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【147 ブレンダン 対 ベン・フィング】

誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません

ブレンダンは三日前、ウィッカー達へ見せたものと同じ構えをとった。


腰をやや落とし、左右の足を広げ、左足を少し後ろに引くと、右手を胸の前、左手を腰の位置に、両手の平をベン・フィングに向けている。


ベン・フィングは開始の合図を聞くなり、両手を左右に全開で広げた。その両手は肘の辺りから炎を帯びている。


「あれはっ!まずい・・・師匠の技が利かない魔法だ!」


ウィッカーが席を立ちかけると、ジャニスはウィッカーの肩に手を置き、押しとどめた。


「・・・ウィッカー、師匠を信じて座ってなさい」

そう口にするジャニスの目は、ブレンダンから視線を外さずに、試合を最後まで見留める覚悟を持っていた。


「双炎砲!」

ベン・フィングが、広げた両手をブレンダンに向け合わせると、文字通りの燃え盛る炎が二発絡まり合いながら放たれた。


炎は砲弾の如き凄まじい勢いで、目の前の標的を焼き尽くさんと襲い掛かる。


しかし、自分に向かってくる激しい炎を見ても、ブレンダンは眉一つ動かさず、右手を前に出し、冷静に結界を張ると、炎はブレンダンの正面で左右に分かれるようにかき消され、難なく凌いでみせられた。


「ほっほっほ、さすがベン殿、引退されて長いのに、なかなかの威力でしたぞ」


ベン・フィングの放った双炎砲の残り火は、まだ地面を焦がしているが、ブレンダンは結界を解くと、軽く両手を打ち合わせ、にこやかに称賛の言葉を口にした。



「うわぁ~・・・師匠、拍手までしてる・・・こりゃ、徹底的に潰すつもりだわ」

ジャニスは額に手を当て、苦笑い交じりに呟いた。



中級の火魔法、双炎砲を簡単に防がれたベン・フィングだが、薄ら笑いを浮かべるその表情には、まだ余裕が見えた。


「ふん!ブレンダンよ、貴様がそのくらいやるのは分かっていた。では、これならどうだ!」


ベン・フィングは両手を頭上に上げ魔力を込めると、勢いよくに地面に両手を振り下ろした。


「地氷走り!」

前かがみになり、ブレンダンに向け地面に着いた両手からは、氷の槍が無数に地面から飛び出し、まるで走るように襲い掛かってきた。



「あれも駄目だ・・・師匠!」

ウィッカーは苦々しく言葉を漏らすが、ジャニスは対照的にまるで焦りを見せず、むしろ余裕を持って試合を眺めていた。


「ウィッカー、師匠を信じろって言ったでしょ?いくら結界のみって条件があるからって、私達の師匠があの程度でやられると思う?」


ジャニスの言葉通り、ブレンダンは再び右手を前に出し、自身の前に青く輝く結界を張ると、ベン・フィングの氷魔法 地氷走りは、その氷の槍をブレンダンに突き立てる事ができず、結界にぶつかり粉々に砕け散った。



「ほらね?あんた焦り過ぎよ。大丈夫、いずれ師匠が待っている魔法を撃つときが必ずくるから。それまでは待つしかないけど、ベン・フィングに師匠の結界は破れない。だからこれは、時間はかかってもいずれ師匠が勝つ勝負なのよ」


ジャニスはブレンダンの勝利を信じて疑っていなかった。

事実、ベン・フィングの放った魔法はブレンダンに余裕を持って防がれており、仮に上級魔法を放ったとしても、結果は変わらないだろう。


この時点で、それほどの差が見て取れた。


「ジャニス・・・確かにそうだよ。この前見せてもらったあの技もあるんだ。師匠が負けるとは思えない。でも、あのベン・フィングだぜ?あいつが、あんな狡猾なヤツが、何の策もないまま勝負に来ると思うか?俺の杞憂ならいいんだ。でも、嫌な予感がするんだ。アイツが試合場に現れた時から、なにか嫌な感じがするんだ。早く決着をつけた方がいい・・・」


ジャニスは、ウィッカーの焦りは、制限のある戦い方を強いられているブレンダンを、心配しているからと思っていた。


ジャニス自身、ブレンダンに対して心配が全く無いわけではない。

しかし、結界のみの戦いであっても、今だ現役のようなブレンダンの魔力量は、ベン・フィングを圧倒的に上回っており、ベン・フィングがいかに消極的な戦い方をしたとしても、いずれ魔力が先に尽きる事はすでに見えていた。



