1349 シャンテル・ガードナーの本心
何度も止めたいと思いました。
何度も逃げ出したいと思いました。
白魔法使いとは、傷ついた人を癒す事が仕事です。人に優しく、人を助け、人を愛する。
それが白魔法使いのあるべき姿であり、私は自分が白魔法使いである事を、誇りに思ってました。
ですがあの日から全てが変わりました。
自分の魔力に突然変異が起こったのです。
それは外から向けられる敵意に死を与えるという、想像すらできなかった恐ろしいものでした。
それが分かってからの毎日は、辛く苦しいものでした。
どれだけ涙を流したでしょう。眠れない日々が続きました。
なぜ私が?私はただ一人でも多くの人を助けたいだけのなのに・・・・・
皇帝に私の力を知られてからは、私は皇帝の意のままに操られる人形になりました。
皇帝にとって私の力は、都合の良いものであったからです。
前皇帝のローレンス・ライアンが崩御されたばかりで、次期皇帝にはローレンスの長男である皇太子が就く事が有力視されていました。
しかしローレンスが不慮の死を遂げた事を始まりに、次々とローレンス・ライアンの血族が不可解な死を遂げるのです。こうも連続してローレンスの血族だけが死ぬなどおかしいと騒がれもしましたが、遺体には外傷も無く、毒物を使われた形跡も無かったため、結局は原因不明の死として扱われました。
その全てに私が関わっていたのですが、当時は限られた人間しか私の能力を知らなかったため、私が疑われる事はありませんでした。殺害方法は簡単です。隠れる必要もありません。
標的に正面から堂々と、暴言でもぶつければいいのです。
無礼な行いを一つすれば彼らは当然怒り、敵意を向けて来ます。
・・・私にとっては、それだけで事が済むのですから。
そしてローレンスの血を引く一族が絶やされた時、空位の皇帝の座には、当時帝国軍の最高司令官だったダスドリアン・ブルーナーが就く事になったのです。
あまりにもダスドリアンに都合良く事が進んだだけに、まだ前皇帝派だった貴族からは不平不満の声が上がらなかったわけではありません。ですがそれも大きく広がる事はありませんでした。
彼らも理解はしているからです。もしダスドリアンに異を唱えれば、次は自分が亡き者にされるのだと。
手段は分からずとも、ダスドリアンの手によって、前皇帝の一族は葬られた事は疑いようがありませんでしたから。
それから今日まで、私は皇帝にとって都合の悪い人間の命を奪い続けました。
そしていつからか、皇帝の裏で私が暗躍しているという噂が流れ始めると、国民の私に向ける眼差しも変わってきました。
そうしてついた呼び名が、帝国で最も人を殺した女です・・・・・・
何度も遠くへ逃げようと考えました。
けれど私が逃げれば、白魔法兵団のみんなは・・・・・
皇帝は白魔法兵団を人質に取っています。
魔法兵団は帝国の軍事力であり、皇帝を護る戦力とも言えます。
それを人質になんておかしな話しですが、ダスドリアン・ブルーナーでしたらやるでしょう。
もちろん全員を処刑するような事はしないでしょうが、見せしめに数十人くらいでしたら殺める事をいとわないはずです。ダスドリアンがそれだけの残虐性を持っている事は、私は十分に知っています。
だから私は今日まで自分の心を殺して生きて来ました。
大好きな白魔法兵団のみんなを護るためなら、私はもう皇帝の操り人形でいい。
それに帝国の大陸統一が叶った暁には、もう戦争もしなくていい世界になるはずです。
そうなれば、私もこの悪夢から抜け出す事ができるかもしれません。
そんな望みを持っていました。
でも、クインズベリーとの戦いの中で、私の心にある変化が起きました。
彼らは強かった。フラナガン、ガルバン、ヴァネッサ、そしてカカーチェ叔父様まで倒され、私達第六師団は劣勢に立たされました。
追い詰められていく中で、私はこう思いました。
クインズベリーなら、帝国を・・・皇帝ダスドリアン・ブルーナーを倒せるかもしれない。
もう戦争はしたくない。誰の命も奪いたくない。そのためにはどうすればいい・・・・・
私の行動は裏切りでしょう。
でも、私の心はもうこの重圧に耐えられないのです。
「カチュアさんと言いましたね、どうか私を殺してください」
私は彼女の最愛の夫を、大切な仲間の命を危険に晒している。
憎んでも憎み切れないはずなのに、この女性は私を憎むどころか、私を気遣う優しささえ持っている。
その優しが本心なのは、私の魔力に触れても命を奪われない事で証明されている。
この人なら・・・・・
この人なら、私を殺す事ができるかもしれない。




