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【196 伝える事】

ブレンダン様とジョルジュさんのご両親が、今回の襲撃の件を話し合っている間、私達は二階の掃除をする事にした。


一階はまだ床にガラス片などが散らばっていて危ないので、小さい子供達は、ジャニスさんとキャロルちゃんが子供部屋で見てくれる事になった。


なので、私達と言っても、私とトロワ君とエロール君の三人である。


パトリックさんはまだ眠っているし、ウィッカーさんはメアリーちゃんが抱き着いているので動けない。


私とキャロルちゃんは、メアリーちゃんのウィッカーさんに対する強い気持ちを毎日聞いていたので、まだまだしばらく離れないだろうなと思っていた。



私が紅茶を出して二階へ上がろうとした時、さすがにウィッカーさんは、メアリーちゃんにそろそろ離れるように話していたけれど、メアリーちゃんは、まだだめです、とハッキリ拒否していた。

こういう時のメアリーちゃんは絶対に動かない。

二週間ぶりだから、かなり長くなりそうな気がするねと、私とキャロルちゃんで目合わせした。



「エロール君、ありがとうね」


「ん?なにが?」


ブレンダン様の部屋の前に散らばっている、崩れた壁の石を片づけながら、私がお礼を口にするとエロール君は首を傾げた。


「パトリックさんの怪我を治してくれてありがとう。エロール君がいてくれて良かった」


あらためてエロール君の目を見てお礼を言うと、エロール君は私から目を逸らし、別に、とだけ小さく返事をした。ぶっきらぼうに見えるけど、私はこの二週間でエロール君が、本当は優しいという事を分かったので、嫌な感じは全く受けなかった。感謝される事に、慣れていないのだと思う。



「そうそう、俺もキャロルも、あちこち擦り傷だらけだったんだけどよ、エロールが治してくれたんだよ。それに、木につっこんで、頭にでっけぇコブができてたんだけど、それもすっかり良くなったよ。エロールのおかげだよな。ん?おい、下見てどうしたんだ?おい、顔赤いけど熱でもあんのか?」


トロワ君もエロール君の隣にしゃがむと、私とトロワ君で、エロール君を挟む形になった。

エロール君は俯いて少し頬が赤い。きっと照れているのだ。

本人は怒ると思うけど、私はそんなエロール君が可愛く思えた。


「う、うるさいな!お、俺は白魔法使いとして当然の事をしただけだ!ほら、さっさと片づけないと、夜までに終わらないぞ!口より手を動かせ!」


エロール君は勢いよく立ち上がると、少したどたどしく声を上げ、石が溜まったかごを持って一階へと降りて行った。



「・・・なんだアイツ?」

「うふふ・・・あんまり褒められる事に慣れてないのよ。トロワ君、悪くは思わないであげてね」


トロワ君は、よく分からないという感じに首を捻っていたけれど、あんまり気にしていないようだ。

それから戻ってきたエロール君と三人で、二階のお掃除を続けて、ひと段落が付いた時には、夕方になっていた。




私達が二階をやっている間、ウィッカーさんとメアリーちゃん、ブレンダン様が一階の掃除を進めてくれていた。

ウィッカーさんはやっと解放されたようだ。


ジョルジュさんと、ジョルジュさんのご両親は、庭を掃除してくれた。

焼けた葉、草花を集め、抉られた土を埋める。

崩れた塀の石を集めて片づける。


荒れた庭を見ると胸が痛んだけれど、ジョルジュさん達のおかげで、陽が沈む頃には大分綺麗に整理された。


今夜はジョルジュさん達も孤児院に泊まる事になったので、夜ご飯の時はとても賑やかだった。

広間のテーブル一つでは全員は座れなかったので、子供部屋で使っているテーブルを持ち出して、なんとか全員揃って食事をする事ができた。


エディさんもナタリーさんも子供が大好きなようで、食事の後は子供達と沢山遊んでくれた。

おかげで子供達は寝つきが良く、今日はとても楽に寝かせる事ができた。




「エディさん、ナタリーさん、今日は本当にありがとうございます。子供達もとても楽しんでました」


時刻は夜の9時を回ったところだった。子供達を寝かせた後、大人だけで広間に集まって紅茶を飲み、私達はこの二週間の積もる話しをしていた。


「ははは、いやぁ、こちらこそ楽しかったですよ。やはり子供は良いものですね」

「はい、私達も久しぶりに子育ての楽しさを思い出しました。こちらこそありがとうございます」


エディさんと、ナタリーさんは二人で顔を見合わせて笑い合っている。本当に良いご夫婦だと思う。

私も・・・こんなふうに年を重ねられるだろうか。



「・・・ヤヨイ、何か話したい事があるのではないか?」


私の前に座るジョルジュさんが、ふいに声をかけてくる。


「・・・ジョルジュさん、なんで・・・」


なんでそう思ったの?そう聞こうとしたけど、ジョルジュさんは言葉を重ねてきた。


「分かるさ。さっきから何か言おうとしているだろ?普通に話しているが、本当は大事な話しがあるのではないか?」


ジョルジュさんの言葉に、その場の全員の視線が私に集まる。


「・・・私は・・・」



話すつもりだった。


話さなければならない。


でも・・・私は怖かった。今も怖い。

気持ちを固めたつもりだったけれど、口にしようとするとどうしても言葉が出てこない。


受けて入れもらえるだろうか?

自分はこの世界の人間ではない。そして、自分の中にもう一人の自分がいるなんて・・・・・



「・・・ヤヨイ、無理をするな」


私が言葉を出せずにいると、それまでずっと黙っていた王子が、口を開いた。

低く、小さな声だったけれど、やけにハッキリと聞こえ、場が水を打ったように静まり返った。


「・・・・・王子」


端の席に座り、頬杖をついて顔をそむけている王子は、私が呼びかけても、それ以上話しをする気がないみたい。でも、おかげで私の緊張が少しほぐれたように感じた。


「ヤヨイ、すまない。俺はやはり人の気持ちを考えるのが下手なようだ。話すきっかけになればと思ったが、タイミングというものがあるという事か」


王子の言葉に、ジュルジュさんが反応した。

私に話しをするよう促した事を、悪かったと思ってるみたいなので、私は首を横に振った。


「ジョルジュさん、そんな事ないですよ。王子もありがとうございます。お二人のおかげで決心がつきました。皆さんに、お話ししなければならない事があります」


イスに腰を掛けなおして姿勢を正すと、みんな私の緊張を感じ取って、あらたまったように体を向けてきた。


パトリックさんはまだ目を覚まさないけれど、ここにはブレンダン様、タジーム王子、ウィッカーさん、ジャニスさん、ジョルジュさんとご両親、メアリーちゃん、エロール君がいる。


トロワ君とキャロルちゃんは子供部屋で寝ているから、明日、起きたら話そうと思う。



「・・・記憶が、完全に戻りました」




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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