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【194 一夜明けて】

目を覚ますと、板張りの天井が目に入った。

頭を包むような柔らかい枕と、胸元までかけてある暖かい毛布に気が付き、自分は今ベッドに寝ているのだと気が付いた。


顔を動かし、部屋の中を見渡すと、見慣れたシャツやスカートが掛けてあるハンガーラック。

カップとお皿を置いたらいっぱいになるくらいの、一人用の小さな丸テーブル。

メアリーちゃんからもらったお花のプランターや、少ないけれど本が並べられた棚が目に入り、ここは孤児院の自分の部屋だと認識できた。




私は一体どうしたのだろう?


あれからどうなったのか? みんな無事なのか? 頭もハッキリして来ると、様々な疑問が頭に浮かんでいく。


でも、やはり自分自身の体におきた事が大きく頭を占めた。


あの時、私の中に響いた声、あれは私の声だったけれど、私じゃない。



私の中にもう一人の私がいる・・・・・・



そう気が付いた時、また私の心に風が吹いた。


そして私は全て思い出した。


いいえ・・・正確には共有して理解できた。

もう一人の新庄弥生、彼女の記憶を共有し、自分が何者であるかを理解できた。





扉が軋む音に顔を向けると、木製のトレーにコップと水差しを乗せたメアリーちゃんが、部屋に入ってきた。


私と目が合うと、ちょっとだけ驚いたように口を開いたけど、すぐに笑顔を見せてくれた。


「良かった・・・気が付いたんですね。ヤヨイさん、おはようございます」


「メアリーちゃん、おはようございます。私、どのくらい寝てたのかしら?」


メアリーちゃんは丸テーブルにトレーを置いて、コップに水をそそぐと、私に手渡してくれた。


「それほど長くはありませんよ。12~13時間くらいかと思います。ヤヨイさんは、昨日のあの戦いが終わってから、ずっと眠ってました。ブレンダン様が、孤児院の外で壁にもたれているところを見つけられたそうです」


「そう・・・みんな無事かしら?誰も・・・」


コップを受け取り、水を一口飲むと、とても喉が渇いていた事に気が付き、一息にコップの中を空けてしまった。


「はい。大丈夫です。みんな無事ですよ。パトリックさんは、魔力切れで消耗が大きいのでまだ寝ておりますが、怪我はエロール君がヒールで治してくれました。時間が経てば自然に目を覚まされると思います」


良かった。みんな無事だった。

そして、パトリックさん・・・・・本当に良かった。


「・・・ヤヨイさん、良かったですね」


私の顔をじっと見つめて、メアリーちゃんはニコリと微笑んだ。

メアリーちゃんは、私の気持ちが分かるみたい。


「・・・うん。良かった」


私もメアリーちゃんに笑顔を返した。

それから、メアリーちゃんがパンを持ってきてくれたので、かんたんな食事をすませると、パトリックさんの寝ている部屋に、メアリーちゃんが案内してくれた。






「あ、ヤヨイ姉ちゃん!もう起きて大丈夫なの?」


一階に降りると、トロワ君とキャロルちゃんが、箒や雑巾を持ってお掃除をしていた。

二人とも、長袖Tシャツとパンツ姿で、動きやすそうな格好だ。


「うん、もう大丈夫だよ。遅くなってごめんね」


一階に降りて辺りを見回すと、私は心が暗く沈んでしまった。


玄関口はボロボロに崩れて木片と石くずが積もっていた。

いつもみんなで食事をとっているテーブルとイスは綺麗になっていたけれど、後ろの壁は崩壊して、大きく穴を空けている。大人一人くらい楽に出入りできそうだ。


床にはまだガラス欠片や、砂、石、木片が散らばっているから、キャロルちゃんに気を付けてと言われた。


二人とも、まだ10歳なのに、私よりずっと強くて大人だと思った。


私はこの光景を見て、気持ちが暗くなってしまったのに、二人は気持ちを強く持って片づけをしているのだ。そうだよね。辛いけど、できる事をやらないと。綺麗にお掃除して、また元に戻すんだ。



