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【141 アプローチ】

師匠がどのように大臣との試合い挑むのか、その対策を知りたいという事で、ロビンさんも孤児院に同行する事になった。

城を空ける間の業務は、副団長に任せるそうだ。


帰りの馬車の中では、主にロビンさん達魔法兵団の、セインソルボ山でのバッタの残りの駆除の話しや、俺達が首都を護った際に使用した、三種合成魔法の話しが中心になった。


師匠が生涯をかけて研究し、実現させた三種合成魔法。

それは、魔力の段階で、異なる三種の魔力を融合させる事で実現できる。

それは、白、黒、青の三人の魔法使いに、極めて繊細な魔力の操作と調整が要求される。


その理論をロビンさんに説明すると、ロビンさんは頭では理解できるが、とても実践できそうにはない、と答えていた。



セインソルボ山でのバッタ話しでは、ロビンさんに一つ気がかりがあるそうだ。


それは、おそらくブロートン側にも、バッタが侵入したであろう。という話しだ。

セインソルボ山は、カエストゥスと、ブロートンの国境を跨いでおり、東側がカエストゥス、西側がブロートンの領内に入っている。


バッタが東側だけに留まっているとは考えづらく、西側ブロートン領内にも侵入しているであろう事は、十分予想ができる。


その場合、ブロートン側から、なんらかの抗議が来る可能性があった。


バッタの発生元がカエストゥス国内からと決まった訳ではないが、やはり東から発生したという事で、カエストゥス国のバッタと見られる可能性は高い。

そして、そのバッタが元で、ブロートンに被害がでれば、カエストゥス国を属国にしたがっているブロートンに、攻めの口実を一つ与える事にもなりかねない。


バッタを殲滅させて二週間は立っているが、今だブロートンから何も抗議が来ていない事から、杞憂に終わる可能性も無いわけでな無いが、やはり楽観的には考えられない。


なにかあれば力になると、師匠はロビンさんには伝えていた。

俺もジャニスも同じ気持ちだ。




孤児院に着いたのは、午後2時を回った頃だった。


「おかえりなさい。夜になるかと思ってましたが、お早いお帰りでしたね」


玄関で出迎えてくれたヤヨイさんは、師匠や俺達から風のマントを預かってくれた。

留守中、何も変わった事はなかったようで、お昼を済ませた子供達は元気に遊んでいたという事だ。


「あら、お客様ですね?ようこそいらっしゃいました。どうぞお上がりくださいませ」


一番後ろに立つ、ロビンさんに気が付いたヤヨイさんは、ロビンさんに頭を下げ院内へ手を向けて挨拶をした。


腰まである長い髪は、今はアップにしてまとめているので、頭を下げた時の綺麗な姿勢もよく分かる。

最初に会った時から感じていたが、ヤヨイさんの所作は一つ一つがとても美しい。なんと言うか整っているのだ。


きっと、記憶を無くす前に、こういった所作を学んでいたのだと思う。

記憶は無くても身体が覚えているのだろう。



「お、おぉ・・・ブレンダン様、こ、こちらの美しい女性は?」


ヤヨイさんを見たロビンさんが、目を開き、上ずった声を出した。


「ん?おぉ、こちらはシンジョウ・ヤヨイさんじゃ。ワシも昨日初めてあったばかりじゃ。数日前、川で倒れていたところを、ウィッカーが助けたようで、それ以来ここで住み込みで働いてもらってるんじゃ」


