1520 レイ・ランデルの力
「これだけの数をお前ら二人でやったの?・・・へぇ~、そりゃ並みの兵じゃ相手にならないわけだ」
帝国軍第一師団長レイ・ランデルは、砂の上に積まれた部下の死体を見渡すと、エクトールとフィルの二人に顔を向けた。
力こそがものを言う帝国では、兵の一人一人が徹底して鍛えられている。その兵士達を相手にエクトールとフィルは、たった二人で優に百人以上は倒したのだ。
このまま部下を戦わせても、無駄に死体を増やすだけだと判断したレイ・ランデルは、自ら前に出たのだ。
「俺は帝国軍第一師団長レイ・ランデルだ。ここからは俺が相手になろうか」
「大将のお出ましか、いいぜ、ぶっ倒してやるよ」
血の気の多いフィルは、威圧するように魔力を滲ませながらレイ・ランデルを睨みつけた。
「おい待て、フィル」
戦意を剥き出しにするフィルとは違い、エクトールは慎重だった。
今にも魔力を解き放ち、攻撃を仕掛けようとするフィルの肩を掴み止めると、冷静になれと諭す。
「なんだよエクトール、敵の大将がわざわざ出て来てくれたんだ。しかも一人で俺らとやる気なんだぜ?チャンスじゃねぇか」
「それは分かる、だが相手は師団長だぞ?どんな力を持っているか分からない、様子を見てじっくり攻めた方がいい」
フィルとエクトールの主張が対立すると、それを見ていたレイ・ランデルは呆れたように鼻で笑った。
「ふん、がっかりだな、敵を前にして怖気づいたのか?お前達ここに何をしに来た?俺の首が欲しくないのか?少しはできるヤツらだと思ったけど、こりゃ俺が出る必要はなかったかなぁ~?」
「・・・言ってくれるじゃねぇかよ?」
「ッ!?フィル、待て!」
嘲笑を浮かべるレイ・ランデルを見て、フィルはエクトールの静止を振り切った。
両足を肩幅程度に開くと、風の魔力を込めて握り合わせた両手を、頭上高くに掲げる。
拳に渦巻く風が、強く激しさを増していき、帝国兵の体を打ち付けた。
体力型であっても飛ばされぬように姿勢を低くして、足腰に力を入れて耐えているが、レイ・ランデルは涼しい顔でフィルを見つめていた。
「ふん、風の上級魔法か・・・この圧力はなかなかのものだね。でも・・・」
「食らいやがれ!トルネード・バーストッ!」
握り合わせた拳を振り下ろす!拳に纏った鋭く渦を巻く風が、レイ・ランデルに向かって撃ち放たれた!
それは巨大な竜巻の如く、地面を抉りながら唸りを上げて突き進む!
「バカ正直にまっすぐ撃つだけじゃ、俺には当たらないよ」
嘲るように口角を上げると、レイ・ランデルの姿が一瞬にしてその場から消えた。
「なにッ!?」
フィルは驚愕した。
風の上級魔法トルネード・バーストは、いわば竜巻をぶつける魔法である。
その特性上、広範囲に影響を与えるため、紙一重で躱す事は不可能であり、回避するためには跳び上がるなど大きく距離をとる必要がある。
レイ・ランデルの言葉の通り、確かに真っ直ぐ撃つ魔法ではある。だが回避のための動きが大きくなるため、そこを狙った追撃がセオリーでもあった。
フィルもそれを狙っていた。空中に跳び上がるか、左右に大きく飛び退いて躱すか、どちらにせよ避けたところにもう一発撃ち込んでやる。そこで動きを止めれば、あとはエクトールが斬りかかって仕留める。
事前の打ち合わせが無くても、エクトールはそう動いてくれる。これまで二人で培った信頼と経験があっての連携だった。
だがトルネード・バーストがあたるかと思われたその時、レイ・ランデルの姿は言葉通り消えてしまったのだ。
魔法使いのフィルには、体力型程の動体視力は無い。
スピードタイプの体力型であれば、動きを目で追い切れない事もあるだろう。しかし今のこれは、超スピードというレベルではない。残像すら見えなかったのだ。本当にその場から消えたとしか表現できない。
あまりの事に一瞬我を忘れたフィルだったが、すぐに白髪の第一師団長レイ・ランデルの姿を探して周囲を見渡した。そしてその時、背後からかけられた声に背筋が凍った。
「死ね」
その言葉が耳に届いた瞬間、フィルは呼吸ができなくなった。まるで心臓が掴まれたような苦しさに膝から崩れ落ち、顔から砂の上に倒れ伏した。
「か・・・あ、ぁ・・・・・」
喉の水分がカラカラに干上がり、掠れた呻き声しか出て来ない。
いったい何をされた?
指一本触れらてもいなかったはず、それなのになにを・・・・・
フィルは自分が何をされたのか、まったく分からなかった。
だが、自分が今危険な状態に陥った事だけは分かる。
この力はなんだ・・・?
こんな力は聞いた事もない。だが魔法とは違う、それだけは分かる。
喉が焼かれるように熱く、胸が苦しい・・・呼吸ができない。肺が潰されたかと思うくらいだ。
しかし、なにより恐怖を感じたのは、全身に突き刺さる冷たい殺気だった。
身動きを取る事さえ阻まれる程の恐ろしい殺気、こんなものを人間が発する事ができるのか?
薄れゆき意識の中で視界に映ったのは、自分を見下ろしながら冷たく微笑む白髪の男の顔だった。
「ふん、こんなもんか?あっけないね。このまま何も分からないで死ぬのは嫌だろ?最期に教えてやるよ、俺のこの力は・・・・・」
「やめろぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーッツ!」
レイ・ランデルの言葉を遮り飛びかかったのは、シルバー騎士のエクトールだった。
エクトールにもレイ・ランデルが何をしたのかは分からなかった。だが、フィルに何かをしたのは間違いない。
倒れているフィルの苦悶の表情を見て、このままでは殺されると感じたエクトールは、剣を握り締め闘気を全開にして、レイ・ランデルの頭に振り下ろした!
「無駄だ」
レイ・ランデルが冷たい視線を向けると、エクトールの胸に呼吸ができない程の強い痛みが走った。
「ガ、ァ・・・ッ!」
立っている事さえできず、強く握り締めていた剣を落とし、そのまま前のめりに砂の上に倒れ込んだ。
「ぐぅ、ぁ・・・・・ぁ・・・・・」
な、んだ、こ、れは!?さ、寒い・・・か、体が、凍り付く、ようだ・・・・・
い、息が、できない・・・し、心臓、が・・・・・!
「ふん、どうだ?苦しいだろ?さっき言いかけた事だけど、最後に教えてやるよ。お前達を苦しめているその力が何なのか・・・」
胸を押さえ、もがき苦しんでいる二人を見下ろしながら、レイ・ランデルはその力の正体を口にした。
「この力は霊気だ。霊気を知らないお前達には、絶対に防ぐ事はできない。諦めて死ね」




