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【242 結婚式】

5月15日


ウィッカーさんとメアリーちゃんの結婚式だ。


街の教会で行われ、お城からも沢山の人が集まって二人を祝福した。

純白のウエディングドレスに身を包んだメアリーちゃんは、溜息がでるくらい綺麗だった。


私が憧れの眼差しを向けているのを察してか、隣に座るパトリックさんが、そっと手を握ってきた。


目を向けると、少し照れ臭そうにしているけど、じっと私の目を見て離さないので、私は微笑みを返した。

パトリックさんは最初の頃が嘘のように、しっかりとしているように思う。

魔法兵団副団長に昇進もして、最近は訓練にも一層気が入っているようだ。

なんだかここ最近、急に逞しくなったように思う。




ウィッカーさんとメアリーちゃんは、神父様の前で誓いの言葉を述べ、指輪を交換し口づけを交わすと、教会内に拍手が沸き起こり、沢山の祝福の言葉が向けられる。


ウィッカーさんは孤児ではないけれど、小さい頃から見て来たブレンダン様は、満足そうに、そしてまるで我が子を見るような温かい眼差しを向けていた。


ジャニスさんも普段はウィッカーさんを、ちょっと雑に扱ったりしているけど、

やはり小さい頃からずっと一緒にいたからだろう。二人は幼馴染であり家族なんだ。

目元をハンカチで押さえながら、何度もおめでとうと口にしていた。


孤児院の子供達、タジーム王子、お城のみんな、ジョルジュさん一家、リンダさんにニコラさん、アラルコン商会のレオネラちゃん、沢山の人達に祝福され、二人はとても幸せそうだった。


羨ましいな、私も結婚したくなってきた。


私の手を握るパトリックさんの手を、今度は私が力を入れて握り返した。






「素敵な結婚式でしたね」


その日の夜、子供達を寝かしつけた後、私とブレンダン様とジャニスさんの三人は、一階の広間で紅茶を飲んで結婚式のお話しをしていた。


王子も誘ったけれど、俺はいい、とだけ言って子供部屋へ行ってしまった。


だいぶ打ち解けられているとは思うけれど、まぁ、タジーム王子がこうしてお茶を飲みながら、今日は良かったね!と話すというのも、柄ではないのかなと自分で納得した。


風もなく、柔らかな月明かりがほんの少し部屋に差しこむ、穏やかで静かな夜だった。



主役のウィッカーさんとメアリーちゃんは、今日はウィッカーさんの自宅に泊まる事になった。


メアリーちゃんのご両親は、式やお食事が終わると村に帰ろうとしたのだけれど、ウィッカーさんのご両親が今日は泊まっていきませんか?と声をかけ、メアリーちゃんと一緒にウィッカーさんのお家に一拍する事になったのだ。


ウィッカーさんの家は、お母さんが一番強いらしく、お父さんは影が薄いと言っていた。

確かに、ウィッカーさんのお母さんはずっと話し続けていて、お父さんは隣でニコニコして聞いている感じだった。


メアリーちゃんのご両親は、前にウィッカーさんから聞いた通りのイメージで、メアリーちゃんのご両親という感じだった。


ウィッカーさんのお母さんが、こんな息子で~、とウィッカーさんを駄目息子扱いすると、メアリーちゃんのご両親は揃って、いいえ!ウィッカーさんなら安心です!と力強く答えるのだ。


メアリーちゃんの家でのウィッカーさんの評価は非常に高いようだし、ご挨拶に行ったらすぐに息子扱いされたと言うし、気に入られているのは何よりだろう。


「そうじゃな、本当に良い結婚式じゃった。ワシはこれまで孤児院を出た子供達の結婚式に、何十回も参列したが、みんな本当に幸せそうじゃった。ウィッカーも本当に幸せそうじゃった・・・嬉しい限りじゃよ」


