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【258 6年の歳月】

243話の続きです。

「ヤヨイ、仕事中にごめんな。テリーとアンナが、ママの働いているところを、どうしても見たいって言ってさ」


夫のパトリックが、三歳になった娘のアンナを抱っこしながら、すまなそうな顔で謝った。


アンナは夫の首に両手を巻き付けるようにして、しがみついているので、夫は少し苦しそうだ。

いつもの光景だけど、本当にアンナは甘えん坊だ。


「あら、いいのよ。今は空いてる時間だし、ママのお仕事を応援しに来てくれたのかな?」


レジを出て、夫に抱っこされているアンナの頭を撫でると、嬉しそうに笑ってくれる。

私はこの笑顔にいつも癒される。




アンナは私似だ。

切れ長の目だし、黒髪だ。アンナはそれが嬉しいようで、私と一緒だといつも言っている。


今日は朝、家を出る時にアンナの髪をポニーテールにしてみた。

アンナの髪をいじるのは私の楽しみの一つだ。



ちなみにアンナが今日来ているピンクのワンピースは、私が生地から選んで作った物だ。


お裁縫をモニカさんに習って、毎日のように買い取った古着を補修していたから、さすがに苦手なお裁縫も上達したのだ。


夫が、ママに似て将来は絶対美人になるぞ。といつも言うが、私の前で言うのは照れてしまうので、できればやめてほしい。嬉しいけど。



その隣には、五歳の息子テリーが、なにやら誇らしげな顔で私を見つめていた。


「ママはレイジェスの店長なんでしょ?友達がさ、みんなママの事カッコイイって言ってるんだ!それに、友達のママにも褒められたんだよ!テリー君のママのお店があるから助かるって!」



テリーは夫に似ている。

夫と同じシルバーグレーの髪は、少し短めにして、スポーティーな感じにしている。


夫は自分と同じ長髪にしたいらしいけど、男の子だし、私としては外で元気に運動して欲しいので、髪が目に入ったりしないように、テリーの髪は短めにさせてもらっている。



愛嬌のある顔立ちなので、街の人からもよく声をかけられて、可愛がられている。


友達の家に遊びに行って、その家のお父さんも一緒に剣士ごっこをやって遊んでもらう事もあるそうだ。


わんぱくでちょっと困らされる時もあるけれど、妹のアンナも懐いていて、良いお兄ちゃんになってくれているのが嬉しい。




「テリー、ここはね、ママだけのお店じゃないんだよ?ママは店長だけど、ママの上には王様もいるし、オーナーのブレンダン様もいるの。ウィッカーさんやジャニスさん、モニカおばあちゃんもいるでしょ?みんなのお店なんだよ」


「そうなの?店長ってお店で一番偉いんじゃないの?」


腰を落とし、テリーと同じ目線で話しをすると、テリーはきょとんとした顔で、首を傾げた。


「そうだよ。ママは店長だから、何か困った事があったら頑張らなきゃならない時はあるけど、お店って言うのはみんなで力を合わせてお仕事するところなの。メアリーちゃんはポーさんを作るし、リン姉さんは武器や防具の手入れをするの。ニコさんは手先がとっても器用だから、小物入れやお人形を作るでしょ。そうやって、みんなで協力してお仕事をするの。