ロビンさんは、俺達に続き広間に上がると、遠慮の無い視線をヤヨイさんに向け、感心したように頷きながら、はぁ~、ほぉ~、などと声を上げている。


「あ、あの、お客様、私になにか?」


戸惑うヤヨイさんに、ロビンさんはやっと見過ぎていた事に気付いたようだ。

かなり近い距離で見回していたが、慌てて体を離し、今度は何度も頭を下げ謝り始めた。


「あぁ、いやいや、申し訳ない!大変失礼しました!つい見惚れてしまいました。ジロジロと本当に申し訳ない」


「おい、ロビン、お主結婚して子供もおるじゃろ?45にもなって何をしとるか?ヤヨイさんとは、親子ほどに離れておろうに」


師匠が呆れたように溜息をつく。ヤヨイさんも若干引き気味に後ずさっている。

俺とジャニスも、どうしたものかと顔を見合わせていると、ロビンさんは両手を振って慌てた様子で声を出した。


「いやいや!違うのです!思わず見惚れてしまいましたが、私は妻一筋!パトリックです!息子のパトリックに、こんな美しい方が来てくれたらなと思ったのです!」


「パトリックに?おぉ、そうか、そう言えばあやつも独り身じゃったな?幾つになった?」


師匠が納得したように腕を組み、軽く頷くと、ロビンさんが頭を掻きながら、少しバツが悪そうに話し出した。


「今年で24になりました。まだ若いと言われますし、決まった相手でもいましたら私も何も言いませんが、ご存じの通り、パトリックは女性関係はてんで駄目で、誰かとまともにお付き合いした事がありません。

魔法兵としての実力は、私と副長に次ぐ三番手にまでなり、親馬鹿かもしれませんが、兵を率いる統率力もなかなかのものだと思っております。

ですが、なぜか昔から極度に奥手で・・・このままでは一生独り身にすらなりかねない」



ロビンさんの話しを聞いて、俺もジャニスも同時に苦笑いを浮かべてしまった。


パトリックさんは、年が近い事もあり俺やジャニスとも話しが合い、兄貴分みたいな感じで接してくれる。

以前、パトリックさんが部下の魔法兵に訓練を付けているところを見た事があるが、部下達の士気も高く、みんなやる気に満ち溢れていた。

パトリックさんの指導力の高さを感じたものだ。


だけど、ロビンさんの話す通り、女性関係は奥手、いや、奥手と言うより驚くほど駄目だった。



王宮の女性魔法兵で、パトリックさんに好意をもってくれた人がいて、一度デートに行った事があった。

なぜ俺が知っているかと言うと、俺とジャニスは、その事を知ったロビンさんに、心配だから見て来てと頼まれたからだ。二十歳を過ぎた息子の事なのにと思ったが、事情を知っている俺達はロビンさんの気持ちも分かるので、隠れながら付いて行き、遠巻きに様子を見ていた。



結果は見ているこっちが辛くなる程のものだった。


パトリックさんは終始上がりっぱなしで、ほとんど何も話せず固まっているのだ。女性の方も最初は緊張を解こうと、あれこれ話していたが、最後の方はお互い黙ってしまい、気まずい空気が流れるだけだった。



翌日、もちろん俺達はパトリックさんには何も言わず、いつもと変わらないように接した。

パトリックさんも、何事も無かったように、いつもと変わらない態度で接してきた。

ロビンさんはガッカリ感が全身ににじみ出ていて、父さんどうした?と、パトリックさんがその日は一日首を傾げていた。



「ヤヨイさん、どうですか?今、お付き合いされている方や、意中のお相手がいなければ、一度息子に会ってみませんか?いや、こんなお話しをした後では抵抗あるかもしれませんが、時間さえかければ、息子もちゃんと話しができると思うんです。だから、長い目で見て、ゆっくりと時間をかけたお付き合いをお願いできれば!」



話しているうちに、熱が入ったのか、ロビンさんは、一歩、また一歩、ヤヨイさんとの距離を詰め近寄って行く。


ヤヨイさんは、やや怯えた表情で、両腕で自分を抱きしめるようにしながら、詰められた分後ずさっている。


「ロビン!」


見かねた師匠が後ろから大きく声を上げ、後頭部を叩くと、ロビンさんは我に返ったように顔を上げ、大きく後ずさると、またヤヨイさんに平謝りを繰り返した。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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