「うん。私も感動したよ・・・でも、あのウィッカーがねぇ・・・男の子ってすぐに大きくなるよね」



少し寂し気に呟くと、ジャニスさんは紅茶を口に運びゆっくり味わうように喉に流した。


「・・・なんだか、こんなに静かなの・・・久しぶりですね」


「・・・そうじゃな、ほんの一年前は、大人はワシとウィッカーとジャニスしかおらんかった。ウィッカーは通いで来ておったから、夜はワシとジャニスだけじゃったしな。それが、メアリーが来て、ヤヨイさんが来て、リンダとニコラも来て、ジョルジュやパトリック達、商会のレオネラ・・・ほんの一年で大勢が集まるようになった。こんなに静かなのは、本当にひさしぶりじゃな」


「そうだね・・・たった一年で、色んな事が変わったよね。あ、もちろん良い方にだよ・・・私、ヤヨイさんが来てくれて嬉しい・・・」



「・・・私も、ここに来れて、この孤児院に住めて、ジャニスさんに会えて嬉しいわ」



紅茶を飲んだあと、ブレンダン様がなんとなくお酒を飲みたがっているように見えたのだ、私はジャニスさんをキッチンに呼んで、今日はブレンダン様と一緒に飲まない?と誘ってみた。


ジャニスさんも、なんとなく分かってはいたみたいで、昼間あんなに飲んだのに、と小さく息を付くと、しかたないと言うように棚からおつまみを取り出した。


私は普段、あまりお酒は飲まないけれど、今日は私とジャニスさんがブレンダン様に付き合った。

結婚式の後の会食で、ジョルジュさんの父エディさんと、パトリックさんの父ロビンさんの三人で、たっぷりお酒を飲んでいたのに、今日はまだまだ飲み足りないのだそうだ。




「ヤヨイさん、あまり飲めんと言うが・・・けっこういける口じゃな?」


「ふふ、そうですか?あまり飲まないので、自分ではよく分かりませんが、強いのかもしれませんね」


「そうですよー、ヤヨイさん全然顔変わってないー」


「あら・・・ジャニスさん、もう真っ赤ね・・・」


「ほっほっほ、久しぶりに見たのう、ジャニス、お前すぐ真っ赤になるから、飲まんと言って最近付き合ってくれんからな」



ブレンダン様は饒舌だった。

ウィッカーさんの子供の頃の話しを、懐かしむように沢山話してくれた。


小さい頃から魔力が強く、同世代の子供達より頭一つも二つも抜きんでた才能を持っていて、この子は将来国を背負う程の魔法使いになるかもしれないと感じた事。


よくジャニスさんと喧嘩しては、二歳下のジャニスさんに負かされて悔しがっていた事。


10歳の時、初めてタジーム王子と一緒に修練を行った時、当時わずか4歳だった王子の圧倒的魔力を目の当たりにしても、腐らず努力を重ねた事。


トロワ君とキャロルちゃんが入ってきて、お兄さんとして張り切っていた事。


お城の魔法兵団から、入団要請があっても断り続け、大臣からの心象が悪くなった時、ロビンさんが助けてくれた事。


「あの・・・どうしてウィッカーさんは、そんなに魔法兵団に入りたくないんですか?この前も、ロペスさんに副団長のイスを用意されたのに、すごく困った感じで断ってましたし・・・・孤児院の仕事もありますし、レイジェスも手伝ってくれてますので、忙しいのは分かるんですが、それだけではないような気がして」


「ん、あぁ・・・そうじゃな・・・まぁ、大した理由はないんじゃ。ウィッカーはの、ただ自分が人の上に立って、あれこれ指示をするのが向いてないと思うておるんじゃ。実力はロビンやロペスより上、王子を除けばこの国一の黒魔法使いじゃ、じゃが自分には周りを引っ張る気持ちの強さがないと思うておる」



ブレンダン様の表情は、どこか歯がゆさを感じているように見えた。

確かに、ウィッカーさんはお城の魔法兵団に指導をしに行く程の実力者だし、あのロペスさんが自分の代わりにと副団長に押す程の実力者なのに、孤児院にいる時のウィッカーさんは、子供達にいじられて、トロワ君に怒られたり、なんと言うか・・・



