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【140 弱いリーダー】

「ブレンダン様!お待ちください!」


城門を出たところで呼び止められ、振り返ると、魔法兵団団長 ロビン・ファーマーが小走りでこちらに向かって来た。


185cmはあるだろう。長身で、魔法使いにしては筋肉の付いた体格をしている。


目元の彫りが深く、鼻は高い。白髪交じりの髪は全て後ろに流し、鼻の下から口の回りを覆うように生えている、白い毛の混じった髭は、強面の印象に拍車をかけていた。


左右縦に3個づつのボタンで留めた黒い上着に、やや大きめの白いパンツ、膝近くまである茶色のブーツを穿き、深い緑色のマントを羽織っている。



「おぉ!ロビンではないか!久しいのう」


ロビンの姿を見て、ブレンダンは目を細めた。


「ブレンダン様、城へお越しになっていたのですね。先日は遠征に出ておりましたので、お力になれず申し訳ありませんでした」


ブレンダンの前に立つなり、ロビンは頭を下げた。


自分より20cm近く背が高い強面の男が、一見どこにでもいそうな白髪の細い老人に頭を下げている。


両者の関係を知らない者が見たら、驚きの光景だろう。



「ロビン、頭を上げよ、お主が謝る事ではない。確か、セインソルボ山への遠征と聞いたが、いつ戻ったのじゃ?」


ブレンダンが声をかけると、ロビンはゆっくりと頭を上げた。


「一昨日です。あの山は西側がブロートンの領内ですから、現状、一層厳しい警戒が必要なのです。それに加え、バッタの残りが山に住み着いたという報告もありましたので、我々魔法兵団がバッタの殲滅を兼ねて出向いたわけです」


「そうか、タイミングが悪かったのう。お主がいてくれたら、もう少しなんとかなったやもしれん。じゃが、その理由ではしかたあるまい。それで、バッタは全て始末できたのか?」


「実は、私は途中で帰ってまいりましたので、まだ確認がとれておりません。

現在、息子のパトリックが私に代わり、指揮を執っております。なんせ、あの高さの山ですから、かなりの日数がかかると見てます。

青魔法使いがサーチでバッタを探し、見つけたら黒魔法の火球かきゅうで焼き殺す。二人一組の、こういう手順で進めております。

私は、使いの者から、王子の軟禁の知らせを受け、飛んで帰ってまいりました。今日、ブレンダン様にお会いできて良かった」


そう話すと、ロビンは安心したように息を付いた。


「そうか・・・心配かけたのう、じゃが、安心してよい。なんとか、王子解放への道筋は付けたわい」


ブレンダンのその一言に、ロビンは驚いたように目を開いた。


「・・・本当ですか?いや、しかし、今日ブレンダン様がお越しになって、大臣に会ったとは聞きましたので、その話しだとは予想してましたが、一体どうやって?」





怪訝な顔をするロビンに、ブレンダンは大臣との試合の事を説明した。

自分が勝てば、王子を解放し、大臣が勝てばブレンダンの命は無いという事も。


「うぅむ・・・ブレンダン様、私は黒魔法使いですので、青魔法は専門外になりますが、その条件では、私でもブレンダン様に勝てそうな気がします。一体どうやって勝つおつもりですか?大臣は、あれでも昔は確かに国内屈指の魔法使いでした。老いたとはいえ、それでも上級魔法を使えますし、瞬間的な爆発力は、まだ健在ですよ?」


「ロビンさん、それ私も言ったのさ。結界だけでどうやって勝つんですか?って、帰ったら実践して見せるんですって。そうすると、ウィッカーが大臣役で黒魔法撃つのかな?」


ジャニスが口元に笑みを浮かべ、からかうような目を俺に向けて来た。


「まぁ、俺がやるしかないけど、なんかジャニスの顔を見てると、引っかかるんだよな・・・お前、俺がやられるとこ想像して無い?」


「いやいや~、まぁ、師匠が何するのか分からないけど、実験体がウィッカーなら、まぁいいやってくらいですよ~」

ジャニスはニヤニヤしながら、顔の前で右手を振っている。


「お前なぁ~・・・ 」


俺とジャニスのやりとりを見ていたロビンさんが、笑い声をもらした。


「フハハハ、お前達は相変わらず仲が良いな。何よりだ・・・・・ウィッカー、遅くなったが、あの合成魔法は見事だった。45年生きて、魔法に全てをささげた俺でさえ15メートルを10体が限界の灼炎竜を、お前はあの条件の中、20メートル級を30体・・・とてつもない才能だ。前にも話したが、魔法兵団に入る気はないか?お前なら団長として歴代最高の魔法兵団を作れるだろう」


