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【195 物思い】

「皆さん、お帰りなさい。朝の連絡ができなくてごめんなさい。実は・・・」


「襲われたからだろう?これだけ酷い有様だ、一目で分かるぞ」


朝の連絡ができなかった事を謝ると、ジョルジュさんはドアの無くなった玄関や、大穴の空いた壁、床に散らばった石や砂、室内をぐるりと見て、淡々と言葉を口にした。



「ジョルジュが連絡してもつながら無いって言うから、心配になって急いで来たんだけど、もう終わってたんですね。もしかして、昨晩ですか?」


ジャニスさんが、室内に入り、辺りを見回している。

その表情は陰り、やはりショックを受けているようだ。

当然だと思う。孤児院はみんなのお家だ。それがこんなに壊されて、気持ちが落ち込まないわけがない。



「ジャニスさん、私達も手伝いますから、まずは掃除をしましょう」

「そうね。まずはお掃除をしましょう。みんなでやれば、夜までにはなんとかできるんじゃないかしら」

玄関口の後ろから聞き覚えの無い声がして、目を向けると、初めて見る男性と女性が会釈をして玄関に立った。


男性は、ジョルジュさんと同じ位の身長で、少しゆったりとした若草色の長袖を着ている。


オールバックにまとめた髪と細い目で、少し怖い印象もあるけど、穏やかな話し方で、温かみを感じる人だ。


女性は肩の下まである髪を、一本の三つ編みに結っている。

クリっとした丸目が優しそうな印象で、隣の男性とご夫婦かなと思ったけれど、それにしては若々しく見えた。

羽織っている、ダークブラウンのニットカーディガンは、とても暖かそうだ。


初対面で、私がちょっと戸惑ってしまった事を察したのだろう。

男性が、気が付いたように両手を軽く打ち合わせて、自己紹介を始めた。


「あ、突然すみません。私、ジョルジュの父で、エディ・ワーリントンと申します。こちらは妻の、ナタリーです。この度は大変お世話になりました」


エディさんは、私達に体を向けて頭を下げた。



「息子達が孤児院が危ないかもしれないと言うので、私達も何かお役に立てるかもと思い、同行いたしました。息子程ではありませんが、私も夫も弓を使えますので。ですが、どうやら事は済んだ後のようですね。せめて、お掃除だけでも手伝わせてください」


ジョルジュさんのお母さん、ナタリーさんも私達に頭を下げたあと、笑顔を見せてくれた。

とても柔らかく、落ち着いた女性だなと感じた。



「いやいや、これはご丁寧に。遠いところありがとうございます。ウィッカーとジャニスがご迷惑をかけませんでしたかな?ご覧の通りのあり様ですが、とりあえず食事はできるように、テーブルだけは綺麗にしたんです。どうぞお座りください」



ブレンダン様がジョルジュさんのご両親の前に出て、ご挨拶を交わしている。

こういう大人のやりとりは、日本でも異世界でも変わらないんだなと感じた。


そう、日本でも。


私は弥生と記憶が共有できたから、全て分かった。


23年間の弥生の人生。

日本で産まれ育ち、そしてあの夜・・・・・命を落とした・・・・・


坂木 新を襲ったあの男によって。


死んだはずの私が、なんでこの世界に来たのかは分からない。

だけど、私はこの世界で息を吹き返し、もう一度人生を送る事ができている。


そして私の中のもう一人の私、私とは正反対なくらい性格の違う、もう一人の私。


彼女・・・弥生は、この世界で私が一緒にこの体に生きる事を許してくれている。

うぅん、むしろ彼女はあまり表に出る気は無いみたい。


私と弥生の意識が変わる瞬間、確かに聞こえた弥生の声。


それは、この世界での人生は、私のものだと言っていた。



私は、心の中でもう一人の弥生に呼びかける。


ねぇ、弥生、私はあなたにもこの世界での生きる喜びを見つけて欲しい。

だからね、時々でもいいから・・・あなたも顔を見せてね。




「ヤヨイさん、すまんがメアリーの代わりに紅茶を頼めんかね?」



「あ、はい。分かりました」


つい、物思いにふけってしまったみたい。

ジョルジュさんのご両親は、もうテーブルに座っているので、もう少し早く紅茶の準備をしなくてはいけなかった。


キッチンへ行こうとすると、ブレンダン様が、しかたないな、という感じで笑って玄関口を見ているのが目に入ったので、私はなんとなくその視線を追ってみた。



メアリーちゃんは、ウィッカーさんの胸に顔をうずめて離れる気配は全くなかった。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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