メアリーちゃんは、私の部屋に持ってきたトレーやコップを持ってキッチンへ入ると、そのままキッチンの片づけを始めた。


キッチンは料理をするために、朝のうちにある程度掃除をしていた事が分かる。

でも、歩くスペースの邪魔にならないよう、砂や石などは端に寄せて、とりあえずの足場を確保している状態でもあった。


メアリーちゃんは、キッチンの掃除をします。と言ってキッチンの掃除を始めた。

料理はほとんど毎日メアリーちゃんが作っているので、もはやメアリーちゃんのやりやすいように、物が置かれているから、メアリーちゃんから呼ばれないうちは、中途半端に手伝わない方がいいかもしれない。



「・・・トロワ君、キャロルちゃん、私はどこをやればいいかな?」


私が声をかけると、トロワ君が手に持っていた箒を私に手渡してくれた。


「じゃあ、ヤヨイ姉ちゃんはキャロルと一緒に掃き掃除ね。俺はでっかい石を外に出してくるから。あ、本当にガラスは気を付けてな。靴履いてても危ないからね」


トロワ君はそう言うと、崩れた壁の下にある、大きめの石を手に取り庭に出て行った。


「・・・トロワ君は強いね」


「アイツ、立派な男になるって目標があるんです。だから、頑張り過ぎちゃうんです」


キャロルちゃんは、床を掃く手を止めて、石を外に運び出すトロワ君に顔を向けた。

口元は少し笑みを作っているけれど、眉尻は下がっていて、その目はどこか悲しそうに見えた。




「おお、ヤヨイさん、起きたのか」

キャロルちゃんと二人で掃き掃除を始めると、後ろからブレンダン様の声がかかった。


「あ、おはようございます。すみません、ご挨拶にもうかがわないで。うっかりしてました」


ブレンダン様は、スージーちゃんを抱っこしていた。

笑っているところを見て、機嫌が良さそうだなと安心する。


そう言えば、ブレンダン様がスージーちゃんを抱っこしているところは初めて見た。

それをそのまま伝えると、ブレンダン様は顎を撫でて、最近抱っこしとらんな、と思い起こすように話した。


「ジャニスとキャロルのあやし方がうまくてのう、つい甘えておった。それに、最近はヤヨイさんやメアリーも見てくれるじゃろ?考えてみれば、抱っこするのは2~3ヶ月ぶりじゃな。

しかし、こうして笑ってくれとるのじゃから、ワシもまだまだ子育てに自信が持てるわい」


「はい、さすがですね。ブレンダン様」


そう言うと、ブレンダン様はいつものように、ほっほっほ、と笑われてから、何かを思い出したように、あ!と短く声を上げた。


「そうじゃそうじゃ、起きたばかりで悪いが、ジョルジュに連絡をしてくれんかの?孤児院がこのありさまじゃろ?ヤヨイさんの顔を見るまで、あっちに朝の連絡を忘れとった!もう午後1時じゃ、心配しとるはずじゃ」


ブレンダン様に言われて、私も思い出した。

朝と夕方、必ず連絡を入れるように決めていたけど、昨晩のあの戦いで、すっかり忘れていた。


私は急いで風の精霊さんに祈った。


すると、周囲の風が私の体の中に吸い込まれるように集まり、私の体は風にあおられながら緑色の光を放った。


でも、私がジョルジュさんに言葉を届けようとした時、孤児院の玄関口から聞き覚えのある声が聞こえた。


振り返り、声の主を確認する。



私は嬉しさに顔がほころんだ。


キャロルちゃんも、ブレンダン様も笑顔になった。


メアリーちゃんは大好きな人の名前を口にしながら飛び出した。



ウィッカーさん、ジャニスさん、ジョルジュさん、みんなが手を振っている。



「ウィッカーさまぁーーー!」


「メアリー!」


メアリーちゃんが、それこそタックルするように抱き着いたけど、ウィッカーさんも受け方が慣れてきたのかもしれない。尻もちはついてしまったけれど、以前のように地面に背中を強く打つ事はなくなった。


メアリーちゃんは、一目で分かるくらい、力いっぱいウィッカーさんの背中に手を回し抱き着いている。

以前のウィッカーさんなら、周りの目が気になるのか、困ったような顔をして、なんとかメアリーちゃんを離そうとしていたけど、今は笑顔でメアリーちゃんの頭を撫でている。


ウィッカーさんも変わったなと思う。

そして、二人の気持ちが通じ合っている事に、私は嬉しくなった。


ジャニスさんも、ジョルジュさんも、ウィッカーさんとメアリーちゃんの仲睦まじい姿に、笑顔になっていた。


お帰りなさい。みんな。





最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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