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29 再び

「2,000イエンでどうでしょうか?」

「2,000か、なんでその値段になった?」

2時過ぎにジャレットさんが帰ってきたところで、早速手袋の話になった。

俺の提示した値段に、ジャレットさんは高いとも、安いとも言わず

表情も変える事なく理由だけを問いただす。


「はい、まずこの手袋は状態から見て新品同様だと思います。手を入れて握ってみましたが、

硬すぎず、柔らかすぎず、使いやすかったのと、甲部分に鉄が入っていて、防御力が高いのも評価点です。

もし、日本にこれがあったとしたら、定価がおそらく5,000円、あ、ここでの5,000イエンくらいかと思ったので、新古品として4,500イエン出し、それなら2,000イエンで買取りかと判断しました」


俺の説明にジャレットさんは、無言で軽く2度頷いた。


「アラやん、手袋の性能はその通りだな。ちゃんと見たのは分かった。握った感触、甲の鉄の補強も評価しなければならない点だ。定価も、そのくらいだろうな。俺も5,000~6,000イエンだと思う。でもな、それならなんで2,000イエンだ?これはアラやんの言う通り、新品同様だ。それなら、もっと買値は高くていいんだよ。3,500イエンだ」


「3,500ですか?そんなに付けていいんですか?」


それでは、4,500イエンで出したとして、1,000イエンしか利益がでない。

戸惑う俺に、ジャレットさんは軽い口調で、いいんだと答えた。


「アラやんも元の世界で同業だったんなら、なんで2,000イエンなのか想像はつくよ。利益だろ?あと、人件費やら建物管理の維持費なんかも考えてたのか?

それなら2,000イエンってのは理解はできる。でもな、それじゃあ買い取れても、次は来てくれねぇかもな。出すところは出さないと駄目だ。兜より高くなっけどよ、そこはちゃんと理由言って納得してもらうんだよ。納得して、金額に満足してもらえりゃ、また持ってきてくれるし、

信用があれば買う時もうちから買ってくれる。それが高価買取りってヤツよ」


確かにその通りだ。

俺もいらなくなった本やCDを売りに行って、予想より大幅に安かった店には、二度と持って行かなかった。


日本で働いていたウイニングは、チェーン店だったためマニュアルがあり、本当はもっと高く付けていい物を、そこそこの値段しか付けられず、他店に持って行かれた事は何度もある。

そう言えば村戸さんは店長だが、会社の方針には異議を唱えて、本社によく電話をしていたっけな。


そして今の俺も、ウイニングのマニュアルでこの手袋を査定していた。俺はジャレットさんの説明に納得すると同時に、少し落ち込んだ。

3年間、日本でリサイクルショップの店員として働いていたから、ここでもある程度できるだろうと、心のどこかで査定を甘く見ていた。


初日にレイチェルにも、買取りについて言われたではないか。信用が一番大事なのだという事を全く分かっていなかった。


「アラやん、お前ほんとに真面目だな?このくらいでなにへこんでんだよ?

ニホンではどうだか知らねぇが、こっちの買取りは何も分からねぇから、皆で教えんだよ。

1人前になんのは時間かかって当然なんだから、何回でも間違えりゃいいんだっての。

つーか、お客に言われたんならともかく、俺の指摘なんかで下向くなっての!まったく、査定額以外は正解だったんだぜ。目利きは良いもん持ってんだから、その調子で頑張っていけばいいんだよ。俺とお揃いのタンクトップ欲しいんだろ?」


「はい!頑張りま・・・え!?」

ジャレットさんの言葉に感動し、大きく返事をしようとしたところで、言葉が止まってしまう。

お揃いのタンクトップ?

そう言えば防具担当になってすぐに、そんな話をしたような・・・すっかり忘れていた。


「ん?急に固まってどうした?一人前の防ラーになって、俺と同じタンクトップ着るために頑張んだろ?そう言ってたじゃねぇか?」

「あ・・・はい!もちろんですよ、もちろん!」

良い事言うなと感動していただけに、タンクトップのくだりでの落差が大きく、

かなりこわばった顔で返事をしたように思うこれさえなければ本当に良い先輩だと、つくづく思った。


兜と手袋は、ジャレットさんの提示した金額通り、兜3,000イエン、手袋3,500イエンで無事に買取りができた。


なぜ兜が手袋より安いのか、ジャレットさんは丁寧に説明をした。

折れた角のままでは売る事ができない。そのため、自然に見えるように、加工しなければならないのだが、

それにかかる時間と手間を伝えると、3,000イエンでも買い取ってもらえるだけ助かるよと、

納得して売ってくれたのだ。


手袋は、やはり定価は5,000~6,000イエンだったのだろう。

3,500イエンの提示に、何も言わず納得したように頷いていた。

その様子に、お客としても希望額はその位だったのだろうと見てとれる。

2,000イエンでは、渋い表情をされただろう。


俺ももっと勉強しなければと思う。

時計の針は4時を回り、だんだんと人の入りが少なくなってきた。

夏場で陽が長いとはいえ、この世界では暗くなる前に家に帰る事が習慣として根付いているのだろう。


ここも5時閉店なので、そろそろ陳列を直したり、落とし物のチェックなど、閉め作業に入ろうとすると、出入口付近で、金属が激しくぶつかるような、耳をふさぎたくなる大きな衝撃音が鳴り響いた。

あまりに大きな音に店中の視線が一斉に、音の方に向いた。


何事かと急ぎ駆けつけると、お客同士が転げながら激しく組み合っていた。

周囲にはディスプレイの剣や鎧が散乱し、ショーケースも割れて、ガラス片が飛び散っている。

「なにやってんですか!?喧嘩はやめて・・・!?」


仲裁に入り気が付いた。上に乗り、拳を振り上げた男の顔は、目の焦点も合わず、

口の端からはだらしなく涎を垂らし、聞き取れない奇声を発している。

どう見ても正常じゃない。


「まさか、これはあの時の?」


それは二ヵ月前、初めて俺が戦った時と同じ症状の男だった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

今日の朝は忙しくなりそうなので、深夜投稿してみました。

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