの通り農業地帯です。・・・やはり食料ですから、ここが最大の急所だと思います。北よりも優先度が高いでしょう。ブローグ砦を拠点として、指揮官にペトラを当てました。補佐にはエロールです」
「ほぅ、エロールを使うか。帝国のジャック・パスカルを一人で破った男じゃ、実力は疑いようもないが、指揮する立場となるとどうなんじゃ?」
「私は大丈夫だと確信しております。確かに、トップとなると不安要素はあります。ですが指揮官はペトラです。ペトラは指揮官として信頼できる程に成長しております。しかし、ペトラはトップとしてバランスも考えなければなりません。強引に行かねばならない場面で、躊躇してしまうかもしれない。そのためのエロールです」
ロペスはエロールの何者にも媚びない姿勢を高く評価していた。
個人主義で協調性に欠けるところは確かにある。
だが、組織として行動する時にはそれを順守するのでさほど問題はない。
エロールはどんなベテランが相手であろうと、言うべき事は言う。自分がどう思われようと全く意に介さない。かと言って我儘でもなければ自己顕示欲も無い。
今求められている物はなにか?勝つためにはどうすべきか?どう動く事が最適か?
エロールは自分の不利益も含め、それを考えて行動できる男だった。
「ブレンダン様もお人が悪い。エロールはあなたに師事している。ブレンダン様もエロールが補佐であれば適任だとご理解されておいででしょう?若干18歳にして、あれほどの才覚と胆力をもった男は稀ですよ。損な役回りをする事になるかもしれませんが、ペトラの補佐にはエロールがふさわしいでしょう」
ロペスが口元に少しだけ笑みを作ると、ブレンダンも合わせるようにして笑った。
「ほっほっほ・・・そうじゃな、その通りじゃ。出会った時からワシにも物怖じせずに、あれこれ言うておったヤツじゃ、ふてぶてしさは国一番かもしれんな。ペトラはこの短い期間でようやっておる。
あの跳ねっかえりが、ようもここまで成長したと思うわ。じゃが、隊長となってまだ日が浅い上に、年も若く、そして女じゃ。いかんせん、どうしても女と舐めてかかる男がいる事も確かじゃ。
じゃが、そこはエロールがうまくやってくれるじゃろう」
ブレンダンが納得すると、ロペスは最後に地図の東を指した。
「そして東です。帝国は位置的に、我が国の西から攻める事がベースになるでしょう。そうしますと、西を中心に北と南を護りながら戦う事になります。ですが、東をおろそかにしていいわけではありません。回り込んで東から突破される可能性は十分にあります」
「うむ、その通りじゃな。地理から考えると、東は・・・ブリッジャー渓谷か」
ブレンダンが眉間にシワを寄せる。
「はい。やはりここが肝になるでしょう。判断に難しい場所です。川沿いを進軍して来る敵を、上から撃てばいいだけなら楽なのですが、そう簡単な話しではありません。私なら、黒魔法使いを中心にまずは空から攻めるでしょう。そして上に集中したところで、下に待機させた伏兵に突破させます」
「・・・むぅ、そうじゃな。のこのこ川沿いを歩く訳がないからのう。そうなるか」
「・・・はい、今私が申し上げた方法が、一番ベターかと思います。それを前提とした編成を組みました」
ロペスは地図を指しながら、ブレンダンへ隊の配置、構成の説明を行った。
「・・・と、まぁ迎え撃つ側も黒魔法使いが中心になりますが、この構成な様々な応用もできて、そう簡単に抜かれる事はないでしょう」
「・・・ふむ、よう考えたのう。そうじゃな、黒魔法と青魔法を先頭に組み、後方に青魔法と白魔法か。確かに青魔法の結界が鍵になるじゃろうな。渓谷の出口は剣士隊を中心に固めるか。地形を生かしたバランスも良い」
説明を受け納得の言葉を出すブレンダンに、ロペスは軽く頷いて反応を返す。
「指揮官は、マーヴィン・マルティネスか。一線を退いて久しいが、読み合いに長けた歴戦の勇じゃな。うむ、混戦が予想される場所ならばこれほどの適任はおらんじゃろう」
「えぇ、年寄りを担ぎ出すなと小言も言われましたが、この状況ですからね。なんとか応じていただけました・・・・・」
ロペスがそこで言葉を区切り、何かを言いよどむように視線を下に向けると、ブレンダンはロペスが何を考えているかを察し、代弁するかのように言葉を紡いだ。
「・・・ドミニクがおったら、東を任せてよかったろうな。マーヴィン程の戦略は練れんだろうが、ドミニクは自身も最前線で戦い、兵をひっぱり士気を上げる力があった・・・」
「はい・・・惜しい男を亡くしました」
「じゃが、ペトラとルチル・・・あの二人の意識をあそこまで変えたのは紛れもなくドミニクじゃ。しかと意思は残した。これからの国を作っていくのはあやつら若者じゃ」
「・・・えぇ、私も彼ら若者のため、この命捨てる覚悟はできております」
しばらく二人の間の会話が止まる。
ブレンダンより若いと言ってもロペスも齢60を迎え、体力の衰えは感じていた。
この戦争が終わるまではマルコを支え、粉骨砕身の覚悟で国のために命すら惜しむ気はないが、自分の後継も育てなければとも考えていた。
ドミニクはペトラとルチルに未来を託した。
ブレンダンは、ウィッカーとジャニス、二人の弟子を立派に育て上げた。
「・・・世代交代、か・・・そういう時に来ているのかもしれませんね」
ロペスが言葉を溜め、しんみりと言葉を発すると、ブレンダンも目を閉じその言葉に頷き返した。
「・・・・・誰しもいつかは老いる。退く時も来る・・・じゃが、ワシらにはまだやるべき事が残っておるぞ。特にお主は山積みじゃ。隠居を考えるには早すぎるのではないか?」
「・・・はい。私とした事が、つい・・・そうですね。まずはこの戦争に勝利する事。老後の事はそれから考えましょう」
ロペスは口の端を上げ、少しだけ笑みを見せると再び地図を指し、ブレンダンとの話しを再開した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。




