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【215 王子のいるリサイクルショップ】

「・・・俺には思いつかんな。ヤヨイの店なんだ。ヤヨイが好きな名前でいいだろ」


夕食の後、子供部屋に行こうとする王子を引き留めて、テーブルで話しの場を作った。

話しの内容はもちろん店の名前だ。でも、王子の返事は予想通りと言えば予想通りだった。


「王子・・・私だけの店じゃありません。みんなのお店です。だから、王子もリサイクルショップの一員なんです。できれば一緒に考えて欲しいんです」


私がここまで王子に意見をするのは初めてだった。

王子も意外だったようで、少し目を開いて私を見ている。


「その、王子・・・私はまだここに来て半年程度です。だから、こんな事、私に言う資格はないかもしれません。でも、私達は家族です。私はそう思ってます。今日、王子がお店に来てくれて嬉しかったです。一緒に考えましょう」


王子はしばらく黙って私を見ていた。

面倒くさいヤツと思われたかもしれない。でも、私はもっと王子と話すべきだと思った。


考えてみると、挨拶や食事の配膳、必要な時にはちゃんと声をかけているけれど、それだけだったと思う。


私は自分から王子の事をちゃんと知ろうと思った事があっただろうか?


ブレンダン様やジャニスさん、ウィッカーさんから聞いた事以外、私は何も知らない。

王子の口から、王子のやりたい事、王子の好きな事、王子が興味のある事、何一つ聞いた事がない。


王子に対して最初に持っていた、なんとなく怖そうな人、という印象はもうないけれど、私はそれ以上王子に近づこうとしていなかったんだ。



それでは駄目だと思う。

ブレンダン様は孤児院のみんなを家族と思っている。私もその家族であり、王子も家族だ。

迷惑だと拒絶されるのならしかたないと思う。


でも、その人を知ろうともしないで、最初から話しもしようとしないのは違うと思う。

まして家族ならなおさらだ。



「・・・ヤヨイ、お前・・・ちょっと強くなったな・・・もう一人の影響か」


「え?」


王子は少し伸びて、ツンツンとした髪を指先で捻じるようにいじりながら、目を閉じ一つ息をついた。


「・・・お前の気持ちは分かった。だが、やはり俺には名前は思い浮かばん。だから、代わりに店の手伝いはしてやる。表には立たんが、裏で手伝える事は手伝ってやる。荷物運びや整理なら俺にもできる。これでどうだ?それとも、やはり名前を考えねば駄目か?」




予想外の言葉に、私は一瞬言葉を失ってしまった。

王子は特に表情を変えるでもなく、一定のトーンで淡々とした話し方だけど、その目には少しだけ、人に対する関心が見える気がする。



そうだ。私は何を勘違いしていたのだろう。


ふいに私は思い出した。



【・・・ヤヨイ、無理をするな】



あの日・・・記憶が戻った私は、みんなにその事を打ち明けようとした。

だけど、もしみんなに拒絶されたらと考えてしまい、なかなか言い出せなかった私に、王子は、無理をするなと声をかけてくれたんだ。

そのおかげで緊張が少しほぐれ、私はみんなに打ち明ける事ができた・・・


不器用だけど、王子は周りをよく見ている。

優しい人なんだ・・・・・




「はい!私は王子がお店にもっと来てくれる事の方が嬉しいです!名前はなんとか考えますので、大丈夫です」


王子は少しだけ私を見つめたあと、何も言わずに席を立ち、子供部屋へ行ってしまった。


まさか、王子からお店を手伝うと、言ってくれるとは思わなかった。

正直、名前を考えてくれるより嬉しかった。

あのお店もきっと王子にとっても大切な場所になる。



「でも、リサイクルショップに王子様か、日本では考えられない事ね・・・・・王子のいるリサイクルショップか・・・・・」






翌日、朝食を終えた後、私はみんなに少し残ってもらい、昨晩考えた名前を発表した。


「レイジェス。 リサイクルショップ・レイジェスってどうかしら?」


なんとなく予想していたけれど、みんな何て答えていいか分からないという顔をしている。


「ヤヨイさん、レイジェスってどういう意味?」

ジャニスさんが手を挙げて率直にたずねてくる。



「うん。私のいた世界には、日本意外にも沢山の国があったの。外国って言ってね、海の先にある沢山の国。その沢山ある外国の中の一つの言葉なんだけど、王を意味する言葉で、レイ、という言葉があるの・・・・・私達のリサイクルショップには、王子がいるわ。だから、王子のいるリサイクルショップという意味を込めて、レイ、を付けたの」


私の説明に、みんなは少し驚いた表情を見せながらも、なるほど、と言うように頷いてくれた。


「・・・でも、レイ、は王なんですよね?王子じゃなくて?なんでですか?」

ニコラさんが首を傾げながら疑問を口にする。



「ええ・・・私の勝手な気持ちだし、王子は嫌かもしれないけれど・・・王子には、私達のお店の王様になって欲しいの」


私は、長テーブルの正面に座る王子をしっかりと見つめて言葉を出した。


普段、感情を表に出さない王子も、さすがに意表をつかれたのか、眉を上げ、怪訝な表情を浮かべる。


「・・・ヤヨイ、どういう意味だ?」


私の言葉の真意を確認するように、王子は言葉の意味を問いただしてきた。

それは、低く、少しの緊張感をはらんでいた。



「王子、私は王子をからかうような気持ちはありません。ただ、どのお店にも責任者がいます。責任者の役職名は、社長であったり、店長であったり、支配人であったり、みんなには聞いた事の無い言葉もあるかもしれないけれど、色々です」


