17 命の認識
読み返したら見づらいと思いましたので、改行だけやり直しました。
内容に変更はありません。
食事を終えると、俺達はテーブル席に座って三人で雑談を始めた。
とは言っても俺の日本での話しが中心だ。リカルドもカチュアも興味津々らしい。
テレビゲームや漫画、サッカーや野球など、娯楽やスポーツの話をすると、二人ともこっちの世界には全くない文化に驚き、色々と質問もしてくる。
「あ、ところでさっきカチュアが言ってた、写しの鏡ってなに?」
話の区切りもついたところで、気になっていた事を聞いてみた。電話に似ているようだが、鏡でどうやって話すというのだろう。
「えっとね、丸い鏡の魔道具なんだけど、地面に置いて水につけるの。そして話したい人を思い浮かべて名前を言うと、鏡の上にその人の姿が浮かび上がって話す事ができるんだよ」
ホログラムみたいなものだろうか。なんとなくイメージできたが、携帯電話、スマートフォンよりこっちの方がすごいと感心してしまう。
しかし感心する俺を他所に、カチュアは少し難しい顔をして説明を続けた。
「でもね、使用条件があるんだ。まず、お互いに写しの鏡を持っている事。片方が魔道具を使うと、相手の鏡が光って連絡が来た事を教えてくれるんだけど、この時受ける側も鏡を水につけないと駄目なの。
水も普通の飲み水じゃなくて、魔力の込められた魔法水ね。鏡の力はこの水を吸収して発動するの。そして、水は少しづつ減っていくから、常に補給を続けなきゃいけないの」
「そうそう、あとスッゲー高いし、オレ達みたいな一般人はまず見る事がねぇんじゃねーかな?」
リカルドが手をひらひらさせながら、口を挟んで来た。
「いくらなんだ?」
「えーっと、1億イエンだっけ?」
「え!?・・・そんなにするの!?」
「リカルド君、そこまではしないよ。五千万イエンくらいだったと思うよ」
「いや、それでも十分高いよ」
五千万イエン、つまり日本円で五千万。驚きのあまり大きな声を出してしまった。
五千万円もするとは思わなかった。
家が建つ金額だ。そんな高価なものでは、確かに一般人が目にする物ではないだろう。
すごい物があるなと感心したけど、値段も凄すぎて、俺が見る事はなさそうだと思った。
「あと、国の認可を受けた魔道具店でしか売ってないんだよね。購入の時は事前予約が必要で、身元をしっかり調べられるの。それと悪用できないように、鏡に追跡の魔法がかけられるんだって。だからどこで使用したかすぐ分かるみたい。それくらい厳重に扱うから、悪用される事はまず無いって言うか、できないらしいんだけど、問題は他国だよね」
なるほど。ここまでカチュアの説明を聞いて分かった。
この世界では、おそらく写しの鏡という魔道具しか通信手段がないのだろう。俺の元居た世界なら、携帯電話やパソコンとか、通信機器がいくらでもある。けれどこの世界には、離れた相手との連絡手段がこれしかないんだ。もの凄い価値だ。
これがあるのと無いのでは、もし戦争になった時、全く情勢が違ってしまうはずだ。
写しの鏡がどれだけすごい物か俺が理解したところで、リカルドがカチュアの話しを拾って続けた。
「そうそう、ブロートン帝国があっちこっちに睨み利かせてっからな。隣のロンズデール国も、今じゃブロートンの言いなりみたいなもんだろ?うちの王様もいつ寝首かかれるか、気が気じゃねぇんだろな。最近の協会のピリピリした感じ見てると、よく分かるぜ」
昨夜レイチェルも言っていたが、ブロートン帝国というのは評判が良くないようだ。
隣のロンズデール国というところとも、うまくいっていないように聞こえる。
この国は今、緊張状態にあるのかもしれない。
「オレ達も戦争になったら駆り出されるからな。買取りで良い武器、防具が来たらキャンセルにならねぇように、しっかり買いとっておかねぇとな」
「うん、そうだね。あと傷薬や毒消しの材料ももっと欲しいな。でも予算もあるから、販売も力を入れて利益を出していかないとね」
「え?ちょっと待って、戦争に駆り出されるってなに?みんな戦うの?」
リカルドがあまりに普通に口にしていたが、戦争に駆り出されるとはどういう事だ?
カチュアも当たり前のように聞いているし。もしかしてこの国には、徴兵令があるのか?
