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18 新しい1日

朝起きてキッチンへ行くと、カチュアがご飯を作っているところだった。


「あ、おはようアラタ君。朝ご飯もうちょっと待っててね、すぐにできるから」


「おはようカチュア。早いね・・・と言うか、ごめん。一応今はこの家俺が借りてるのに、なんか全部やってもらっちゃって・・・」


「ふふふ、そんな事気にしないで。私が好きでやってるだけだから。アラタ君はまだこっちの世界に慣れてないんだし、あんまり気を使わないでね?」


まだ七時前だけど、カチュアは何時に起きたのだろう。身支度を済ませて当たり前のようにみんなの朝食を用意してるなんて、日ごろからやってないとできないと思う。カチュアの規則正しい生活と、人のために率先して行動するところを見て、俺は自分が少しはずかしくなった。


促されるまま席に着くと、カチュアがスクランブルエッグとライス、缶詰のミカンを器に移して運んできた。


「また卵でごめんね。今日食べないと悪くなっちゃいそうだったから。あ、アラタ君、日用品無いよね?お昼休憩の時にでも、買い出し行った方がいいよ。私、案内してあげる」


「いいの?ありがとう。あ、リカルドはまだかな?」


掛けてある時計を見ると、7時を少し過ぎたところだった。


考えてみると日本にいた時は昼夜逆転していたから、昨日、今日と、2日続けてこの時間に起きているなんて、ずいぶん久しぶりだ。


「まだ寝てるのかな?私起こしてくるねから、アラタ君は食べてて。今日は午前中に傷薬10個は作っておきたいから、早めにお店に行きたいんだよね」


そう言ってカチュアはキッチンを出て行った。白魔法使いだけあって、傷薬も自作しているようだ。


カチュアとリカルドが来るまで待とうかと思ったが、自分の分しか用意されていないし、手つかずで冷めてしまっては、かえって気を使わせてしまうかと思い、先に食べ始める事にした。


半分ほど食べたところで、カチュアとリカルドがキッチンに入ってきた。

寝間着を着たままのところを見ると、リカルドはやはり起きたばかりのようだ。



「ふぁ~~~~~ぁ・・・うぃ~兄ちゃん、早ぇんだな?」


あくびをしながら挨拶らしい言葉を発し、リカルドは席につくと、俺の食べているスクランブルエッグとライスをジーっと見つめた。


「カチュア!俺のはどんぶり飯の上に乗っけてな。スクランブルエッグは少し固めで大盛りな。そんで醤油少しかけてな。少しだぞ?」


「はーい、ふふふ、まったくリカルド君は注文多いよね」


リカルドの注文にカチュアは呆れたような声を出したが、大きなどんぶりにご飯を盛り、卵を炒め始めた。


年の差が2才という事を考えると、世話焼きの姉と、ちょっとわがままな弟という感じにも見える。


はいどうぞ、と言ってカチュアがリカルドの前に置いた丼は、山のように盛られたスクランブルエッグ丼だった。





「あ~、食った食った・・・そんでよ、兄ちゃんはどこの部門になんのかな?」


「ん~、体力型だから、武器か防具だよね?武器はレイチェルとリカルド君の2人いるから、防具になるんじゃないかな?」


食事を終えて出勤の準備をしていると、俺の担当部門の話になった。

魔法は使えないから、武器か防具かになるようだが、レイチェルの言葉通り防具になる可能性が高いように思う。


防具担当は現在ジャレットさん一人。年齢は25歳と聞いた。


ギャル男にしか見えないし、いきなり変なあだ名をつけて来るのは正直驚いた。


「そうだよな、俺もそう思う。防具担当ってよ、新人が入ってもすぐバックレるから困ってたんだよな。まぁ兄ちゃんなら大丈夫そうな感じするし、防具で決まりじゃね」


そう言えばレイチェルも、バックレが続いて困っていると言っていたな。

リカルドの口ぶりからすると、防具担当だけ新人がすぐいなくなるようだが、俺はなんとなくジャレットさんが原因に思えた。


「ま、そろそろ行こうぜ。レイチェルが決める事だから、レイチェルから話しがあんだろ」




一歩外に出ると、まだ9時前なのに太陽がギラギラと照り付けて、早くも額に汗がにじむ。

眩しさと暑さに顔をしかめてしまう。


「うへぇ~、あっちぃー!カチュア~、クリーン持ってねぇか?」


「う~、本当に暑い。リカルド君、私もクリーンは持ってないよ~、だって昨日突然泊まる事になったんだから。私だって服代えてないから気持ち悪いんだからね。う~ん、今度からカバンに入れておこう」


