【292 煙】
誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。
最初に気付いたのはジョルジュだった。
ウィッカーの灼炎竜とセシリアのプロミネンス。二つの力のぶつかり合いに、迂闊に手出しができなかった。
ジョルジュはこの時点で、ウィッカーの支援に回る事を選択した。
セシリアに隙ができればそこをつく。ウィッカーの灼炎竜が敗れる事があれば護り助ける。
結果、ウィッカーの灼炎竜がセシリアを上回り、セシリアに喰らいついた竜が空へ上っていく事を見届けると、ジョルジュは膝を着き呼吸を整えているウィッカーに近づいた。
歩を進めると空からセシリアが落ちてきた。
どうやらあの炎でも消し炭にならず生き残ったらしい。
だが、もう戦う力は残っていないように見えた。
ウィッカーにも相当な消耗が見えたので、ジョルジュは自分がセシリアに止めを刺そうと矢をつがえ弓を構える。
その時・・・目の端に強い光を捉え、顔を振り向かせた。
ソレを目に映した瞬間、ジョルジュは他の一切の選択を放棄し、大きく声を張り上げた。
「風よ!」
瞬間、ジョルジュとウィッカーの体を高密度に圧縮された風が纏う。
セシリアとの一戦で大きな疲労を被っていたウィッカーは、場の異変に遅れて気が付く。
だが、ウィッカーが気が付いた時には、ジョルジュが右手にウィッカーの腹を抱え、足元の風を爆発させ全速力で後ろへ飛んでいた。
皇帝の放った光源爆裂弾の着弾までのほんの数舜で、いったいどれほどの距離が稼げるか。
上空へ飛んだとして躱しきれるものではない。無論このまま後方へ飛び続けても同じであろう。
だが、逃げきれないにしても建物を壁にすれば、僅かでも衝撃を減らせるのではないか。
ルシアンのナパームインパクトで、周囲数十メートルの家屋は崩壊していたが、ジョルジュはこの一瞬でナパームインパクトの爆発圏内を脱していた。
ジョルジュがまだ建物の残る場所まで進んだ時、後方で耳をつんざく爆発音が鳴り響き、それに伴う大地を揺るがす破壊のエネルギーと大爆風が、ジョルジュの背中を追いかけて来た。
風を使ったジョルジュの足も、常人の目では追いきれない程の速さだったが、光源爆裂弾の大爆発はそれ以上の速さだった。
いかに風の精霊の力を借りようと、人の足には違いが無い。
爆発のエネルギー波から逃げ切れるなど思ってはいない。
ジョルジュは短い時間でできる限りの対抗手段を講じていた。
全身に高密度の風を纏い鎧とし、建物を防波堤にして少しでも威力を和らげる。
そして最後に・・・・・
「ウィッカァァァァーッツ!下だ!撃てぇぇぇーッツ!」
「オォォォォーッツ!」
ウィッカーの爆裂空破弾が地面を深く抉り飛ばす。
爆発によって巻き上げられた土砂にも土煙にも構うことなく、二人はその空けられた穴に飛び込んだ。
「こ・・・この爆発は!?」
弥生が追いついた時、最初に目に飛び込んで来たのは街を破壊する大爆発だった。
家屋を吹き飛ばし、草木を焼いて、全ての生命を蹂躙する絶望の力。
天高く上がる巨大な煙を目の当たりにした時、弥生の脳裏に浮かんだのは日本で見た戦争の記憶。
実際に体験をしたわけではない。
テレビや映画だけしか見た事のないものだが、目の前のそれはその爆発によく似ていた。
「・・・ふ、ふざけんなよ・・・・・ふざけんじゃねぇぞォォォーッツ!」
喉が張り裂けんばかりの声を張り上げ、弥生は爆発により燃え上がるその中へ足を踏み込んだ。
「風の精霊、頼むよ」
弥生の体の周りを風が渦巻き、熱波を吹き飛ばす。
「・・・まぁまぁ、動けるな・・・ウィッカーとジョルジュはどこだ?」
ジョルジュはウィッカーと共に先んじて皇帝達に追いついた時、風の精霊の力を使い弥生に状況を連絡していた。
コバレフの相手をした事により遅れた弥生がたどり着いた時には、すでにジョルジュとの連絡はつかなくなっていた。
「・・・いや、絶対に生きている。信じろ」
この爆発を見て、弥生はジョルジュとウィッカーの生存を危ぶんでしまった。
だが、弥生は信じた。
あの二人が死ぬわけはない。
「・・・闇雲に歩いてもしかたない・・・・・やってみるか」
弥生は立ち止まると、はやる気持ちを押さえ呼吸を整えた。
柔らかな風が吹き、弥生の探し人を辿る。
・・・風よ・・・・・ジョルジュとウィッカーを探して
心を落ち着けて風を感じる。
周囲は戦火によって激しく燃え盛る炎と、呼吸すら危ぶまれる熱を帯びた爆風が吹き荒れている。
・・・この荒れた風の中で、二人の風を感じる事は難しい・・・・・
弥生は目を閉じる。
建物が崩れる音も、炎が草木を焼き払う音も、全ての音を閉ざす。
・・・風を感じろ・・・ジョルジュとウィッカー、二人の風に全ての神経を集中するんだ・・・
音が止み静寂が弥生を包む。
肌で風を感じていると、良く知る風を二つ感じた。
一つは緑を感じる自然の落ち着いた風。
もう一つはそよ風のような優しさと強い意思をもった風。
・・・・・・・・・・いた。
風を掴み、弥生は駆けた。




