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254 闇から解き放つ力 ②

ブレンダン・ランデルは、タジーム・ハメイドの黒渦を、闇魔法と呼んだ。


タジームは黒魔法使いだが、黒渦はあまりに異質だった。

バッタ擦りつぶし、捻じ切り、呑み込んでいく様を目にした時、寒気を覚え、そもそも黒渦は魔法なのか?とさえ考えた。


幸いにも、バッタを殲滅して以降、黒渦を使う事はなかった。

ブレンダンは安堵した。


孤児院での暮らしの中で、タジームは少しづつ変わっていった。人に興味を持ち、気にかける事まである。

人に対して心を閉ざし、いつも硬い表情をしていたタジームだが、時間と共に穏やかになっていった。


もう黒渦のような、恐ろしい魔法を使う事もないだろう。


だが、それでも一抹の不安が胸にあった。




いつか・・・いつか、必要になるかもしれない。


そこからブレンダンの研究が始まった。

闇に対抗する力は光。


目的は闇を打ち消す力。


弟子のウィッカー、ジャニスとの三人で成功させた三種合成魔法 灼炎竜結界陣

異なる三系統の魔力を融合し作り出した魔法だ。


だが、灼炎竜結界陣は、合成魔法だが新しい系統の魔法ではない。


ブレンダンの研究は、闇を打ち消す新魔法、光魔法を作り出す事だった。

青魔法単独で光魔法を作る事はできない。他の二系統も同様だ。


だが、三系統の魔力を合成すれば、作れるかもしれない。


不可能と思われた三種合成魔法ができたのだ。

今度もできるはずだ。


ブレンダン、ウィッカー、ジャニスの三人は新しい魔法、光魔法の研究を始める事になる。





「・・・結局、200年前は完成しなかった。だけど、大部分はできていたし、俺には時間だけはあったからな・・・・・一人で試行錯誤しながら研究を続けたよ」


ウィッカー・バリオスの体が光に包まれる。

すると、先程まで感じていた闇の瘴気によるプレッシャーが、何事もなかったかのように消えてしまった。



「・・・うん、大丈夫だな。やはり、トバリと同じか。光の魔法ならば太刀打ちできる」


黒渦に対しては初めてだが、自分の光魔法が通用するかどうか、すでにトバリに対しては試していた。


光を身に纏っていてれば、トバリが姿を現す事は無かった。

そのためウィッカーは、夜も自在に動く事が可能だった。


三階へ続く階段を一段一段登りながり、ウィッカーは自分の考えがやはり間違っていなかったと確信を得た。


黒渦とトバリ、呼び名こそ違うが、この二つは同じであると。



王子の黒渦がカエストゥスを飲み込むまでは、夜も普通に外を歩けたのだ。


だが、あの日以降全てが変わった。

最初はカエストゥスだけだった。

だが、ゆっくりと時間をかけ、闇はクインズベリーにも、ブロートン帝国にも広がり、夜、外を歩くと闇に食べられる。これは大陸の常識になった。



黒渦という言葉は、ごく少数しか知らない。

王子が人前で黒渦を使用したのは、バッタの時と、あの最後の時だけだ。



夜のとばりが降りたら外に出ては駄目だよ


こういう親の教えが、いつしか黒渦、夜の闇を、トバリ、という名の怪物に変えたのだろう。



「親の教え・・・か」


三階に登り、通路を塞ぐように渦巻く闇の瘴気を、光を纏った手で払う。

あっけない程簡単に闇の瘴気は霧散していく。




俺は良い父親だっただろうか・・・・・

短い生涯を終えた我が子を思い出し、どうしようもない喪失感で胸が締め付けられる。


メアリー・・・・・

最愛の妻の顔は今もハッキリと瞼の裏に思い起こすことができる。

俺は、ちゃんとキミの気持ちに応えられていただろうか?

真っすぐなキミの愛情に、俺も真っすぐ気持ちを伝えられていただろうか?


俺なりに妻を、子を大事にしてきたつもりだ。

だけど、もっと何かしてあげられたんじゃないか?

もっと笑顔にする事、もっと楽しませる事、もっと思い出を作って、もっと一緒にいたかった・・・


どんなに大切にしてきても、失う時は本当に一瞬だった。



ウィッカーの心には、あの日以来埋めようの無い大きな穴が開いている。

この200年、心から笑えた事は一度も無い。


何度も死のうと思い、それでも歯を食いしばり生きて来た。


全ては・・・・・師ブレンダンの、ジャニスの、ヤヨイの、みんなの想いを果たすためだった。



「・・・・・ここだ」


玉座の間の重厚な扉は、かつての重々しくも王の権威を表す煌びやかな装飾は見る影も無く、片手で軽く押すだけで何の抵抗も無く押し開く事ができる程、脆くなっていた。




「・・・・・王子、200年ぶりですね」



玉座の間に一歩足を踏み入れる。

足を乗せたレッドカーペットは、多くの血を吸い込んだ事でもはやどす黒く変色し、風が吹けばボロボロと散ってしまうほどに、朽ちて果てていた。



そのカーペットの十数メートル先、王の座るべき椅子には、200年前と変わらぬ姿のタジーム・ハメイドが座っていた。




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