「あれ?兄ちゃんの元の世界だと、戦争ってねぇの?」
「いや、ある。あるよ。日本も過去に戦争した事があるけど、オレが産まれる何十年も前の事だ。
オレは戦争に参加した事はないし、日本では一般市民を強制的に戦地に連れて行く事は無いんだ」
「あ、そうなんだ。それじゃあ驚いて当然だよね。あのね、この国では戦争になった場合、協会の治安部隊や軍を中心に、国を護るために戦争に行く事になるの。でも一般国民をいきなり駆り出す事はないよ。志願兵は募るけどね。それでね、私達レイジェスはちょっと事情が違うの。もしもに備えてみんな店長に鍛えられていて、帝国と戦争になったら多分全員参戦する事になると思うの」
俺が日本の事情を説明すると、カチュアもリカルドも理解はしてくれたようだ。
けれど、それはそれなのだろう。この世界には関係の無い話しなのだ。
カチュアの話しぶりからも、この世界の人は戦争というものを身近に考えている節がある。
きっとそういうものとして教え、育てられてきたのだろう。
日本人の俺には、戦争という言葉だけで恐怖や拒絶反応がおこるが、そもそもの文化が違うのだ。
実際に戦争になった場合、オレはどうしたらいいのだろう。
昼間の戦いで、魔法は使えないけど自分にも特別な力があることは分かった。
自分でも驚くくらい冷静に立ち向かえたけど、相手が一人だった事、そしてカチュアを、女の子を守らなければという咄嗟の事だったというのもある。戦争となると話は全く異なる。
本当の命のやりとりに、平和に暮らしてきた自分が参戦できるのだろうか。
「そんなに考え込むなって、兄ちゃん強いんだろ?しかも素手で。オレは弓、レイチェルはナイフ、ミゼルは魔法って武器があるけど、兄ちゃんメインが素手なんだろ?武器使わねぇで素手!すげぇな」
つい考え込んでしまったところを、リカルドが肩を叩いてきた。
「えっと、素手はそんなに珍しいのか?こっちの世界には格闘技って無いの?ボクシングや空手ってのは無いと思うけど、素手で戦って強さを見せる競技みたいなのヤツ」
「ボクシング?カラテ?知らねぇな、そんなの。戦いってオレらの世界だと殺すか殺されるかだぜ。まぁ、武器を失った時のために、体術を身につけたりするのはあるよ。でも素手がメインってのはねぇんじゃねぇか?刺した方が早いだろ?」
刺した方が早い。リカルドはやはり当然のように話すが、俺は驚きのあまり言葉を返せなかった。
命に対する認識があきらかに違う。
考えてみれば現代日本で生きてきた俺と、剣に魔法があり、徴兵令があるこの世界では、命の重さがまるで違うのだろう。日本だって明治より昔は、簡単に人を斬り捨てていたのだ。
国のためならば簡単に命を奪われる。この世界もそうだと考えていた方がいいだろう。
「アラタ君、私は回復専門だから前線には出れないけど、もしアラタ君が怪我をしたら私が治すからね!」
カチュアがやや力を込めて言ってきた。
この口ぶりだと、どうやら戦争になった場合、俺も戦う事は決まっているようだ。
確かにここで生活する以上、戦わないという選択肢は無いだろう。
心の整理はついていないが、頭には入れておかなければならないようだ。
「さてと、もう10時だし、俺は風呂入って寝るぜ。カチュア、後で土の寝間着持って来てな」
「リカルド君、自分で持って行けばいいじゃん」
「どこにあるか忘れたんだよ。頼むぜ~」
「もー、リカルド君、人使い荒いよ!」
リカルドは軽い調子で笑いながら、部屋を出て行った。
カチュアもしかたないなという様子で、いつもこのような感じなのだろう。
ふと、日本のウイニングで働いていた時を思い出した。
村戸さんと弥生さん、3人で入っていた夜勤は本当に楽しかった。
まだこっちの世界で1日しか経っていないが、あまりに常識外の事ばかり起きているからだろうか、日本での生活がずいぶん昔の事のように感じられる。
「じゃあ、リカルド君が上がったらアラタ君もお風呂入ってきたら?土の寝間着は用意しておくね」
「いや、悪いよ。カチュアが先に入ってきなよ。俺は最後でいいよ」
「私、お風呂長いから気にしないでいいよ。先に入ってきて。それに今日はお仕事も初日だったし、お昼にはあんな事もあって疲れたでしょ?早く休んでね」
カチュアはニコリと微笑むと、着替え用意してくるね、と言って部屋を出て行った。
あまり顔には出さないようにしていたつもりだったけど、色々ありすぎて精神的にものすごく疲れていた。きっと見抜かれていたんだな。
それから風呂に入り、カチュアの用意してくれた土の寝間着に着替えベッドに入ると、あっという間に寝てしまった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。




