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【22 悪魔王子】

しばらくアラタ達は出てきません。

かつてプライズリング大陸には、風の加護を受けているカエストゥスという国があった。

透き通るような美しく澄んだ川、自然と触れ合うための大きな公園がいくつもある、緑豊かな国だった。


また、人口の八割を占めるほど魔法使いが多く、一人一人の魔力の強さも高い水準にあった事から、魔法大国としても名をはせていた。


体力型は少なかったが、魔法使いにはできない力仕事や、護衛など、体力型ならではの用途で重宝され、大陸最強の軍事力を誇るブロートン帝国を、脅かすほどの力を備えていた。


緊張感を持ちながらも、なんとかバランスを保ち、交流を続けていた両国だが、

一人の天才の誕生によって、やがて戦火を広げていく事となる。


悪魔王子 タジーム・ハメイド

カエストゥス国、第一王子として産まれた彼は、物心のつく前から魔法の英才教育を受けて育った。

産まれながらにして高い魔力を持っていた彼は、

8歳になる頃には国一番の使い手で、師でもあるブレンダン・ランデルすら凌駕する魔力を身に着けていた。


タジームが13歳の時、カエストゥス国東部でバッタの大量発生があった。

この年、大陸東部では大雨が続いたことから植物が繁茂し、それがバッタの大繁殖へと繋がった。


農地の作物を食い荒らし、数百億にまで増えたバッタの群れは、天を覆う程の巨大な黒い塊となって飛び立った。


バッタは毒を持っていた。

高密度の状況下で繁殖を繰り返した事により突然変異が起こり、通常より大きく発達した顎には毒が含まれていた。噛まれれば、神経に作用し、体はしびれ動けなくなり、呼吸も困難に陥りやがて死に至る。


バッタの移動した町では、食料被害に加え、この毒による犠牲者も増え、パニックで逃げ惑う人々や、むやみに炎や爆発魔法で攻撃をしたため、それによる建物倒壊などの二次災害もおきていた。

このバッタによる甚大な被害が国に伝わった時、

バッタはあと3日程でカエストゥス国、首都バンテージに到達する距離まで迫っていた。


太陽を隠し、昼を夜に変える程のバッタの群れを見た調査兵の報告を聞くと、国王を始め大臣、幹部の間に絶望が広がった。


国中の魔法使いが攻撃魔法を放ったとして、空を埋め尽くす数百億という数のバッタを、消すことが果たしてできるだろうか?時間はあまり残されていない。

このままバッタの襲来を許せば、毒による死者はどれほどの数になるだろう。

農作物、貯蔵されている食料は食い荒らされ、大規模な飢饉に陥る事は間違いないだろう。


そして弱体化したところをブロートン帝国が救援、バッタの駆除という名目で実効支配に乗り出して来ることは予想に難くない。


甚大な被害を覚悟で戦うか、国民の命はどう守るか、逃げるしかないのではないか、

城内で行われた会議の場では、意見が全くまとまらず、最後は国王の決断に委ねられた。

国王ラシーン・ハメイドが、難しい決断を迫られた時、師ブレンダンと同席していたタジームが声を上げた。

「俺がやるよ」



王族らしくない。

それがタジーム・ハメイドを見た者の第一印象だろう。

煌びやかな衣装も、宝石のついた冠も、そんな王族らしい格好は一切せず、

まるで平民のような、飾り気が無く地味な服を好み、坊主に近い程短く刈り込んだ頭をしている。

気品という言葉に程遠いところにタジームはいた。


「国王、師匠、俺がその虫共を消してやるよ。」

父とは言え国王に対する口の利き方ではない。そして国王に対して向ける眼差しは、何の感情の色もない、空虚なものだった。

それは、これまでの国王がタジームに対して、どのように接してきたかを物語っていた。


タジームは国王から遠ざけられていた。

タジームには、なぜ国王が自分を遠ざけるのか分からなかった。

少なくとも、3歳、4歳くらいの小さかった頃は、弟と同様に可愛がられていたと思う。


だが、成長するにつれ、国王の自分を見る目に怯えが映るようになった。

やがて自分を遠ざけるようになり、10歳になる頃には全く顔を見る事も無くなった。


ある日、なぜ国王は父親なのに自分に会おうとしないのか、思い悩んでいたところに、

国王と大臣が二人で話をしているところを見つけ、声をかけようとした。


「あの魔力・・・そしてあの日の光景が目に焼き付いて忘れられん。

ワシはタジームが怖い・・・アヤツは本当にワシの息子なのか?まるで化け物ではないか?」


「陛下の仰る通り、タジーム様の魔力は人外。強すぎる力は、恐怖の対象になる事もございます。

国民に恐れられるだけでしょう。王位は、弟君へお考えなられてはいかがでしょうか?

タジーム様は幸い、ブレンダンには心を開いておいでのようです。このままブレンダンにお預けになられて、静かに生活される事が、タジーム様の幸せかと存じます」


タジームは踵を返すと、そのまま王宮を出てブレンダンの元に行き、

それ以降、王宮の生活には戻らなかった。



タジームはただ父の愛情を感じたかった。弟と同じように親子としての会話が欲しかった。

母である王妃を早くに亡くし、タジームは母の愛情を知らずに育った。もし母親が生きていれば、タジームの運命は全く違ったものになっていただろう。



今回のバッタの対策会議にも、ブレンダンの口添えが無ければ、タジームはこの場にいる事は無かったであろう。


「王子、何を言っておられます?空を埋め尽くす数百億のバッタですぞ?王子の魔力の高さは認めますが、いくら何でもお一人で駆除できるとは思えません」

大臣はタジームの言葉を真っ向から否定した。

それにつられた様に兵士達も顔を見合わせ、口にこそ出さないが、眉を寄せ疑わしい目を向けてきた。

タジームは黙って父である国王を見据えていた。


「ラシーン国王、ワシはもはや王子の足元にも及びません。王子の魔力を計り知る事もできません。ですが、ワシもかつてはこの国一の使い手と言われたものです。そのワシから見て、王子でしたら可能性はあるかと存じます」

師であるブレンダンだけは、タジームを信じていた。


齢60を超え、ブレンダンの頭髪は真っ白になっていた。

白いおじちゃん。ブレンダンは町の子供達に、そう呼ばれ慕われていた。


魔法使いとして国を支えながら、身銭で孤児院を開き、多くの少年少女を育てていた。

常に子供達の未来を考え行動する。

そんなブレンダンだからこそ、タジームがどんなに心を閉ざそうとしても、

正面から向き合ってとことん話をし、信頼を切らずにいた。


「ブレンダン・・・お主がそう言うのであれば・・分かった、タジームよ、お前に託そう」


タジームに向けての言葉ではあるが、国王は目を伏せ言葉を発した。まるでタジームと目を合わせる事を恐れるように。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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