ロビンさんの口調は柔らかく、決して押しつけがましくも、強制の意も無かった。

この人は時に力強くみんなを引っ張り、時に優しくみんなを元気づける。そういう人だ。


「・・・ありがとうございます。でも、俺にはロビンさんのような気持ちの強さが無いんです。

ジャニスのように、物事をハッキリ言う事もできないし、優柔不断なんですよ・・・団長というのは、魔力だけで務まるとは思えません。だから、他に心の強い人を見つけてください」


つい下を向き、自信の無さを口にする。

俺は自分の魔力が高い事は自覚している。おそらく、王子を除けば、師匠とジャニスと俺の三人が、この国で最も強い魔力の持ち主だろう。


だけど、俺は自分の心の弱さも自覚しているつもりだ。

ロビンさんに話したように、ハッキリしない優柔不断な性格のせいで、いつもジャニスに背中を叩いてもらっている。

俺では、肝心な時にみんなを引っ張っていけないだろう。



ふいに両肩に重みを感じ、前を向くと、ロビンさんが俺の肩に手を置き、優しく笑みを浮かべていた。


「ウィッカー、俺はお前の心が弱いなんて思った事は一度も無いぞ。

それでも、もし、お前が自分を弱いと思うんなら、弱いリーダーになればいいじゃないか?」



「・・・弱い、リーダー・・・ですか?」


言葉の意味が理解できずに、ロビンさんの言葉をそのまま口にすると、ロビンさんは力強く頷いた。


「そうだ!俺を見本にしなくていいんだ。お前にはお前の良さがある。自分の気持ちが弱いと思うのなら、周りに助けてもらえばいいんだよ。お前一人で人を引っ張らなくていいんだ。周りがお前を認めれば、自然とフォローしてくれるもんなんだよ。俺は、お前はそういうリーダーかなと思っている」



「う~ん、私もそう思うな。ウィッカーって、なんかほっとけないんだよね?

つい、助けてあげなきゃってとこあるんだよ。でも、いざって時には、すごい根性見せるから、ロビンさんの言う、弱いリーダーってのは、なんだかピッタリに思えるな」


二人の言葉に、俺は少し胸が熱くなった。こんなにストレートに褒められると、なんて言葉を返していいのか分からず、つい口ごもってしまう。


そんな俺を見て、師匠も背中を軽く叩いてきた。


「ウィッカー、お前は自分で思うておるより、ずっと強い人間じゃよ。きっと、どんな困難があっても負けずに立ち向かってゆける。もう少し、自信を持て」


師匠も、ジャニスも、ロビンさんも、みんなが俺を見ている。その表情はとても温かく、俺に力をくれるようだった。


みんなの顔を見ていると、俺でもやれそうなそんな気持ちになってくる。


俺は一人一人、みんなの顔をちゃんと見て、しっかり返事を返した。


「いきなりは難しいかもしれないけど・・・もっと、自信をもってやっていこうと思います。

ジャニスには、いつも助けられてばかりだから、本当にしっかりしないとな。師匠、ロビンさん、これからもよろしくお願いします。」


俺の言葉を聞いて、みんな満足そうに頷いた。


そうだな・・・俺はロビンさんみたく、人を強く引っ張っていく事はできない。

師匠のように、適格な指示が出せるわけでもない。

ジャニスみたく、物事をハッキリ言って行動を促すタイプでもない。



弱いリーダーか・・・


言葉だけ聞くと、頼りない印象だけど、ロビンさんの言葉が頭に強く残った。


自分一人で人を引っ張らなくていい・・・

認めてもらえれば、自然と周りがフォローしてくれる、か・・・


俺がリーダーなんて立場に立てるとは思えないけど、もしそういう日が来たら、俺は弱いリーダーになろうと思う。


俺はきっと、一人では何もできない


だから人に助けてもらう事ばかりだろう


でも、俺にはこの魔力があるから


だから、助けてもらった分、みんなを護りたいと思う



「お?ちょっと良い顔になったんじゃない?」

俺の顔を覗き見て、ジャニスがからかうような目を向けてきた。

心の中の、俺なりの決心が見透かされたようで、少し恥ずかしくなる。


「まぁ、頑張ってみるよ」


ジャニスの視線を受け止め言葉を返すと、ジャニスは少し意外そうな顔をした。


「・・・ふ~ん、いいんじゃない?」


どうにでも取れそうな言葉だったけど、その口調は柔らかく、なんだか認めてもらったような気持ちになった。




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