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【237 恋愛感情】

私達が孤児院に帰った時には、時計の針は20時近くなっていた。


丁度、男の子達がお風呂に入っているところで、今日はジョルジュさんが一緒に入っているらしい。

意外と言ったら失礼だけど、ジョルジュさんが子供をお風呂に入れる姿が想像できず、とても意外だった。


「あれ、リン姉さんは?」

ニコラさんが私達のために夕食のスープを温め直しながら、リンダさんがいない事に気付き首を傾げる。


「あぁ、リン姉なら今日は城に泊まって、明日帰ってくるって。ドミニクさんが一緒に酒飲もうって誘ってさ、リン姉もまんざらじゃないと思うんだよな」


ウィッカーさんの言葉に、ニコラさんは、へぇ~!と大きく言葉をもらした。


「そっか、ドミニクさんがリン姉さんに気があるのは知ってたけど、じゃあ、リン姉さんもなのかな?うーん、喜ばしいけど、リン姉さんに彼氏できたら私ちょっと寂しいかも・・・」



ニコラさんとリンダさんは仲が良く、一度孤児院を出た後も付き合いが続いていて、今ではレイジェスで一緒に働いてくれている。

私はまだ数ヶ月の付き合いだけれど、二人の仲の良さは一緒にいてよく分かる。


確かに、一人に彼氏ができたら、もう一人は寂しく感じるかもしれないなと思った。



「じゃあ、ニコラさんも彼氏作れば?」



ジャニスさんの直球に、ニコラさんが、え!?と目を開いた。


「あ、その通りだな。ニコ姉も彼氏作ればいいんだよ」


ウィッカーさんも乗って来る。


「あら、素敵ですね。私もニコラさんなら、すぐに良い人が見つかると思いますよ」


メアリーちゃんが、キッチンから温め直したスープを運んで来て、テーブル席に座った私達に配りながら、ニコラさんに顔をむけて微笑む。



「え、えぇ~・・・だって、私、そんな・・・今まで男の人と付き合った事ないし」


ニコラさんは火を消して、俯きながらもじもじする。


「ニコラさん、大丈夫です!私もウィッカー様だけです!お付き合いした人数なんて関係ありません!」


「・・・メアリーちゃんってなんか説得力あるよね」


「はい!ありがとうございます!」


純粋なメアリーちゃんの言葉は、心にすっと入り、つい納得してしまう。

ニコラさんは、ちょっと考えるように天井を見上げると、でも、やっぱ私は難しいかな、と、メアリーちゃんに笑ってみせた。







「モニカさん、ナタリーさん、ジョルジュさん、ありがとうございました」


翌日、朝食を終えた後、玄関で三人を見送る。

今日は朝からとても天気が良く、心地よい春の風が優しく頬を撫でる。


「気にするな。それよりヤヨイ、城での話しは昨日聞いたが、なにかあればすぐに連絡しろ。遠慮はいらん」


ジョルジュさんは、ブーツを履き、玄関ドアに手をかけると、顔半分振り返り、念を押すように声をかけてくれた。


昨晩、子供達を寝かしつけた後、大人だけで一回の広間に集まり、お城でのブロートン帝国との対談の内容を話した。


ロペスさんが、最低限通したと言う要求には、みんな納得をしてくれた。

ベン・フィングの件は、やはりブロートンも認めず、現状維持になってしまった事に、ジョルジュさんは眉を潜めていたけれど、現実問題として今以上の処分を下す事ができないのは分かっているので、特に口を挟む事はしなかった。



