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【293 白魔法使いの闘争心】

「皇帝、ジャックとコバレフがまだですが、よろしいのですか?」


全員が馬車に乗ると、正面に座るミラーが皇帝に確認をする。


「よい。コバレフは足止めとして残り、ジャックは我らと別の道に入って行った。今頃カエストゥスの護衛と戦っているのだろう。これだけ待ったのだ。生きていれば帰ってこよう」


皇帝の言葉を聞いて、ミラーは馬車を出すよう合図を出した。



「・・・皇帝、目的は果たされたのでしょう?あそこにカエストゥスの護衛を集めて、光源爆裂弾で一掃する。できればもう少し集めたかったと思いますが、ウィッカーとジョルジュです。あの二人を仕留められたのであれば十分ですね」


馬車が走り出すと、テレンスが皇帝の真意を補足するように言葉をだした。

隣に座る妹のクラレッサが振動に体を揺さぶられると、そっと手を回し支える。


「フッ・・・大した使い手だったが、あのタイミングでは躱せまい。だが、それでももし余の光源爆裂弾から生き残っていたとしたら・・・・・」


皇帝はテレンスの言葉に直接答える事はしなかったが、誰に言うでもなく発したその言葉は、肯定を意味していた。



「・・・次は戦場で会えるか楽しみにしようではないか」






皇帝の乗っている馬車とは別のもう一つの馬車。

そこには怒りに顔を歪ませているルシアン・クラスニキと、ただ視線を前にだけ向けている、感情の読めないセシリア・シールズが向かい合って腰をかけていた。


ルシアンの右肩の矢傷はすでに塞がっていた。

馬車に乗る前にクラレッサが白魔法でヒールをかけ治療をしていたのだ。



セシリアは皇帝の光源爆裂弾をミラーの結界で防ぐと、そのまま皇帝の待つ街の入口まで全速力で駆けた。


なにか合図があったわけではない。

だが、ウィッカーに甚大なダメージを負わされた直後に、皇帝が光源爆裂弾を放った。

これに気付いた時セシリアの脳裏には、見放された、という思いが浮かんだ。


だが、その次の瞬間青く光る結界が自分を包み込んだ。


それはかつて、ブレンダン・ランデルが三種合成魔法 灼炎竜結界陣でも用いた、結界魔法の最高峰と言える天衣結界。


皇帝の光源爆裂弾ですら防ぐこの結界は、魔力消費が非常に高く、術者への負担が大きいため、ミラーはよほどの事がなければ使用しない。


だが、その天衣結界が自分に使われた事でセシリアは瞬時に理解した。


醜態をさらしたが、まだ自分は必要とされている。


戦う力は残っていなかったが、セシリアは震える足を立たせ、残り全ての力を使い皇帝の元へ駆け戻った。



セシリアが戻った事を確認すると、皇帝はまずクラレッサにセシリアへのヒールを命じた。

かなりのダメージだったが動ける程度まで回復すると、セシリアはそこで治療をやめて馬車へと乗りこんだ。


自分の治療のせいで、いつまでも皇帝を待たせておく事が許せなかったのだ。


手負いのセシリアとルシアンだけは皇帝と違う馬車へと乗った。

それは敗北に近い醜態をさらした事で、皇帝へ向ける顔がなかったからだ。


帝国へ戻れば、そこで皇帝と話しをしなければならないが、今だけは感情の整理に時間が欲しかった。



ルシアンは馬車の中で声を荒げたり、セシリアへ当たる事はしなかった。


怒りの感情は表に出ていたが自分の中で消化すると、やがていつもの落ち着いた表情へ戻り、静かに目を閉じた。

胸の内は分からないが、それでも自分で一つの区切りは付けたようだ。


セシリアは一言も発せずいつまで宙を見つめていた。

その瞳は氷のように冷たく、そして狂気をはらんでいた。







「・・・見つけた!」


風を頼りに歩き進んで行く。どこに目を向けても建物は原型を留めていない程に崩れ落ち、あちこちで火が燃え広がっていた。


その中で、地面に数人は余裕を持って入れそうな大きな穴が空いていて、その穴の中で土を被り、重なり合うように倒れている二人の人間が目に入った。


生きている事は二人の風で分かってはいたが、全身に土を被りうつぶせに倒れている姿を目にすると、弥生の心臓が跳ね上がる。



弥生は急ぎ穴に飛び降りると、まず上のジョルジュを抱き起した。

体中に被っている土を払いのけ、ジョルジュの名を何度か呼ぶと、薄っすらとその目を開けた。


「うっ、ゲホッ・・・はぁ、はぁ・・・ヤヨイか、すまんな。ウィッカーはどうした?」


「ウィッカーなら、あんたの隣よ」


呼吸を整えているジョルジュの背中から、ゆっくりと手を離す。

一人で体を支えられる事を確認して、弥生はウィッカーをそっと静かに抱き起した。



「・・・ぐっ・・・ゲホッ!ゴホッ・・・うっ・・・はぁ、はぁ・・・」


息がある事を確認して、背中を軽く叩きながら声をかけると、口に入った土や砂を吐き出しながら、ウィッカーが目を開けた。


「ウィッカー、大丈夫か?」


「はぁ・・・ふぅ・・・ヤヨイ、さん、ゲホッ・・・ふぅ・・・はい、なんとか」


「・・・ジョルジュより、あんたの方が消耗しているようだけど、怪我は無さそうだね・・・とりあえず、息を整えな」



何があった?

