【230 15日繋がりの二人】
「開店して三週間とちょっとかぁ、やっと落ち着いてきたわね」
レジに入ると、モニカさんがシャツのボタンを縫い付けながら話しかけて来た。
みんな、手が空いている時は、だいたいどこかで黙々と修理作業をしている。
ここ数日落ち着いてきたけれど、買い取った古着や家具類は店に出しきれない程あり、修理も追いついていないのだ。
だから、時間を見つけては修理をするのが当たり前になっている。
「そうですね。最初の一週間なんてもうお昼もとれないくらいでしたから。あ、やっぱりモニカさんお上手ですね。すごい慣れてる感じです」
「あら、ボタン留めくらいでそんなに褒めないで、照れちゃうわ」
「私、お裁縫は苦手で、みんな上手だからちょっと恥ずかしいです」
クリスマスプレゼントでマフラーを編んだ時には、メアリーちゃんに付きっきりで教えてもらい、それからも時間を見て、ボタン留めも教えてもらったりしているけど、どうやら私はお裁縫は苦手なようだ。
「今まであんまりお裁縫やった事なかったんでしょ?しかたないわよ。焦って覚えるものでもないし、ゆっくり覚えていけばいいわ。でも、ヤヨイさんにも苦手なものがあってちょっと嬉しいわ」
「え?どうしてですか?」
普通はなんでもできる方がいいのではないだろうか?
首を傾げる私に、モニカさんはちょっとだ意地悪そうな笑みを浮かべる。
「だって、私も少しは義母として良いところが見せられるじゃない?ヤヨイさん、お料理上手だし、お掃除、お洗濯も完璧だわ。一つくらい、私が教えてあげられる事が欲しかったの」
「モニカさん・・・・・」
なんだか泣きそうになってしまった。
パトリックさんにプロポーズされて、婚約者にはなったけれど、まだ結婚したわけではない。
でも、モニカさんは私をもう娘として見てくれている。
「あらあら、そんな顔しないで。意外と涙もろいのかしら?・・・こっちのシャツ、袖が少し切れてるの、一緒に縫いましょう?」
「・・・はい。ありがとうございます」
少し目頭が熱くなってしまった。
モニカさんの娘になりたい。心からそう思った。
4月15日
ウィッカーさんの誕生日だ。ウィッカーさんは二十歳になった。
パトリックさん一家と、ジョルジュさん一家、魔法兵団のエロール君とヨハン君、アラルコン商会のレオネラちゃんが孤児院に集まって、誕生日パーティーを開催した。
もはや、いつものメンバーと言ってもいいと思う。
ウィッカーさんは、もうこの年だし、自分の誕生日はお祝いしなくていいと言っていたけれど、ブレンダン様の鶴の一声でやる事になった。
ジャニスさん曰く、去年までは誕生日のお祝いはしていたけれど、こんなに大勢で盛大にやる事はなかったらしい。
だからジャニスさんも、自分のお誕生日会の時、実はとても驚いたそうだ。
「クリスマスパーティーとほとんど同じ感じじゃない?私もすごい楽しかったし、またやりたいと思ったんだけど、多分、師匠は完全に味をしめちゃったのよ。ほら、お酒の相手が今までいなかったでしょ?ロビンさんとエディさんを呼びだす、良い口実になってるのよ」
テーブルに目を向けると、もの凄い上機嫌な男三人が、イエーイ!と言わんばかりに乾杯してお酒を飲んでいる。そしておつまみを持ってお酌をするモニカさんと、ナタリーさん。
ジャニスさんの推理はおそらく当たっている。この光景はなんだかデジャブだ。
「ま、しかたないね。師匠も今までずっと一人でチビチビ飲んでて寂しかったんだよ。
子供達多いから、ほぼ毎月になると思うけど、月に一回くらいは、こうしてみんなで楽しい時間を過ごせるのって良いと思うしね」
「ジャニスさん、お父さん想いね」
「いやいや、酒飲みの親を持つと苦労するわ」