「はい。何もなければいいのですが、もしもの時にはジョルジュさん、頼りにしてますね」


「あぁ、それとトロワ、ちょっといいか」


「え?なんだよジョル兄」


みんなの後ろに立っていたトロワ君が急に名前を呼ばれ、前に進み出ると、ジョルジュさんは少し腰を曲げて、トロワ君に目線を合わせた。


「お前は素質がある。だから体を鍛えておけ。これからはもう少しここに来る頻度を増やす。俺は体術にも覚えはあるから、お前に教えてやる」


「え!ジョル兄、本当?」


突然の事に驚いたみたいだけど、トロワ君は期待の目でジョルジュさんを見つめる。


「あぁ、本当だ。お前はいつも子供達のリーダーと言っているだろ?ならば、もっと強くなれ」


ジョルジュさんは顔を上げ、ブレンダン様に顔を向ける。

トロワ君に対して、自分が鍛えてもいいか答えを聞いているのだろう。ブレンダン様は少し頷く形で了承の意を示した。


「ウィッカー、お前もだ。昨日俺が渡した弓で練習しておけ。いいか、風だ。風は誰でも感じ、読むことはできる。弓を構え、心を正し、風を読む、いいな?」


分かったと返事をするウィッカーさん。

ウィッカーさんは、魔法使いだけど、ジョルジュさんの父、エディさんの言葉に影響を受け、最近体力作りに励んでいる。


体力型に比べれば、筋力はどうしても劣るけれど、魔法使いだからと言って、剣や弓が使えない訳ではない。

ジョルジュさんから見ても、ウィッカーさんの正確性は優れているようで、弓は向いていると言われていた。



「ジョルジュさん!あの・・・6月1日・・・私の11歳の誕生日なんです・・・」


話す事も話し、いよいよジョルジュさん達が帰ろうとした時、キャロルちゃんが呼び止めた。

少し先だけど、後一か月でキャロルちゃんの誕生日だ。

もじもじしているキャロルちゃんに、ジョルジュさんは笑って言葉をかけた。


「そうか、ならば盛大にお祝いしないとな」


キャロルちゃんは大輪の花を咲かせたような、笑顔を浮かべると、ありがとうございます!と大きな声でお礼を口にした。


モニカさんとナタリーさんは、お誕生日会楽しみね、とキャロルちゃんに声をかけ、三人はそれじゃあまた、と言って帰って行った。




時計を見ると9時に差し掛かっていた。

そろそろ孤児院を出て、レイジェスの開店準備をしなければならない。


「ブレンダン様、そろそろレイジェスに行ってきます」


「おぉ、疲れておらんか?体調はどうじゃ?」


昨日、セシリア・シールズから受けた攻撃の事を聞かれているのだろう。


「はい、ジャニスさんにヒールをかけてもらいましたし、ベットでちゃんと寝れましたので、すっかり元気です!」


少しオーバーに、力こぶを作るまねをして腕を見せると、ブレンダン様は笑って、それなら大丈夫じゃな、と頷いてくれた。


「あ、ヤヨイさん、今日はジャニス様が孤児院を見てくれますので、ウィッカー様と私が行きますね」


メアリーちゃんがショルダーバックをななめ掛けにして、お出かけの準備を始めた。


「その、青いカーディガン、とっても綺麗な色ね・・・いつ買ったの?」


メアリーちゃんが今日来ている青のカーディガンは初めて見る物だった。青が強すぎず、これからの季節に合うとても爽やかな色合いに、目をひかれると、メアリーちゃんは隣のウィッカーさんに抱き着いて、満面の笑みを見せた。


「はい!先週、ウィッカー様と町へ出かけた時、ウィッカー様がプレゼントしてくれたのです!私の瞳と似た色で似合いそうだからと言ってくれました!愛です!感動です!」


「あら!ウィッカーさん、そういう事いうんだ・・・素敵ね」


「い、いや、その・・・ヤ、ヤヨイさん勘弁してくださいよ」


メアリーちゃんが包み隠さず話し、私がちょっと意地悪そうに見つめると、ウィッカーさんは顔を赤くしてたじたじになった。



「う~ん、やっぱり彼氏って羨ましいかも・・・悩む・・・どうしよう」


「ニコさんならすぐにできると思うけど、昨日も難しいなんて言ってたけど、出会いが無いとか、なにか理由があるの?」


ニコラさんは女の私から見ても、とても可愛い。

背は150cm程で、本人はもう少し高い方が良かったと言うけど、小顔だし、パッチリ二重で、男性からすれば、護ってあげたくなるタイプというヤツだと思う。


柔らかそうな少し内巻きの金茶色のセミロングで、思わず触りたくなる髪も魅力的だ。



「う~ん、出会いがなかった訳じゃないんです。でも、私って、どうも・・・変な人に好かれやすいみたいで・・・」


「変な人・・・?具体的にどんな?」


聞き返すと、ニコラさんはあまり思い出したくないのか、少し眉を寄せて話し出した。



「・・・なんて言うか、ちょっと良い感じになった人とかはいるんですけど・・・なんか、私に変な幻想を抱いているって言うか・・・」


「変な幻想?」


「はい・・・小さくて可愛いね、とか。そう言う外見を褒められるのはよく言われました。なぜか、小さいのが好きな人が多かったですね。あと、やたら私を子供扱いしようとしたり、子供向けの服をプレゼントしてきたり・・・・・思い出したら気持ち悪くなってきた・・・・・・ヤヨイさん、これって何なんでしょう?」