テリーも大きくなったら、素敵な仲間がきっと沢山いるからね。みんなで力を合わせて頑張る気持ちを大事にしてね」


「うん!分かったよ!ボクもレイジェスのみんなみたいに、カッコイイ仲間と頑張るね!」


「うん、テリーなら大丈夫!きっとカッコいい仲間が沢山できるよ!」


大きな声で宣言するテリーが可愛くて、私はぎゅっと抱きしめた。





結婚して五年、二人の子供はすくすくと育っている。


リサイクルショップレイジェスの運営も順調だ。

ただ、私が当初想定していたより、需要が大きかったようで、あまりの買取の多さに隣に別館を出したのだ。


隣は元々空き家で売りに出されていた。


作りが店舗向けではなかったけれど、やはりこの国の独特の美的センスのせいか、少し内装をいじるくらいで、店としてできそうだったので、買いとったのだ。


また、別館を買った事で、以前から要望が多かった武具の取り扱いも始める事にした。


魔法大国として名をはせるカエストゥスだけど、五年前から体力型の育成にも力をいれ始め、城には剣士の数も増えてきたのだ。


それにともない武具の需要も増えたので、不要になった武具を買い取り、メンテナンスして販売するようになった。


別館は武具が多いので、一番知識のあるリンダさんに任せている。






「6年か・・・あっという間だったなぁ」


「え?ママ、どうしたの?」


秋風が店内に入り、気持ちの良い涼を届けてくれる。


風になびかれた髪を整え、テリーの頭を優しくなでると、くすぐったいよ、とテリーが体をひねって逃げようとする。


「ふふ・・・テリーとアンナが元気に育ってくれて、ママは幸せだなって思ったの」


「そうなんだー、じゃあボク、もっと元気いっぱいになるね!それならママもっと幸せ?」


「うん!ママ幸せでいっぱいになるよ。テリーは優しいね」


もう一度テリーの頭をなでると、やはりテリーは、くすぐったいと言って逃げ出そうとする。

そんな私とテリーの様子を、夫は目を細めて見つめている。


「アンナもー!アンナもママとあそぶー!」



私とテリーが遊んでいるように見えたアンナが、夫の腕から脱出しようともがくので、落ちたら大変だと少し慌てながら、夫はアンナの両脇を持ってゆっくりと下ろした。


下りるなりアンナは私の胸に一直線に飛び込んできた。


胸に受ける重みは、娘の成長を感じられるものだった。







「お?テリー君にアンナちゃん、遊びに来たのか?」


かけられた声に振り返ると、ウィッカーさんが両手いっぱいに買い取った古着をかかえて立っていた。

この五年で、ウィッカーさんはずいぶんたくましくなったと思う。

体力型と比較しても遜色のない引き締まった体付きは、毎日のトレーニングの賜物だ。



ジョルジュさんからは弓を、リン姉さんからは剣とナイフを、ドミニクさんからは盾を使った防御術まで教えてもらい、魔法使いなのに格闘術まで習得していた。


なんでそこまで鍛えるのだろう?最初は疑問に思ったけれど、多分ウィッカーさんは備えているんだ。万一の時、大切な人を護る事ができるように。



体力型は魔法を使う事はできないけれど、魔法使いは武器を使う事もできる。

以前、ジョルジュさんのお父さんの、エディさんが言っていた言葉だ。


確かにその通りだけど、筋力的に劣る魔法使いが、体力型に匹敵する程・・・いいえ、ウィッカーさんはもはや、並みの体力型では及ばない程に鍛えられている。

本当にすごいと思う。


さすがにリンダさんには敵わないけれど、そこそこ良い勝負ができるくらいにはなっているので、リンダさんも負けられないなと言って、トレーニングに気合が入っている。



「ウィッカー兄ちゃん!」

「ウィッカーちゃんだー!」



テリーとアンナがウィッカーさんに走って行く。


二人はウィッカーさんにとても懐いている。やっぱり、孤児院で子供達の面倒を見ているからか、子供達の相手がとても上手なのだ。


それに、今は自分も父親なのだから。



「パトリックさん、こんにちは」

「おう、ウィッカー、また奥さんとティナちゃん連れてご飯食べに来いよ」


「ふふ、そうね。うちのテリー、ティナちゃんの事ちょっと意識してるっぽいの。ぜひ連れて来てね」



ウィッカーさんとメアリーちゃんには、テリーと同い年のティナちゃんという一人娘がいる。

両親と同じ金色の髪に、メアリーちゃんと同じ青い瞳の可愛い女の子だ。


うちのアンナは甘えん坊だけど、ティナちゃんはちょっと大人びた性格で、礼儀正しくてとてもしっかりとしている。




「ウィッカー様、このポーさんすごい・・・あ!パトリックさん、テリー君とアンナちゃん、こんにちは」


みんなで話していると、メアリーちゃんがポーさんのぬいぐるみを抱いて来た。

この秋の新作で、紅葉を持っているデザインだ。

今日も沢山売れていたので、喜びを伝えてにきたんだと思う。



メアリーちゃんに気付いた子供達は、メアリーちゃんだー!と声を上げて抱き着いて行った。

