【233 話し合い①】
サブタイトルが、233のところを、間違って232にしていたので訂正しました。
内容に変更はありません。
4月30日
「みんな、今日はよく来てくれた。国王陛下の事は聞いていると思うが、今は俺が実質この国の舵を取っている立場だ。今日の対談は、カエストゥスとブロートンの今後を左右する極めて重要な話し合いになる。俺は一歩も引く気は無い。ブロートンの出方次第では最悪の形になる可能性もあるが、それでも引く事はできない。なぜなら一歩でも引けば、その一歩が侵略の足掛かりにされてしまうからだ。
カエストゥス国のため、俺は断固戦う!この命を懸けてだ!」
ブロートン帝国の要人との話し合いは、カエストゥス国首都バンテージ、エンスウィル城で行われる事になった。
ブロートン帝国からすれば敵国になるだろうと思ったのだけれど、ドミニクさんが言うには、わざわざこちらに来る事は、大陸一の軍事国家としての余裕を見せる事と、あえて敵国に来る事で、プレッシャーをかけたいという思惑があるという事らしい。
今、お城の会議室で私達を前に力強い声を上げている人こそ、現在カエストゥス国を引っ張っているエマヌエル・ロペスさん、その人だ。
年齢はロビンさんより上に見える、50歳くらいだろう。
白い毛が半分ほど混じった頭髪は、綺麗に後ろに撫でられており、黒縁の眼鏡はその鋭い眼光によるキツイ印象を消すのに一役買っているようだ。
背はロビンさんよりは低く細身だけれど、清潔感のある白いシャツの上からでも分かる体つきは、しっかりとして見える。
魔法兵団長ロビンさん、剣士隊隊長ドミニクさん、元剣士隊のリンダさん、大陸一の青魔法使いブレンダンさま、大陸一の黒魔法使いウィッカーさん、大陸一の白魔法使いジャニスさん、そして私の7人は、この日のブロートン帝国との話し合いのため、代表として立つロペスさんの護衛に付いた。
あらためて、私以外の6人を見るとすごい顔ぶれだと思う。
ブレンダン様、ウィッカーさん、ジャニスさんは毎日見ているから、ちょっと感覚が慣れてしまっていたけれど、それぞれの分野で大陸一の魔法使いが三人揃っているのだ。
そして、魔法兵団トップのロビンさんに、剣士隊トップのドミニクさん、そしてリンダさんは役職にこそ付かなかったけれど、実質剣士隊二番手の実力者だ。
私はこの場にいていいのだろうか?と疑問を感じてしまったけれど、私の中のもう一人の弥生は、ドミニクさん曰く、ドミニクさんより強いらしいし、孤児院を襲撃したジャーグール・ディーロという殺し屋も倒したという事なので、大丈夫だよね・・・と自分を納得させた。
この日、孤児院は大人が五人も空ける事になったので、モニカさんとナタリーさんに応援をお願いした。二人とも快く引き受けてくれて、本当にいつも助けられている。
そして、ちょっと驚いたのが、ジョルジュさんも来てくれたのだ。
男手が必要な事もあるだろう。そう言って来てくれたのだ。
この前、ドミニクさんから聞いた話しを思い出す。
ジョルジュさんは私達と出会い、変わった・・・良い方向へと言っていた。
私は前のジョルジュさんの事は知らないけれど、きっと人との付き合い方を知らなかっただけで、元々優しい人なんだと思う。
だって、あんなに子供達がなついているんだから・・・・・
みんなが助けてくれるから、孤児院は安心だ。
私は、護衛の仕事に集中する事にした。
「ブロートン帝国、大臣のジャフ・アラムです」
「カエストゥス国、大臣代理のエマヌエル・ロペスです。本日は遠いところご足労おかけしました」
ジャフ・アラムという男は、一言で表すとネズミのような男だった。
年の候は60程だろうか。
薄い頭髪、背は低く160cmも無いだろう。痩せこけていると言っていい程の頬、狡猾そうな眼付きに、薄笑いを浮かべ、肉の薄い唇を舌でなめずさるしぐさは、まるで常に人を欺く事を考えているようにすら見える。
「ほぅ・・・大臣、代理・・・ですか?大臣のベン・フィング殿は、お噂の通り現場に復帰はできていないようですな?」
ブロートン帝国の大臣、ジャフ・アラムはいたって平静を装って問いかけてくるが、その質問はロペスさんへの軽い探りのようだった。
「えぇ、ご存じの通り、まだ復帰できておりません。まぁ、我が国はベン・フィングが不在でも優秀な人材が沢山おりますので、なんら支障はありませんがね」
「ならば、国王陛下へも心労が無さそうで大変結構な事ですな」
「えぇ、全くその通りです」
テーブルを挟み向かい合う二人は、表面上は穏やかな笑みを崩していないが、言葉に端々に含んだ牽制に、場の空気は緊張感をはらんでいた。
「・・・そろそろ、本題に入りましょうか。回りくどい言い方はしません。昨年、我が国に入り闘技場や街の孤児院に襲撃をかけた殺し屋ディーロ兄弟、あれはそちらの国の殺し屋ですな?国民は危険にさらされ、街の孤児院は建物が半壊された。これについての責任を取っていただきたい」