「・・・えっとぉ・・・」


それはいわゆる小さい子供が好きな、そういう趣味の人達なんだろう。


確かにニコラさんは身長150cmくらいで、細身で小柄で顔立ちもやや童顔だから、21歳といういけどもう2~3歳若く見える。服装によっては15~16歳くらいでも通せるかもしれない。


ニコラさんはよほど不快だったのか、苦虫を噛み潰したような顔で、気持ち悪っ!と言って両手で自分の体を抱きしめ、顔をブンブン横に振っている。


確かに、そういう目で見られたり、子供服を着て欲しいとプレゼントされたりしたニコラさんからすれば、気持ち悪くてしかたないだろう。



こういう時は一緒になって、気持ち悪いね!とでも言えばいいのだろうか?

それとも、当たり障りなく、大変だったね。でいいんだろうか?

どうしよう?初めてのケースで分からない。


私が何て言葉をかけようか迷っていると、メアリーちゃんが神妙な顔で近づいてきて、ニコラさんに抱き着いた。



「ニコラさん、それは嫌な思いをしましたね。でももう大丈夫です!私はニコラさん大好きです!今度ニコラさんが困る事をする人がいたら、私が怒ってあげます!」


メアリーちゃんは純粋だ。

とても綺麗な心で、いつも誰かのために行動している。

ニコラさんの目をしっかりと見て、私が護ります!と言わんばかりに小さな握りこぶしを見せる。


「・・・・・メアリーちゃんが、怒ってくれるの?」


「はい!私がニコラさんの代わりに、そういうのは駄目です!って怒ってあげます!」


ニコラさんは、少しメアリーちゃんを見つめると、クスッと声を出して笑い、メアリーちゃんを抱きしめた。


「・・・ありがとう!私・・・また恋愛してみたくなったよ。私にも、良い人見つかるかな?」


「はい!ウィッカー様みたいな素敵な男性がきっと見つかりますよ!」


「・・・・・え~、ウィッカー?・・・」


ニコラさんがウィッカーさんに、ちょっと困ったような顔を向ける。


「ちょ、ちょっと、ニコ姉!なんでそんな顔で俺を見るんだよ!?」


ウィッカーさんには悪いけど、ウィッカーさんをネタにする感じで、いつもの孤児院の空気に戻った。ちょっとかわいそうだけど、今日だけ我慢してもらおう。


それにしても、メアリーちゃんはすごいな。

私は頭で色々考えちゃったけど、メアリーちゃんは心で話したみたい。だからニコラさんの心に、あんなにスッと入っていったんだろうな。



私はニコラさんに近づいて、小声で謝った。


「ニコさん、ごめんね。なんか、嫌な事思い出させちゃって」


「え?うぅん・・・気にしないでください。私が勝手に話したんだし・・・実は、リン姉さんには話した事なかったんです。言ったら多分怒って、あの人達に文句言いにいきそうな気がして」


「・・・それは、あるかも。すごい仲良しだもんね」


否定しきれない。リンダさんは、けっこう感情のままに動くところがありそうだ。


「でも、やっぱり私、引きずってたんです。だから、ちょっと吐き出したくて・・・私こそ、へんな空気にして気を遣わちゃってごめんなさい」


ニコラさんも、私に小声で謝ると、みんなにいじられて、ちょっと落ち込んだウィッカーさんに抱き着いて頭を撫でているメアリーちゃんに顔を向けた。


「・・・メアリーちゃんて、本当にすごいな・・・なんだか、メアリーちゃんに言われると、言葉が抵抗なく入ってくるんです。本当に気持ちの綺麗な子ですよね・・・ウィッカーにはもったいないですよ」


「あ、ニコさん、前にもそんな事言って、メアリーちゃんに振られたわよね?」


「あ!そ、それは・・・私が男だったらって話しで!もう、ヤヨイさんの意地悪!」



そう言って歯を見せて笑うニコラさんは、今までで一番可愛い笑顔を見せてくれた。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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