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【187 感謝と戸惑い】

「・・・タジーム様、大丈夫でしょうか?」


二人が消えた先の闇夜を目に映しながら、メアリーは心配そうに言葉をもらした。


タジームは庭に飛び降りると、空に向け右手を上げる。

手の平から放出された魔力が孤児院の上で拡散すると、一滴・・・また一滴と水の球が落ちて来て、すぐに大雨となり孤児院を焼く炎が消えていった。


「すごい・・・こんな大雨を降らせるなんて・・・タジーム様は本当にすごいですね」


雨を降らせ、再び部屋に戻って来たタジームに、メアリーは率直な言葉をかける。


「・・・感じる魔力を比べると、林にいるヤツはそれほど大した相手ではない。灼炎竜を使ってきたが、あの程度ではな。中級レベルのヤツが、無理に上級魔法を使っている感じだ。キャロルは戦闘目的ではないが、ウィッカーの指導を受けている。

風魔法で防御態勢を取りながら出て行ったが、なかなかのものだ」


タジームはメアリーの顔を見てはいない。

部屋に戻ってきて、体を壁によりかけると、また外へと目を向けてしまう。

だが、言葉はメアリーに向けられていた。


「トロワも心配はいらないだろう。あいつは近付きさえすれば、相手が大人でもそう負けはしない。それにあいつの魔道具は単純だが、単純ゆえに強力だ」



「・・・タジーム様、ありがとうございます。私、二人を信じて待ちます」


タジームの話しを聞いても、まだ不安は胸にある。

やはり二人はまだ10歳。どんなに才能があっても、どんなに強い武器を持っていても子供である。


だが、あのタジームが、ここまで言葉を並べている。

そして、メアリーを安心させるかのように、言葉を選んで話しているふしも感じられた。


メアリーはタジームの気遣いを感じとり、タジームの言葉を信じようと決めた。


トロワとキャロルはきっと無事に帰って来ると。





タジームは黒魔法使いであり、サーチは使えない。

魔法使いは、サーチを使わなくても、相手を前にすればその魔力を感じとる事ができる。


だが、タジームはその桁外れの魔力と、唯一無二のセンスで、数十メートル離れていても、対象の魔力を察知する事ができた。

範囲こそ青魔法使いのサーチには及ばないが、魔力量も計れる点を考慮すると、対人に限れば、制度はサーチよりも優れているとも言える。



そのタジームが捉えた魔力は三つ。

孤児院の二階に一つ。数十メートル先の林で捉えた一つ。そして玄関口に一つ。 


今、孤児院に敵意を持つ魔力は三つあり、玄関口の魔力が一番強かった。


おそらく玄関口の敵がディーロ兄弟最後の一人。

対峙するのはパトリックとヤヨイ。


タジームはさっき響いた玄関口から爆発音を考える。


すでに戦いは始まっている。

子供達をこの場に残して加勢に行く事はできない。


パトリックは優秀だが、果たして勝てるだろうか?

ヤヨイ・・・ヤヨイは今のままでは戦力にならない。今のままなら・・・


だが、ヤヨイの中にはなにかがある。


タジームはヤヨイの中からもう一つの灯火を感じていた。


あれが目を覚ませば・・・・・


タジームはそこで考察を止めた。

自分の足や腰を子供達が引っ張り、声をかけてくる。



お兄ちゃんありがとー

ボクこわかったけど泣かなかったよ

わたしもがんばったー



タジームは目を丸くした。

なんだ?なんで俺は礼を言われている?



「ふふ・・・タジーム様、この子達をお護りくださったじゃないですか。みんなそのお礼を申しているのです。驚かれる事ではありませんよ。みんなタジーム様が大好きなのです」


感謝される事に戸惑っているタジームに、メアリーは優しく声をかける。


「俺が?俺が礼を言われているのか?バッタを殲滅して国を救ったにも関わらず、罵倒された俺がか?」


珍しくタジームに表情が浮かんだが、それは苦痛に顔を歪ませて、やり場のない気持ちをどこに向ければいいのか、分からず苦しんでいる顔だった。



「タジーム様・・・」


タジームの表情を見て、メアリーは胸が痛くなり悲しくなった。


なぜ、ここまで苦しまなければならないのだろう。


タジームの境遇は聞いていたが、子供達の感謝の言葉すら素直に聞けない程、人の優しさに対して不信になっているとは思っていなかった。


「タジーム様、ここでの生活を思い出してください。お城の人と一緒ですか?違います。私達は家族です。ブレンダン様がそうおっしゃってました。私もそう思っております。ですからタジーム様、この子達を信じてください!ありがとうに臆病にならないでください!みんなタジーム様が大好きなんです!」



メアリーの真っ直ぐな気持ちは、タジームの心に確かに届くものがあった。


「・・・・・分かった」


それだけ呟くと、タジームは顔をそらし、また外に目を向けた。 


それきり何も話さなかったが、時折子供達を気にするかのように僅かに顔を下に向けるしぐさは、これまでのタジームにはなかったものだった。




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