その一言は飲み込んだ。


状況を見て、この爆発は帝国の魔法によるもの。

そしてこれだけの魔法を使った上で、ジョルジュとウィッカーに止めを刺していない事から、すでに皇帝達はこの場にいないのだろう。



逃げられたか・・・・・

現状を察した弥生は、まずジョルジュとウィッカーを休ませる事にした。


水でもあればいいが、周囲はまるで焼け野原の如き凄惨な状態になっている。

どこかから分けてもらおうにも、この状態ではそれは望めない。


これ以上の追跡は体力的にも不可能だった。



「ジョルジュ、あんたまだ動ける?」


「あぁ、ウィッカーは魔力の消耗でもう動けんだろうが、俺はまだ大丈夫だ」


腰を下ろしたままだが、ジョルジュの目にはまだ力があった。


「じゃあ、ここでウィッカーの事見てて。アタシは戻って水もらってくるよ・・・」


「あぁ・・・まかせろ」



ジョルジュの言葉を背に弥生は穴から飛び出すと、足に風を纏わせ、ここに来るまでの道を急ぎ戻って行った。



残されたジョルジュは大きく息を付くと、低く冷たい声で言葉を発した。


「・・・絶対に許さん」


ウィッカーもまた同じだった。

生まれ育った街がこれほどまでにひどく破壊された。


それはウィッカーの中に、帝国に対するハッキリとした憎悪の感情を持たせた。


「・・・あぁ、俺も同じ気持ちだ」


二人は倒壊した建物、焼け落ちる草木を、ただ黙って見ている事しかできなかった。






時は僅かに遡る。

皇帝がまだ光源爆裂弾を放つ前。



エンスウィル城の城門を出て皇帝を先頭に街の出口を目指して走る。

だが、自分達を追跡して来る者の気配に気づき、赤い髪の男、第三師団長のジャック・パスカルは背後に目を向けた。



「・・・ハッ、あのマフラー野郎・・・なんつったかなぁ~、あぁ、そうそう、エロールって言ったか?ムカつくなぁ~・・・あのツラ、本気で俺に勝てると思ってんのか?」


視界に捉えた水色の長いマフラーを巻いたローブ姿の男は、カエストゥス国魔法兵団エロール・タドゥラン。


体力型のジャックは、全力を出さずともこのままのスピードで、エロールを引き離し逃げ切る事は可能だった。


だが・・・・・



「いいぜ・・・生意気な魔法使いのガキを殺してやったってくらいの土産話は、部下に持って帰ってやらねぇとな」


不敵な笑みを浮かべ、ジャックは一歩道を逸れて、街に続く大通りから森の中へと入って行った。


その後を追うエロールには、ジャックの意図が読めた。


「へっ、お優しいこったな。付いて来いってか?」



誰にも邪魔をさせず、一対一で。



エロール・タドゥランは白魔法使いには珍しいくらい、好戦的な性格をしていた。


白魔法使いは、怪我を癒すヒール。痺れ、毒などの状態異常を治すキュア。

この二つの魔法が、白魔法使いとしての役目の大半を担う。


そのため後方支援が中心となり、結界を使い護りに長けた青魔法使いとは違って、前線に出て戦う事などほとんどない。


そういった癒しの力の関係なのか、白魔法使いは性格的にも戦いには不向きな、内向的な者が多かった。


だが、エロールは違った。


白魔法使いというだけで、戦う前から下に見られる事が我慢できなかった。

そのため魔法兵団に入団してからも、些細な事で同僚と対立する事が多く、エロールの生活は喧嘩が絶えなかった。


相手に問題がある事ももちろんある。

気に入らないというだけの理由で因縁をつけられた事も数えきれない。


だが、なにか騒ぎが怒ると必ずと言っていい程エロールがその場にいるため、周囲とトラブルばかり起こすという目で見られる事は、しかたのない事だったのかもしれない。


エロールは自然と孤立するようになり、必要以外では誰とも口を利かなくなっていった。

団長のロビンにもわざと反抗的な態度をとり、誰にでも威嚇ばかりしていて、その心はすさんでいった。



だが、ジャニスはエロールを本気で怒ってくれた。

ブレンダンはエロールの話しをちゃんと聞いてくれた。

ウィッカーは顔を見るといつも声をかけてくれた。


ヤヨイも孤児院のみんなもエロールをいつも笑顔で迎えてくれた。

毎月の誕生会には必ず誘ってくれて、エロールに居場所をくれた。



そして・・・・・ヨハン・ブラント。魔法兵団で大切な友達ができた。



6年前、孤児院を襲撃してきた殺し屋の一人、ミック・メリンドに不覚をとった時、自分が敗れたミックを瞬殺したブレンダンに師事するようになってからは、謙虚さも学び、喧嘩っ早いなりは身を潜めた。


だが闘争心を失ったわけではない。


大切な者を護るために、エロールは内に秘めた闘争心を解放した。



「ヨハン、お前は心配しないでいい・・・・・俺に任せておけ」




数年ぶりに表したむき出しの闘争心。


かつての周りを威圧するために使う力ではない。

エロールは大切な友を護るためにジャックの後を追い走った。



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