「・・・きっと、優しすぎるんですね」



まだ一年足らずの付き合いだけど、私はウィッカーさんの優しさを知っている。

きを使って、自分が損をしちゃう事もあるけれど、それはそれだけ周りの事を考えているというウィッカーさんの優しさだ。

だから、あくまで外部から指導に行くのならいいけれど、きっと自分が中に入ってあれこれ決める事になると、その考え過ぎる性格のせいで、かえってうまくいかなくなると思ってるんだろう。



「・・・弱いリーダー、か・・・」


「弱いリーダー?」

ジャニスさんがグラスを空けたので、おかわりを注ぎ目を向けると、私の疑問を察して言葉を続けてくれた。


「あ、あの時ヤヨイさんいなかったよね。あのね、去年、王子の軟禁を解くために、私とウィッカーと師匠がお城へ行ったの覚えてる?」


「えっと、うん。覚えてるわ、最初は大臣との話し合いに行ったのよね?」


あれは去年の夏の終わり頃だったと思う。

私はまだこの世界に来たばかりで、孤児院にもようやく少し慣れてきた頃だっただろうか。


タジーム王子がバッタの一件での、黒渦という魔法を使用した事で、国を危険にさらしたという言いがかりとしか言えない責任を追及され、城へ軟禁されていたのだ。


納得のいかないブレンダン様達が、大臣との話し合いに城へ出かけた事があった。



「あの日ね、帰りにロビンさんに会って色々話したの。で、ロビンさんがまた魔法兵団に誘ったんだけど、ウィッカーがなんか弱気な事言うから、ロビンさんが言ったのよ。お前は周りに助けてもらう弱いリーダーでいいって」


「そう言えば、そんな事があったのう・・・ロビン、あやつ、あれでたまに良い事言うから驚くわい。

ウィッカーも、その言葉は心に響いたようじゃった。・・・うむ、今は本人がやりたがらんから無理じゃろうが、力があればいつか回ってくるかもしれん。その時が来れば、嫌でも上に立つしかなかろうな・・・ウィッカーの考えるリーダーとしてな」



ジャニスさんとブレンダン様は、これまでの事を思い出すように、目を閉じて少しの間、思い出にふけっていた。



ジャニスさんの気持ちは、恋愛ではなく、家族としての喪失感のようなものだと思う。

子供の頃から一緒に育ったウィッカーさんが結婚した事で、言いようのない切なさを感じているのではないだろうか。


この世界の結婚は、10代のうちでも特に早いとは思われないようだ。

ジャニスさんも、誰か良い人が見つかって幸せになってほしい。



「のう、ジャニス・・・お前も、もし誰か見つかったら、ワシに遠慮せんでええんじゃからな」


「ん?・・・師匠・・・私、そんな人いないから、まだまだしばらく面倒かけるつもりだよ」



「親というもんはな、子供にはずっと子供でいてほしいと思う反面、もう親がいなくても大丈夫なんだと思いたい・・・そういう気持ちがあるんじゃよ」


「師匠、なに言いたいのか、よく分かんない」


ずっと一緒にいてほしいけど、親は先にいなくなる。

だから、まかせられる人が現れてくれたら、大切な娘をまかせて安心したい。


私には、ブレンダン様の気持ち分かったけれど、ここでは口をはさまないでおこう。

今度、ジャニスさんの様子を見て、ブレンダン様の気持ちを伝えよう。



それからしばらくして、酔いが回ったジャニスさんが飲み潰れると、私は二階にジャニスさんを運んで、一階へ戻ると今度はブレンダン様が潰れてテーブルに伏せて寝ていた。


さすがに男性のブレンダン様は重かったので、肩へ毛布をかけた。



「・・・ブレンダン様、今日は本当に楽しい一日でしたね」



ブレンダン様の寝顔は、どこか笑っているように見えた。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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