メアリーちゃんも、ニコニコしながらテリーとアンナをぎゅっと抱きしめる。




メアリーちゃんはティナちゃんが産まれてから、お母さんという印象になった。


今までと変わらずウィッカーさんに甘えるし、元気いっぱいなのだけれど、子供を一番に考えている事がよく分かる。


みんなで集まっても、テリーやアンナにも気を配っていて、危ない事をしないように見ていてくれるのだ。

それに、なんだか大人の女性という雰囲気になった。


結婚前は可愛いという感じだったけれど、今は綺麗という言葉の方が合う。


二人目もそろそろ欲しいです。と話していたので、ティナちゃんがお姉さんになる日も近いかもしれない。






「じゃあ、公園にでも遊びに連れて行くよ。仕事、頑張ってな」

テリーとアンナの気が済んだところで、夫は子供達を連れて帰って行った。



「ウィッカーさん、メアリーちゃん、近いうちにまた家にご飯食べに来てね」


「はい。ティナもテリー君とアンナちゃんに会いたがってるし、ぜひ」


「ヤヨイさん達も、家にもいらしてくださいね」



結婚を機に、私は孤児院を出て、パトリックさんのお家に入った。


孤児院に行く回数は減ったけれど、レイジェスは週に5日の営業なので、残り2日は孤児院にお手伝いに行くようにしている。


私のお休みだけど、レイジェスの5日間の営業日のうち、1日休んで、あとは何か用事がある時に休むようにしている。


ウィッカーさんも同じようにしているけど、メアリーちゃんは、週に3日孤児院に行って、レイジェスには2日間入っている。メアリーちゃんが働く日は、ティナちゃんは孤児院で見てもらっている。


私とパトリックさんが働きに出て、モニカさんも都合が悪い日は、テリーとアンナも孤児院で見てもらう事がある。ブレンダン様は、託児所みたいになってきたな、と笑っていた。




ブレンダン様も来年で70歳だけど、まだまだ元気だ。


孤児院にも新しい子達が増えて、今では20人になった。


でも、トロワ君とキャロルちゃんが16歳になって、すっかりお兄さん、お姉さんになったので、とても助かっている。いまでは孤児院は二人を中心にしっかり回っているので、ブレンダン様も安心できている。


それに、スージーちゃんとチコリちゃんも、いつの間にか大きくなってもう8歳、年下の子達の面倒をちゃんと見てくれて、とても頼りになる。


本当に子供達の成長は早いなって思う。






「あ、そう言えば、今日ジャニスさんがジョセフ君連れて遊びに来るって聞いたわよ」


「え!?ジャニス、今日来るんですか?」


「本当ですか!久しぶりですね!じゃあ、体調はもう大丈夫なんですね?」



ジャニスさんは難産だったので、出産後しばらく休んでいたのだ。


普通に出産しても、体調が安定するまではもちろん体を休めるけれど、

ジャニスさんは私やメアリーちゃんの時より大変で、すごく消耗していたので、私達はみんな心配していたのだ。



「うん。もうすっかり良くなったみたい。家事もやってるみたいだし、街まで出て来ても大丈夫だって聞いたわ」


ジャニスさんが大丈夫だと聞いて、ウィッカーさんもメアリーちゃんも喜んでいる。


二ヵ月は会っていないし、私も会える事が楽しみだ。





みんなで集まって子供の話しをする。


この世界に来たばかりの頃は、まさか自分がここで家庭を持って、お友達と出産や子供の話しをするなんて、夢にも思わなかった。




最近は日本の事はほとんど考えなくなってきた。


なんだか、日本にいた時の事は、夢だったんじゃないかって思う時もある。


でも、私は確かに日本で産まれ育った。それは間違いない。


できれば、テリーとアンナ、二人の可愛い子供を日本のお母さんに見せてあげたかったな。






「すいませんーん!会計お願いしまーす!」


「あ、はーい!すみません、今行きます!」



お客さんにレジに呼ばれたところで、私達は会話を切り上げた。




日本での記憶は時間とともに薄れていく。

でも大切な事はしっかり覚えてるし、ふいに私が子供だった時の事を思い出す事もある。





お母さん、あのね、私の子供達、大きくなってきたよ


毎日新しい発見があって、本当に驚かされてばかり


特にアンナは甘えん坊で、いつも夫と私にくっついているの


そこが可愛いんだけどね




私も小さい頃、甘えて困らせた事あったよね




お人形さんが欲しくて、おもちゃ屋さんで泣いた事、思い出したんだ


あの時、いつも厳しいお母さんが、しかたないわね、ってちょっと笑って買ってくれて

私嬉しくて、毎日抱っこして寝てたよね




お母さん、ありがとう



私もテリーとアンナに、精一杯の愛情を上げて育てて見せるね




心の中で、私は今日も日本の母に手紙を出した




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