「あのさ、クリーンってなに?」


俺も額から流れる汗をぬぐい、となりを歩くカチュアに尋ねると、カチュアは手で顔を仰ぎながら教えてくれた。


「えっとね、クリーンって魔法を入れた魔道具なんだけど、体や服の汚れを綺麗に取り除いてくれるの。だから夏は必需品だよ。どんなに汗をかいても一瞬でサッパリするから」


「そりゃすごいな、お風呂いらないじゃん」


「うーん・・・そう言う人もいるけど、私はやっぱりお風呂に入りたいな。お風呂で体洗った方がちゃんと綺麗になったって気がするし、気持ちいいからね」


「変わんねぇーよ。いっしょいっしょ」


一歩後ろを歩くリカルドが、小馬鹿にした感じで口を挟んできた。


「えー、お風呂とクリーンはやっぱり違うと思うけど?そんな事言うなら、リカルド君は一生お風呂入らないでクリーンだけしてたらいいよ」


「はぁぁぁ~!?んだよそれ、勝手に決めんなよ?」


「あ、二人とも店に着いたから、その辺でさ」


リカルドがヒートアップしてきたところで、ちょうど店に着いた。

シャッターの前にはすでにレイチェルとジーンがいて、鍵を開けているところだった。



「あ、ジーンだ!良いところに!」

「お!俺達のジーンじゃん!」


ジーンを見るなり、カチュアとリカルドが駆けだして行った。

カチュアとリカルドに気が付いたジーンが、やぁ、とさわやかな笑顔で手を挙げると、二人はその手に飛びつく勢いで迫った。


「ジーン、お願いクリーンかけて!」

「ジーン、クリーンだ!クリーン!シャッターなんか後でいいからクリーンしろよ!」


「え!?え!?あ、う、うん!ふ、二人とも分かったから、少し離れてくれるかな?」


軽く引いた面持ちで二人をなだめ、一歩下がって距離をとると、ジーンは二人に手の平を向け、クリーンと声を出した。


すると二人の体を水の玉のような透明な球体が包み込み、体のラインに合わせて形を変えると、すぐに蒸発して消えていった。


「うーん、サッパリしたよ~、ありがとう!」


「やっぱ夏はクリーンだな!」


カチュアもリカルドも汗が引いてサッパリしたようだ。確かにこの魔法は夏にはかかせないようだ。


「アラタ、キミも汗をかいてるね」


ジーンはそう言うと、俺に手の平を向けてクリーンと声を出した。


「うわっ!?」


突然体が透明な球体に包まれる。やはり水なのだろうか?まるでプールに入っているような感覚だ。


驚きに声を出してしまったが、口に水が入って息苦しくなるという事はなかった。

球体はすぐに俺の身体に合わせて形を変え、一瞬熱をもったように感じると、すぐに蒸発して消えてしまった。


汗が引いて、服もまったくベタつかず、下ろし立てのようなサッパリとした着心地になっている。



「驚いたかな?これがクリーンだよ。風呂いらずなんて言われて、夏はよく頼まれるんだ」


昨日、爆発魔法を受けた時とは、また違った驚きがあった。


これは本当に便利な魔法だ。日本では夏に汗でびっしょりになったら、その都度着替えをしていたが、この魔法があれば、着替えの用意もいらなくなる。


カチュアは、この魔法と同じ効果の魔道具があると言っていたが、きっとよく売れているのだろう。



「アラタ、昨日はちゃんと食事できたかい?私、火の使い方説明するの忘れちゃってさ、ごめん」


クリーンの効果に驚いていると、レイチェルがすまなそうに声をかけてきた。


「え?あぁ、いやいや全然気にしてないから、そんな謝らないでよ。俺ここまで世話になってんだからさ、レイチェルにはありがとうって気持ちしかないよ。昨日は、リカルドとカチュアが来て、カチュアがご飯作ってくれたんだ。火の使い方も覚えたから、もう大丈夫だよ」


「そうか、だから3人で来たんだね?良かったよ。夜気が付いて気になってたんだ」


俺の言葉にレイチェルは、安心したようにほっと息を付いた。


「おーい、そろそろ店に入れよ、開店準備だぞー」


いつの間にか中に入っていたリカルドが、出入り口付近の商品を整理しながら、声を飛ばしてきた。


「あ、ごめん今行く!アラタ、今日も1日頑張ろうか!」


異世界での新しい1日が始まる。



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