表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
294/1555

【294 エロール 対 ジャック】

夜の森は数メートル先さえ見えない程に、暗く深い闇に包まれているものだが、今夜は月明かりが差し込み足元を照らしてくれる。


それを頼りに樹々を抜け走り進んで行くと、幾分開けた場所へ出た。



そこに待ち構えていたのは、赤い髪に深紅の鎧、自身の背丈程もある二丁にちょうの巨大な斧をその背に背負った男。ブロートン帝国第三師団長ジャック・パスカルだった。


エロールの姿を目にすると、上に立てた赤い髪に手櫛を入れ整え直す。



「よぉ、逃げないで来たか」


「逃げる?それは俺のセリフだ。ブルって森に隠れたのかと思ったぜ」


エロールの言葉にジャックの目が鋭さを増す。


ジャックは一見すると平凡な体格だった。

身長は175cm程、コバレフやルシアンのような巨躯とは比べられないにしても、それでも目立って突出した部分はない。


見た目には・・・・・



「・・・フン、まぁいい、どうも城で会った時からお前のツラが気に入らなくてな。帝国へ帰る前に身の程を教えてやろうと思っただけだ」


両手を背中に回し、二丁の斧を握り締める。

軽々と左右に斧を持ち構えると、ジャックが臨戦態勢に入った。


ジャックの凄まじさは実際に対峙した者にしか分からない。


その背丈からは想像もできない腕力は、ゆうに100キロを超えるだろう巨大な戦斧を、腕一本で持ち構えるところから想像できるだろう。


鎧の下にある鋼のような筋肉と、鞭のようにしなやかで柔軟な筋肉は、自分より大きな相手にも後れをとらないよう、鍛え抜いたジャックの自信の源だった。



「奇遇だな。俺もお前のツラに苛ついてたんだ。オラ、来いよ。身の程ってのは俺がお前に教えてやる」



エロールが右手をの人差し指を突き出し、クイっと曲げて見せる。



その瞬間ジャックの戦斧が凄まじい勢いで回転しながらエロールに向かい投げられた。



全長で170cm、厚さ10cm以上の巨大な戦斧は、斬る事を目的としていない。

当たれば原型を留めない程にその肉を弾き飛ばすからだ。


まして相手は魔法使いであり、背丈もジャックより低く、女と見紛う程の華奢な体付きだった。

刃ではなく柄の部分であろうと、当たれば骨はおろかその身を打ち砕くであろう。



軽口を叩きながらも、エロールは十分に警戒をしていたはずだった。


距離も十分に取っていた。


ジャックの射程はその戦斧の長さから2メートル以内、踏み込みも合わせれば3メートル。長く見積もって4メートルと計算していた。


5メートル以上離れているエロールに攻撃を届かせるには、距離を詰める必要がある。

その考えは至極当然であり、またエロール以外の誰であっても当然そう考えるであろう予測だった。



初撃は距離を詰めてからの左右の斧による薙ぎ払いか振り下ろし。

足を使った攻撃も可能性には入れてあるが、あの巨大な戦斧を見る限りそれはかなり低いと見ていた。



だが、ジャックの初撃はエロールのどの予想も裏切った。



その場で上半身だけを使った斧による投擲とうてき



「なっ!?」


あれほど巨大な斧を、その場で腕力だけで投げ放つ。

全く想定していなかった攻撃、眼前に迫る絶対なる死をもたらす戦斧に、エロールの意識がジャックから戦斧へと移る。


想定外の攻撃に硬直した体を無理やり動かし、刹那の差で戦斧を屈み躱す。


髪をかすめる感触に息を飲む。体に触れたわけではない。だが髪の先を斬り裂いた戦斧の重さが肌で感じられ、エロールの全身から一瞬で嫌な汗が噴き出した。



ジャックから意識を逸らし、ただ斧を回避するためだけに腰をかがめる。

エロールはジャックの初撃ですでに致命的な隙を作っていた。


この一瞬でジャックはエロールの目の前まで距離を詰め、残った左手に持つ斧を振り上げていた。


「なんだ、こんなもんか」


ジャックは失望の声と共にエロールの頭に斧を振り下ろした。




運動能力で大きく上回るジャックを相手に勝利するために、エロールが選んだ戦闘方法は後の先を取る事であった。


埋めきれない運動能力の差は理解していた。いずれジャックに追い詰められる。

それは十分に理解した上だった。



「なにッツ!?」



「・・・ヘッ、オレがなんの勝算もなく戦いに挑んだと思ったか?」



自分の背丈よりも巨大な斧を受け止めていたのは、一風吹けばそれだけで吹き飛ばされそうな柔らかなマフラーだった。



「吹っ飛べオラァァァァーッツ!」



その腕力は師団長一。

体格で自分をはるか上回るコバレフ、そしてルシアンより自分が上だと、絶対の自信を持っていたジャックは、己の一撃を受け止めるられる事は毛ほども考えになかった。


驚きに目を剥いたジャックは、エロールの攻撃に対し、防御、回避の行動が間に合わずその一撃をまともに浴びる事になる。



爆音が静寂を破り森に響き渡る。



深紅の鎧の胸の装甲を砕かれ、ジャックの体が宙を舞う。


頭上に降り注ぐ砕けた装甲の破片を目に、エロールは不敵な笑みを浮かべた。



「・・・攻防一体の俺の反作用の糸に、死角はねぇんだよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