だが、ウィッカーは、ベン・フィングのその心根に懸念を抱いている。


この試合、例えハンデ戦であっても、ブレンダンに勝ったとなれば、大臣の発言力は更に強さを持つであろう。これだけ多くの国民の前で、魔戦トーナメント10連覇のブレンダン以上の強さを見せつけるのだ。

その影響力は計り知れないものとなろう。

ブレンダンはどんな条件であっても、その名前だけでも倒す価値がある男だった。


だが、逆に負ければ、これまで国王以上の存在感を発揮し、時には乱暴とも言える強引な手法を持って、国を動かしてきた大臣の威厳に大きな傷がつくであろう。

相手がブレンダンであっても、結界のみという大きなハンデを背負っているのだ。

負けるはずがない。負けていい試合でもないのだ。


この戦いは条件は同じでも、勝利と敗北で二面性の取られ方をする戦いだった。



ウィッカーの懸念に、ジャニスは耳を傾けた。

長い付き合いだ。ブレンダンの強さはウィッカーも十分に承知している。そしてブレンダンのあの技は、先日身をもって体験したのだ。


それでも尚、ウィッカーが嫌な予感がすると言うので、あれば、それは嫌な事が起こる前提で考えた方がいい。


ジャニスは、ウィッカーの懸念を、自分の懸念として考えた。

もし、この状況でベン・フィングが勝つために策を要するとすれば、それはどんなものか?


自分ならば、ベン・フィングをどう疑う?


ジャニスも、ベン・フィングの狡猾さは知っている。そして強い自尊心も。

魔道具の使用は、ブレンダンのみができない。


だから、ベン・フィングは魔道具を使用する事はできる。できるが、これだけ大勢の観客の前で、ただでさえハンデ戦なのに、自分だけ魔道具を使えば、勝ったとしても反発しか生まないだろう。

自尊心の強いベン・フィングが、そんな行為をするとは思えない。


やるとすれば・・・自分以外・・・・・・




「ウィッカー、パトリックさん、客席に・・・ベン・フィングの刺客がいるかもしれない」



周囲に気付かれないように、ジャニスは声を抑えて言葉を口にした。



「なに?」

「なんだって?」


ウィッカーとパトリックは、二人の間に座り前を向いたまま言葉を発するジャニスに、揃って顔を向けた。



「できれば、二人とも前を向いたまま話して。確証は無いけど、ウィッカーの話しを聞いて考えてみた。

万一にも負けられないベン・フィングは、自分に有利な戦いだとしても、やっぱり師匠が何かの手を用意してるとは考えているはず。

そしてベン・フィングは、もし自分が窮地に陥った時のため、起死回生の一手を用意していると思うの。でも、このハンデ戦では自分は魔道具を使いたくても使えない。

それなら、自分以外の協力者に使わせればいい・・・・・そう考えてもおかしくないんじゃないかな?」



「なるほど・・・」

パトリックはすぐに前に向き直ると、感心するような声で納得の言葉を口にした。



「ジャニスは凄いな・・・俺はただ、漠然と不安は感じていただけで、ベン・フィングの協力者にまで、考えは及びつかなかった」

ウィッカーも正面に体を向き直らせ、ジャニスの考えに感服した。



「うぅん、ウィッカーが嫌な予感がするって話してくれたからだよ。私は・・・ちょっと油断してた。試合だけ見て、師匠の勝利を確信して、それで終わりだった。でも、考えてみればウィッカーの言う通りだよ。あの大臣が、なんの策も無しにこの場に立つとは思えない・・・だから、おそらく協力者はいると思う」



「ジャニス、ウィッカー、お前らは二人ともすごいよ。俺は嫌な予感も、そんな考えも頭に無かった・・・・・さすがだ。しかし、この広い闘技場で、一体どう警戒する?協力者ったって、どんなヤツなのか全く分からないんじゃ・・・・・」

パトリックは難しそうに言葉を口にした。



「ジョン・フィング・・・・・ベン・フィングの息子の青魔法使い。あいつなら裏切る心配も無い。ベン・フィングが唯一心から信用している協力者よ」



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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