【291 破壊の魔弾】
誤字を見つけたので修正しました。内容に変更はありません。
ありえん!
あのタイミングでこの私の肩を射貫くなど絶対にありえん!
振るった槍が空を切り、鉄の矢が私の右目に迫った時、咄嗟に首を左に振った。
それで矢は躱せたはずだった。
だが、次の瞬間右肩に激痛が走り、顔を向けると避けたはずの矢がなぜか突き刺さっていた。
「ジョルジュゥゥゥゥゥッツ!貴様いったい何をしたぁぁぁッツ!」
自分に絶対の自信を持ち、いつも余裕を見せていたルシアンの顔が、今は怒りに支配され醜く歪む。
歯を食いしばり、ジョルジュに憎悪の目をむける様は感情むき出しの獣のようだった。
「喚くな。帝国の師団長なのだろう?そのくらいで声を上げるなど、みっともないと思わんか?」
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉッツ!」
雄たけびを上げてジョルジュへ突進し力任せに振るう槍は、技とは呼べない暴力そのものだった。
ルシアンは自尊心の高い男だった。
自分が優位に立ち、余裕を持てている時には紳士的な態度を見せるが、一転して攻撃を受けると目の前の全てを破壊する程に逆上する。
優しさと暴力、相反する二つの心を持つルシアンは部下から裏でこう呼ばれていた。
破壊の紳士
ルシアンの槍は地面をたたき割り、振るった先から放たれる風圧だけで人を倒せそうな程の圧力を発揮した。
「がぁぁぁぁぁッツ!」
「さっきまでとは別人じゃないか?それが本性か?まるで野獣だな?」
ルシアンの猛攻を苦も無く躱しながら、ジョルジュはよどみなく二の矢をつがえる。
「貴様ぁぁぁッツ!いい気になるなぁぁぁッツ!」
「裏表が激しい男だ・・・お前の風は頭が痛くなる。もう死ね」
ルシアンが言い終わらない内に放たれたジョルジュの矢は、一寸の狂いもなくルシアンの兜に空く右目の穴に突き刺さったかと思われた。
だが・・・
青く光る結界がルシアンの体を包み、ジョルジュの鉄の矢が弾かれる。
「・・・これは、ミラー!貴様ぁ・・・手出し無用と言ったはずだ!」
ジョルジュとルシアンから少し距離を置き、ジャキル・ミラーはルシアンに右手の平を向けていた。
その手は青く輝き、ルシアンへと結界を送っていた。
「チッ、たくっ・・・面倒くせぇヤツだな。俺が助けなきゃ目ん玉抉られて死んでたんだぞ。ルシアン!いい加減にしろよ!いつまでも遊んでらんねぇんだよ!さっさと二人で・・・なに!?」
突如、空が真昼のような明るさで照らされ夜の闇をかき消した。
「こ、これは・・・まさか!?」
ルシアンが驚きの声を出し空を見上げる。
目の前のジョルジュの事すら意識から離れてしまったかのように、驚愕に目を剥いている。
「・・・これは」
空を見上げたジョルジュの目に映ったものは、セシリア・シールズが振り下ろした剣から放たれた、太陽と見紛う程の巨大な炎の塊だった。
「プ、プロミネンスだと!?セシリアのヤツ、俺達がまだここにいるってのに!クソッ・・・おい、ルシアン!退くぞ!」
「くっ!・・・止むをえまい。アレに巻き込まれるわけにはいかん・・・ジョルジュ!覚えておけ!次はこうはいかんぞ!」
セシリアの炎を見たルシアンとミラーはその身をひるがえし、皇帝達の待つ街の出口まで走り出した。
この時ジョルジュには二つの選択肢があった。
セシリアの炎から自分も逃げるか、自分に背を見せ逃げ出したルシアンとミラーに矢を射る。
ジョルジュもセシリアの放った炎の威力は感じ取っていた。ここから少しでも遠くまで避難する事は当然の判断である。
だが、ジョルジュが選択を決めるより先に、セシリアの炎に立ち向かうするもう一つの炎が、地上から空へと昇った。
「ウィッカー・・・よし、ならば俺の取るべき行動は・・・・・」
血狂刃、深紅に染まった刀身が特徴の、セシリアの細身の片手剣レイピアの銘である。
元々は白銀の刀身だったその剣は、セシリアが何千、何万という命を奪っていくうちに、いつからか血が落ちにくくなっていった。
血糊を拭いても完全には落ちず、いつも少しだけ血の跡を残してしまうその剣は、やがて血のような赤に染まってしまう。そして妙な噂が立った。
あの剣は血に飢えている。あの剣は血に狂っている。そしてあの剣は血を吸っていると・・・・・
クラレッサの魔道具御霊の目が悪霊を宿しているように、セシリアの血狂刃もまた多くの命を吸い取った事で、怨念、呪い、悪霊の類を宿してしまったのかもしれない。
「アッハハハハハ!すごい!なにそれ!?私のプロミネンスと互角!?」