私はみんなの顔をみながら言葉を続けた。王子も黙って話しを聞いている。


「当然、私達のお店にも責任者が必要です。では、誰がふさわしいか?そうなると、王子しかいないと思うんです。だって、王子じゃないですか?」


王子は眉間に強くシワを寄せ、まるで私を睨むように見る。


「・・・俺は表には出ないと言ったはずだ。裏で少し手伝ってもいいが、その程度で責任者が務まるとは思えんな」


「大丈夫です。現場は私とみんなで回します。王子は、裏でどっしりと構えて下さるだけでいいんです。責任者とは、部下ではどうしても対処しきれない問題がおきた時に、それを治めてくださればいいんです。

私のいた世界でも、悪者に襲撃されてお金や命が奪われる事件はありました。王子には、もしもの時にみんなを護って欲しいんです。そのための責任者であり、みんなを護る王なんです」



私が話し終えると、王子は少し私を見つめた後、何かを考えるように目を閉じた。

場は静まり返っている。


ジャニスさんもウィッカーさんも、何か言いたそうに王子に目を向けているけど、今は話しかけない方がいいと判断したのか、言葉を出さずにただ王子を見つめている。




ずいぶん勝手に話しを進めてしまったと思う・・・


記憶が戻ってからの私は、自分でも驚くくらい強引なところがでてきたように感じる。

私の中のもう一人の弥生・・・彼女の影響なのかもしれないな・・・



「ヤヨイさん・・・」


私の心中を察したのだろうか、ふいにブレンダン様に名前を呼ばれたので顔を上げる。

ブレンダン様はまるで、何も気にしないでいい、と言うように優しく微笑んで頷いてくれた。







「・・・分かった」


ほんの1分程度かもしれないし、10分待ったような気もする。

王子がその一言を発すると、少しづつ場の空気が緩みだし、良かった、という声が聞こえだした。


みんな王子と一緒に働ける事が嬉しいのだ。

そして、王子がみんなを、自分達を護るための立場に立ってくれる事にも喜びを感じている。



「ほっほっほ、ヤヨイさん、よくぞ王子を説得できましたな。いや、今の演説は大したもんでした。ああ言われては反論はできませんな」

みんなが喜んでいる中、ブレンダン様は席を立ち、私の隣に立つ。


「ところで、レイ、の意味は分かりましたが、ジェス、はどういう意味なのですかな?」


私はテーブル脇で、人形を使い遊んでいる、スージーちゃんとチコリちゃんに目を向けた。


「ふふ・・・実はみんなに発表する前に、あの子達に聞いたんです。お店の名前は、レイ、ってどうかな?って。元々は、レイ、の二文字だったんですよ。あの子達、なんて答えたと思いますか?」


「スージーとチコリにか?はて、元々はレイだったが、あの子らがどう答えたか?う~む、よう分からんのう」


私はスージーちゃんとチコリちゃんの前にしゃがみ、二人と目の位置を合わせて話しかける。


「ねぇ、新しいお店のお名前なんだけど・・・レイでいい?」



「れぇじぇす~」

「れーじぇす~」



二人ともニコニコしながら返事をくれた。


私が後ろを振り返ると、ブレンダン様は目をパチクリさせながら、はぁ~・・・なるほど。と呟き頷いた。


「多分二人とも、レイがいいです。レイでいいです。こういう事が言いたいと思うんです。でも、まだハキハキと話せないから、れぇじぇす、みたいな言い方になっちゃうんですね。二人の返事を聞いてたら、レイジェスって名前も良いなと思って」



「それでレイジェスか・・・・・うむ、良い店名じゃと思いますぞ。では、リサイクルショップ・レイジェスで決まりじゃな」


ブレンダン様はそのままみんなに声をかけて、スージーちゃんとチコリちゃんに、レイジェスと言わせてみせた。

みんな、どうしてジェスなのかが分かって、笑ったり驚いたりしている。




「ヤヨイ・・・・・ありがとう」

「え・・・?」


スージーちゃんとチコリちゃんを中心に、みんなが盛り上がっている中、王子が私の隣に立ち、前を向いたまま突然お礼を口にした。

なぜ急にお礼を言われるのか分からず、きょとんとする私に、王子はもう一度口を開く。




「あの日から、俺はもう王子ではない。だが、お前達は俺を王子と呼び、変わらず接してくれる。店の名前、そして店の王様という事も、もっともらしい理由を付けてはいたが、本当は俺のためを思っての事なんだろ?」


「あ・・・えっと・・・」



当たっていた。私は、王宮を出て、国王とも繋がりが切れた王子を・・・可哀想だと思っていた。

可愛そうという気持ちは、王子に対する侮辱かもしれない。


本当なら、次期国王になれるはずの王子が、その地位を追われたのだ。


だから、比較する事はとてもできないけれど、なんらかの形でも、王様という言葉をもらってほしかった。


私のエゴかもしれないけど・・・

そして、どうやら王子はそんな私の考えを見抜いているようだ。



「・・・悪くとらえるつもりはない。俺は・・・少しだけお前達の感情が分かった気がするんだ。

だから、礼を言うんだ。ヤヨイ・・・・・・・・ありがとう」


「・・・・・王子」


前を向いたまま、私と目を合わせる事はなかったけれど、その声色は穏やかで優しいものだった。



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