両手の平を上に向け、肩をすくめて笑う。
呆れた感じに言っているけど、ジャニスさんはブレンダン様を本当の父親として見ている。
孝行娘だなと思った。
「ウィッカー様と私は、15日繋がりなんです!」
メアリーちゃんはキャロルちゃんに、誕生日の繋がりを熱の入った口調で語っていた。
メアリーちゃんの誕生日は5月15日、ウィッカーさんは4月15日なので、覚えやすいし15日繋がりというのは確かにその通りだ。
メアリーちゃんは運命としか言いようがないと、朝からずっと語っている。
「そうそう、メアリーちゃんの言う通り運命なんだから、ウィッカー兄さんにも運命のメアリーちゃんを大事にするように、私からも話しておくね」
「さすがキャロルちゃんです!キャロルちゃん大好きです!」
メアリーちゃんは感激したようで、キャロルちゃんに抱き着く。
最近キャロルちゃんは、メアリーちゃんの扱い方と言ったら悪いけど、ウィッカーさん絡みのメアリーちゃんの対応がすごく上手い。
メアリーちゃんを満足させて、最短の時間で話しを切り上げているのだ。
「じゃあ、さっそく運命のウィッカー兄さんを呼んでくるから、メアリーちゃん待っててね」
「はい!よろしくお願いします!」
キャロルちゃんは、メアリーちゃんを抱きしめ返すと、手を振ってウィッカーさんを呼びに広間へ行った。
メアリーちゃんは一階広間のイスに腰を掛けて、自作のポーさんぬいぐるみを抱きしめてニコニコしている。
ちなみにこのポーさんぬいぐるみは特別仕様で、頭の部分には金髪をイメージした黄色の毛糸を使い、金髪ポーさんにしてある。メアリーちゃんだけの、ウィッカーポーさんだ。
メアリーちゃんのウィッカースイッチが入った時は、黙っていると何時間でも話されるので、ウィッカーさん本人を呼んできた方がいい。
これがキャロルちゃんの出した結論で、全員の共通意思になっていた。
少し経つとキャロルちゃんがウィッカーさんを連れてきて、ごゆっくり、と言って離れる。
「メアリーちゃんの事は好きだから、10分くらいなら話し聞くけど、さすがに何時間もウィッカー兄さんの事だけを、延々と聞かされるのはちょっとね」
キャロルちゃんが近づいてきて、私に小声で耳打ちする。
「そうね・・・私もメアリーちゃんは好きなんだけど、ウィッカーさんの魅力を何時間も延々と聞かされるのだけは・・・ちょっとね」
以前、メアリーちゃんがちょっと元気の無い時に、私とキャロルちゃんの二人で、メアリーちゃんの気が済むまで、ウィッカーさんへの想いを聞いた事があったけれど、1時間なんて序の口なのだ。今思えばよく最後まで聞いたなと思う。
「あはは、まぁ、メアリーちゃん、本当に幸せそうですよね。ほら、あんなに笑ってますもん。来月の結婚式、メアリーちゃん幸せすぎて倒れたりしないといいけど」
キャロルちゃんの言葉に、広間のテーブルに目を向けると、メアリーちゃんはこの上ない程幸せそうな笑顔で、隣に座るウィッカーさんの腕にしがみついている。
ウィッカーさんも笑顔でメアリーちゃんの頭を撫でているので、二人の幸せそうな姿に、私は胸の中が温かいもので満たされる気がした。
「ウィッカーさんなら、絶対に幸せにしてくれるわ」
「そうですね、兄さん真面目だし、誠実なのは間違いないから大丈夫ですよ」
いつもお世話になっているウィッカーさんとメアリーちゃん。
私の大切なお友達の二人には、絶対に幸せになってほしい。
今日はウィッカーさんの誕生日。
本当なら主役のウィッカーさんを、みんなで囲むはずだけど、幸せそうな二人を見て、そっとしておこうと言うようにみんな目配せをしていた。
きっと、ウィッカーさんとメアリーちゃんには、
二人きりの時間が一番の誕生日プレゼントなんだと思う。