ウィッカーの灼炎竜はその巨大な口で、セシリアのプロミネンスを飲み込まんと喰らいついていた。
真っ赤に燃え盛る太陽の如き炎と20メートル級の灼炎竜、大気を震わせ二つの炎がぶつかり合う。
「ウオォォォォォォォーッツ!」
「頑張るじゃない!すごい!本当にすごいわ!じゃあ見せてあげる・・・血狂刃の本当の力を!」
セシリアが深紅の片手剣血狂刃を振りかざすと、赤い刀身がより赤く染まり・・・そして血を流した。
刀身から滴り落ちる血の雨を全身に浴び、セシリアの赤い髪も、赤い唇も、そして雪のように白い肌も真っ赤に、血の赤に染まっていく。
「・・・くっ!こ、これは!?」
拮抗していた二つの炎・・・だが、突如セシリアの炎プロミネンスの威力が増大し、ウィッカーの灼炎竜を押し込み始めた。
「どう!?素敵でしょう!?私の血狂刃から流れる血はね、私の力を底上げしてくれるのよ!精霊の加護による炎の力だって同じ!さぁどうするの!?まだ隠し玉でもある!?」
「ぐ・・・」
徐々に押し込まれる灼炎竜。
その圧力にウィッカーの足元の地面がひび割れ、体を支えきれなくなり膝を着く。
ウィッカーの全魔力を込めた灼炎竜・・・六年前は最長で20メートル、そして30もの数を出した。
六年前は・・・・・
「な、めるな、よ・・・・・」
「あーはっはっは!ここまでのようね!とても素敵だったわよウィッカー!でも、お別れね!」
ウィッカーの魔力が跳ね上がる。
「なめるなぁーッツ!」
消えかかっていた灼炎竜が力を取り戻し、より強く、より大きく、より激しく燃え上がった。
「あら?なに?まだ・・・やれるの?面白いじゃない!見せてごらんなさいよ!」
「焼かれるのはてめぇだ」
その灼炎竜の大きさは、この六年のウィッカーの努力と研鑽を表していた。
30メートルを超える灼炎竜がセシリアの太陽・・・プロミネンスを呑み込んだ。
「え・・・なによそれ?・・・私の、私の太陽が・・・う、わぁぁぁぁぁーーーー」
プロミネンスを呑み込んだ灼炎竜は、そのままセシリアに喰らいつくと、火の粉を散らし空へ上り消えて行った。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
膝を地面に着き、肩で息をする。
セシリアのプロミネンスを押し返すだけの魔力を放出した事は、ウィッカーの多大な力を使わせていた。
やったか・・・?
顔を上げて空を見上げる。
セシリアを呑み込んだ灼炎竜は空へのぼり消えて行った。
焼き尽くしているだろう。
並みの相手ならば消し炭になり消えている。
だが・・・相手は火の精霊から特に強い加護を受けているセシリア・シールズ・・・
ウィッカーの懸念は・・・・・
・・・・・空からなにかが降って来るのが目に映る。
小さいがだんだんと大きくなってくるそれは人だった。
黒い煙をその身から上げ、頭から真っ逆さまに落ちて来る。
赤い髪のその女は・・・セシリア・シールズ。
「・・・チッ、やっぱりな・・・だが」
地面に激突の瞬間、その身を縦に回転させ両手両足を着いて着地をする。
深紅の胸当て、鉄鋼、膝当て、脛当、防具の全てがほぼ意味をなさない程に焼け焦げ破損しており、
全身から黒煙が燻り立ちのぼっていた。
四つん這いのまま、すぐに起き上がらなかった事はセシリアのダメージを表していた。
「へっ・・・ご自慢の火の精霊の加護より、俺の灼炎竜が上だったようだな?」
ウィッカーの言葉にゆっくりと顔を上げたセシリア・・・・・
その表情には必殺のプロミネンスを破られ、自分に甚大なダメージを与えた男に対する怒りも憎しみも何もなかった。
ただ、両の赤い瞳が怪しく冷たくウィッカーを映していた。
「・・・・・ここまでだな」
皇帝の両手が光輝き、莫大な魔力が集約されていく。
ウィッカーとジョルジュ、二人の強さは皇帝の想像を大きく上回っていた。
常にクラレッサを牽制し、悪霊を封じ込めながらもルシアンを手玉にとったジョルジュ。
セシリアのプロミネンスを超える灼炎竜を放ったウィッカー。
「ミラー・・・セシリアはまだ失うわけにはいかん。分かっているな?」
「はい、心得ております。俺の結界はこの距離からでも有効です」
前を向いたまま言葉を口にする皇帝は、ミラーの返事を聞くと魔力を集約させた両手を重ね合わせ正面に向けた。
「ならばよし。ウィッカー、ジョルジュ、この二人にはここで消えてもらおう」
爆発の上級魔法 光源爆裂弾
皇帝の両手から放たれた膨大な魔力の塊
辺り一帯を消し飛ばし、焼野原にする程の破壊のエネルギー弾が撃ち放たれた。




