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【228 弥生の店】

ゲーリーが剣を振り下ろした瞬間、リンダはその身を捻り右へ躱しつつ、手にした短剣でゲーリーの剣の腹を斬り付けた。

その一撃では剣の腹に僅かな傷しかつける事はできず、リンダの一撃は意味の無い行為に思えた。


だが、リンダは右手首を返し、腰を捻ると、振り抜いた軌道を辿るように、今付けたゲーリーの剣の腹の傷を、そのままもう一度斬り付けた。


リンダの短剣がゲーリーの剣の傷を捉えた瞬間、リンダの右手が瞬間的に膨張し、とてつもない力が込められた。


次の瞬間、ゲーリーの剣は真っ二つに切り裂かれ、斬られた剣先は宙を舞う事になる。


弥生の目が捉えた一瞬の攻防だった。




「リン、今の技すごいね・・・連双斬って言うの?」


モップを肩に掛けた弥生が話しかけてくる。戸惑わなかったわけではない。


話しは聞いていた。ヤヨイの中にもう一人の弥生がいると、だが、実際に会ってみると、リンダの知っているヤヨイとは、外見こそ変わらないが、身に纏うオーラとでも言おうか、雰囲気そのものは完全に別人だった。



「・・・あぁ、私の必殺技だよ。一撃目で対象に傷を付け、二撃目はその傷に引っ掛けて斬り裂く。ヤヨイ・・・もしかして見えた?」


「うん。なるほどね、その技を使うんなら、小回りのきく短剣の方がいいよね」


「・・・すごいなぁ、私、スピードは自信あるんだけど、まさか一度で連双斬を見抜かれるとはね」


ヤヨイはヤヨイだ。

もう一人が全く違う人格だとしても、ヤヨイが受け入れている弥生ならば良いじゃないか。



「ヤヨイ・・・ごめんね。私のせいで、みんなを、お客さんもこんな危険な目に合わせて・・・ごめんなさい」



店の周りには、買い物に来ていた客、騒ぎを聞きつけて集まった大勢の人が集まり、成り行きを見守っていた。

リンダはその人達に向かい謝罪の言葉を述べ頭を下げた。




「・・・皆さん!このような騒ぎに巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした!」

リンダが頭を下げ続けるのを見て、弥生も謝罪の言葉と共に深く頭を下げた。


「すみませんでした!」

「申し訳ありません!」


メアリー、ジャニス、ニコラ、モニカ、ウィッカー、次々と集まり、自分達を見つめる人々へ頭を下げる。



これほどの騒動になったんだ・・・

もう駄目かもしれない。


そんな不安がそれぞれの心によぎる



「・・・まぁ、驚いたけど、誰か怪我したわけではないしなぁ・・・」

「そうですね。それに、悪いのはその男の人なんでしょ?」

「レイジェスも被害を受けてるって事だしな・・・俺達が責めるのは違うよな」

「あとは城に連絡して、そっちと話せばいいんじゃない?」

「もうこんな事ないようにだけ頼むわ」

「それより、私のアクセサリーの査定を頼みたいわ」

「あ、私はポーさんが欲しいので、次の入荷日を教えてください!」



一人、また一人と声を出す。

弥生達に掛けられる言葉は、決して責めるものではなく、むしろ励ましてくれるものがほとんどだった。



顔を上げると、集まっていた人達はみんな口々に、営業の再開を望む言葉をかけてくれた。


もう解決だろ?早く俺の服を査定してくれよー。ほらほら、みんな待ってますよー。

店員さんも大変だよね、でも俺も会計待ちだから早くしてね。



「・・・ありがとうございます!本当にありがとうございます!」


弥生は何度も頭を下げた。


こんな危ない店に二度と来るか!と罵られる事を覚悟していたが、街の人たちは驚く程あっさりと許してくれたのだ。

いや、レイジェスに非は無いとかばってさえくれる。


店から外に出たお客は店内に戻り始め、騒ぎを聞きつけ集まった人達も、せっかくだし見ていくかと店に入り出した。


倒れているゲーリーは、ウィッカーが縛り上げリンダと一緒に裏口から事務所に運び込んでいた。

運んだ後、リンダは城へ報告に行くと言い残し、駆けて行った。



最後のお客が店に入るのを見届けると、入口の横に立っていたタジームと目が合う。




「・・・お前がもう一人だな?なかなかの腕だった・・・・・槍術に似ているが違うな。初めて見る戦闘術だ。それだけの腕があれば、王宮仕えも可能だろうな」


タジームはもしもに備え、いつでも魔法を撃てるように構えていた。

ヤヨイにまかされた店の責任者という立場を忘れてはいなかった。


結果的に、弥生とリンダでゲーリーを制圧してしまったが、もし本当に危険な状況になっていたら、タジームの魔法でゲーリーは今より大きなダメージをうけていただろう。




「タジーム王子、アタシとは初めましてだね。ヤヨイから聞いてるでしょ?変な言い方だけど、アタシが元の新庄弥生。と言ってもこっちの世界じゃ、もうあの子が主人格だけどね。

アタシは戦闘担当ってとこかな・・・今日みたいな事があればまた顔を出すよ」


「そうか・・・まぁ、出る出ないはお前の好きにすればいい。俺は一言だけ言いたくて待っていただけだ。一応俺がこの店の責任者になっているが、お前は今この店を代表して最後まで頭を下げ続けた。ヤヨイとお前、心根は同じだな・・・・・立派だったぞ」



タジームの言葉に弥生は目を開いた。


ヤヨイを通してこれまでの人間関係や、生活は全て見て把握できていた。

そして、タジームが変わってきている事も感じていた。

以前、ヤヨイは一度ありがとうと言われた事がある。そして、今回は立派だと褒められた。

そして、その言葉は弥生の心に確かな重さを持って染み入った。



「・・・王子様からのお褒めの言葉・・・か、こんなに響くもんなんだね・・・」



タジームは言いたい事だけ言うと、すぐに店の中に入って行ったが、弥生はすぐには入らず、タジームがかけた言葉を心の中で思い返していた。



「ヤヨイさーん!混みこみだからちょっとレジ入ってー!」


店内からヤヨイを呼ぶモニカの声が聞こえる。だが、今ヤヨイは眠っている。


「・・・しかたないな・・・今日はアタシがやってやるか」


起こして変わる事はできる。


でも、さっきまで大変だったし、今日は休ませてやろう。


そんな言い訳で自分を納得させて、弥生は久しぶりのレジに立った。



「お待たせしましたぁ!次にお待ちのお客様、こちらにどうぞー!」




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