あまりにストレートな言葉に、私は目を見張った。
元居た世界で、政治家が他国と貿易などで交渉をする際、テレビを通してだが、ここまでストレートな物の言い方は聞いた事が無いからだ。
外国の大統領はともかく、日本の政治家ではまずいない。
ロペスさんはテーブルに肘を付き、両手を組ませ、射抜くような鋭い視線を対面のジャフ・アラムに向けている。
「おい!なんだその言い方は?証拠でもあんのかよ?」
ロペスさんの言葉に、ジャフ・アラムより先に反応したのは、ジャフ・アラムの後ろに立ち控えていた、ブロートン側の七人の護衛の一人だった。
2メートルを超える大きな男で、窓から差し込む光に淡く光る、深紅の鎧を身に纏っている。
鎧の肩口から覗く二の腕は、男の腕力の強さを一目で分からせる程に太く、まるで丸太のようだった。
30代後半から40代くらいだろう。
坊主頭に雷のようなラインをいくつも入れていて、無精髭を生やしている。
ロペスさんに暴言を吐き、今にも掴みかからんと一歩前の出るその様は、分かりやすいチンピラのようだったが、その巨躯のせいもあり、圧力は凄まじいものがあった。
「コバレフ、ここは話し合いの場だ。下がっておれ」
正面を見据えたまま、ジャフ・アラムは静かに、だが決して反論を挟ませない低く押さえつけるような凄みのある声を発した。
それを受け、コバレフと呼ばれた男は黙って一歩後ろへ足を引く。
「・・・いやいや、これは失礼しました。彼の名はセルヒオ・コバレフ。我が帝国軍は体力型を四つの師団に分けているのはご存じでしょう?コバレフは第四師団の団長です。これが血の気の多い男でしてね、国に対する忠誠心が非常に高い・・・それはもう、上役の私に少しでも敵意や、そう・・・あざけるような言葉がむけられただけでも、つい暴動を起こしてしまう程に・・・」
ジャフ・アラムは、わずかに片方の眉を上げ、ロペスさんの出方を伺うように見据える。
その表情には余裕と言うのだろうか、侮るような笑みさえ浮かんでいた。
おそらく、これまでもこういう交渉や話し合いの席で、武力をちらつかせ優位に進めてきたのだろう。
「ほう、それは怖いですな。ジャフ大臣、まるであなたでも制御できないと言っているように聞こえますな。そうでしたら危ないので、コバレフさんにはぜひ退席願いたい」
「・・・なんですと?」
予想外の言葉だったのだろう。
ロペスさんの言葉に、ジャフ・アラムはそれまでの余裕を持った笑みが消え、眉間にシワを寄せて言葉を発した。
「おや、聞こえませんでしたかな?ここは話し合いの場ですよ?お互い護衛を付けてはおりますが、まさか本当にやるつもりはありませんよね?
まぁ、もしそちらがしかけるつもりであれば、我々も身を護らねばなりませんからな、正当な防衛はさせてもらいます。
その意思が無いのであれば、制御できないコバレフさんには、退席してもらった方が、そちらとしても平和的に話し合いができてよいのでは?そう思った次第ですが、いかに?」
腕を組み、イスの背もたれにこれ見よがしに深く背中を預けるロペスさんを見て、思わず、すごいと言葉がもれそうになり、私は口を押えた。
これが魔法兵団副団長のエマヌエル・ロペスさん。
今は緊急を要するという事で内政に一時的に復帰しているという話しだけれど、本当にこのまま内政をまかせたい胆力と話術だ。
テーブルを挟み対峙するブロートン帝国、大臣ジャフ・アラムは、頬をピクピクと引きつらせ、苛立った様子を見せたが、すぐに大きく息を付き、後ろに立つコバレフに振り返らず言葉をかける。
「・・・コバレフ、以後、私の許可無くカエストゥスで力を駆使した行動を禁ずる。分かるな?」
「はい・・・」
コバレフは、大臣ジャフ・アラムの後ろで、怒りに満ちた表情で私達を睨む付けていた。
「第一戦はロペスさんの勝ちだね」
隣に立つジャニスさんが、前を向いたまま私にだけ聞こえるくらいの小声で言葉を発した。
私も前を向いたまま、そうね、と隣のジャニスさんにだけ聞こえるくらいの小声で返す。
さて、これからどうなるだろう・・・・・
おそらくこの場での戦闘は無いと思う。
だけど対面に並び、深紅の鎧、深紅のローブなどに身を包む、深紅で染まった七人のブロートンの護衛からは、いつでも仕掛ける準備ができていると言うように、私達にほんの僅かな殺気を向けてきている。
命令があれば、その瞬間彼らは殺しにかかってくるだろう。
そう思わせる静かで研ぎ澄まされた殺気が、彼らから感じられた。
私は私の中の弥生に語り掛けた。
弥生・・・もしもの時はお願いするね・・・・・
あなたの気持ちも聞かず、都合の良い事かもしれない。
だけど、私には戦う力は無いから。
あなたにお願いするしかないの。
この世界の私の大切な人を護るために、あなたの力を貸して・・・・・
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。




