1517 復讐の炎
「・・・ダメージを閉じ込めるだと?」
紫色の髪の魔法使い、エディスの話しを聞いて私は眉を潜めた。
ミルコの驚異的な回復力が、回復魔法によるものではないとあたりはつけていたが、まさか与えたダメージを水晶に飛ばして閉じ込めているとは、思いもよらなかった。
少なからず驚きを見せた私を見て、エディスは楽しそうに言葉を続けた。
「クスクス、いい顔ね。原理は簡単よ、私の魔力でミルコと復讐の水晶を結びつけるの。そうするとミルコが受けたダメージは全て、この水晶に飛ばされるってわけ」
「・・・なるほど、それは大した能力だな、不死身なわけだ。だが、ずいぶんペラペラと話すんだな?それはつまり、お前を倒せばその能力も無効化されるって事じゃないのか?」
魔力で結び付けるという事は、魔力の主が消えればそれで終わりという事だろう。
自分の弱点をペラペラと話すとは、よほど自信があるのか、それともただの馬鹿なのか?
「まぁそうね。それはその通りよ。でも、できるかしら?私が何の考えもなく正体を明かすような馬鹿に見える?最初に言ったでしょ?分かったところでどうする事もできないって」
エディスは右手に持つ赤黒く光る玉、復讐の水晶を天に向かって掲げた。
すると水晶はエディスの手を離れ、ゆっくりと空へ浮き上がっていく。
「水晶に閉じ込めたダメージはどうなると思う?自然に消えてなくなる?そんなわけないわよねぇ?」
目を細め、ニヤリと口を曲げるエディスの全身から魔力が溢れ出す。それに呼応するように、水晶の中の赤黒い炎が強く激しい光を放つ。
「くっ、何をする気だ!?」
強い光にまともに目を開けていられず、右腕を額に当てて影を作る。
水晶から発せられるエネルギーは凄まじいものだった。あの玉の中に、私が与えた全てのダメージが蓄積していると言うのなら、それは相当なものだろう。
なにせ首を斬って絶命寸前まで追い込み、そこから百発以上の打撃を食らわせて、全身の骨を砕いてやったんだ。何十人分の命を奪うくらいのダメージはあるはずだ。
「クスクス、さてどうすると思う?想像くらいつくわよね?あんたには何もできないって言葉の意味を教えてあげるわ」
エディスの瞳がギラッと鋭い光を放った。するとビシッと大きな音を立てて、水晶に亀裂が走る。
「なに!?」
「あんたのエネルギー、お返ししてやるわ!受けてみなさい!復讐の炎!」
大きく声を上げると、エディスは頭上に掲げていた右手を、レイチェルに向けて振り下ろした!
金属が割れ砕ける大きな音が鳴り響く!解放された赤黒い炎は一気に大きく膨れ上がり、そのままレイチェルに襲い掛かった!
「でかい!」
一直線に向かって来る赤黒い炎に、私は地面を横に蹴って跳び躱した。
あの小さな玉に、これほど巨大な炎が閉じ込められていたのか!?足の先から頭のてっぺんまで丸呑みされるぞ!
だが躱したと思った瞬間、私は目を見開かされた。
「ッ!?」
「無駄よ!」
真っ直ぐに抜けたはずの赤黒い炎が、私を追うように曲がったのだ!
「その炎はあんたが生みだした、ダメージエネルギーで出来てるのよ!だから解放された炎は生みの親のところへ戻る!どこまでも追いかける、絶対に逃げられない、それが復讐の炎よ!すっごいダメージを溜めてたから、くらったらあんた絶対に死ぬわね!」
鼻先に迫る炎を私は上空に跳んで躱した。しかし炎も空中に向きを変えて追ってくる、私は右手から闘気を発し、その反動で体を外に押して炎を避けて地面に着地をした。
だが炎はすぐさま向きを変えて私を追って来る。炎の大きさは私の倍はあるだろう、まるで蛇のようにうねりながら迫って来る。まるで炎が意思を持っているようだ。
「・・・なるほど、本当にどこまでも追跡してくるようだな」
この炎、あの女の言う通り本当にヤバそうだ。私の限舞闘争の全ダメージが溜められているのなら、くらえば本当に死ぬかもしれんな。カスる事さえマズイと思った方がいいだろう。
さて、どうしようか?
私の方がスピードはあるから、まず追いつかれる事はない。だが私の役目はこいつらを倒し帝国に乗り込む事なのだから、逃げるという選択はない。
しかし、だからと言ってこの炎を迎撃する事は難しい。ガラスのナイフを使い、真空波をぶつければ消せるかもしれないが、あれは体への負担が大きい。これから先の戦いを考えれば温存しておきたい。
それなら・・・・・
「ふはははははははは!もらったァァァァァーーーーーッツ!」
復讐の炎に追われる私の前に、長剣の男ミルコが立ちはだかった。
そして脇に構えた伸翔剣を、左から右へと横一線に振り抜く!
鈍い光を放つ刃が私の首に触れそうになる、だが・・・・・
「ハッ、お前から来てくれるとはな、手間がはぶけた」
「ッ!?」
ミルコの長剣は空を切った。
スピードではレイチェルに負けていたが、さっきまでは目で追う事はできていた。
だが今、直前まで捉えていたレイチェルの姿を完全に見失ってしまった。
一瞬だがミルコの思考は停止してしまった、そしてそれが命取りだった。
「お前、首と胴が離れても生きていられるか?」
さっきまでのレイチェルは本気を出していなかった。出す必要がなかったのだ。
今はただ、ミルコが追えない程度のスピードを出した、それだけの事だった。
そしてミルコの背後をとり、闘気を込めた右の手刀を振り抜いた。
血飛沫を撒き散らしながら、ミルコの頭が宙を舞う。
頭を失いグラリと傾いた胴体を、私は前方に蹴り飛ばした。
「私の代わりに炎をくらってほしかったんだ。来てくれて助かったよ」
私を追って迫りくる炎にミルコの体がぶつかると、赤黒い炎はまるでミルコを閉じ込めるかのように、球状に大きく膨れ上がった。炎は砂を焼き焦がし、吸い込む空気で肺が焼かれそうな、凄まじい熱波を叩きつけて来る。こんなものを食らえば、骨の一本も残らないだろう。
「これは、想像以上だったな・・・だがこの驚異的な火力よりも・・・・・」
この肌を浸食してくるような、ドス黒いエネルギー・・・復讐の炎とはよくいったものだ。
これが私が与えたダメージによる、負の力というわけか?
どこまでも追跡して、恨みの炎で焼く。まったく恐ろしい魔道具だよ。
「だが、まぁ・・・」
私はそこで言葉を切ると、目の前で轟轟と燃え盛る赤黒い炎に背を向け、この炎を放った術者である紫色の髪の魔法使いに顔を向けた。
「お前が自信満々に撃った復讐の炎とやらは、ご覧の通りだ。さて、次はどうする?」
スッと冷たく静かに見据える。
前に出て戦う男は始末した、もう後ろに隠れていたお前が出て来るしかないぞ。
「ミ、ミルコ・・・・・っ、このクソ女!よくも・・・よくもやったわね!ぶっ殺してやる!」
自ら放った炎が仲間を焼く。
その光景を呆然と見ていたエディスだったが、レイチェルが向けた鋭い視線を受けて、その目が強い殺意と憎しみで燃え上がった。




