表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1343/1573

1343 奪われた意思

「クインズベリーだ!クインズベリー軍が攻めて来たぞーーーーーーーッツ!」


円で囲む帝国軍の後方から声が上がったのは、前方の黒魔法使い達がラクエルに魔法を撃った直後だった。

即座に反応した帝国兵の目には、何千何万ものクインズベリー軍が突撃をかけて来る姿だった。


シルヴィアの竜氷縛が作った氷の道を渡り、先発したアラタ達が帝国の攻撃を止めた事で、クインズベリー軍はユナニマス大川を渡る事ができたのだ。


そして上陸したクインズベリー軍は、全軍をぶつけるのみである。

さながら押し寄せる大波の如き勢いのクインズベリー軍だったが、帝国軍も数では負けていない。


ガルバンとヴァネッサ、そして副団長のアーロン・カカーチェを失った帝国軍だが、それを補うため、各部隊の隊長クラスが指揮を執り号令を出す。


「怯むな!体力型を前に黒魔法兵は援護射撃だ!クインズベリーを叩き潰せ!」


武器を持ち構えた帝国の兵達は、部隊長の指示で即座に隊列を揃えると、クインズベリー軍に真っ向からぶつかって行った!




「・・・クインズベリー・・・ユナニマス大川を渡って来たのですね」


「シャンテル、危ないよ、こっちへ」


両軍のぶつかり合いが始まると、宝飾をあしらった煌びやかな鎧で身を包んだ、精悍な顔つきの男がシャンテル・ガードナーに近づき、その肩に手を乗せ後方に下がるように促した。


「・・・ノーマン・・・あなたですね?」


シャンテルは自分の肩に置かれたノーマンの手をそっと払うと、視線を上げて咎めるようにノーマンを見た。


「え?何の事だい?」


「なぜ、黒魔法使い達に撃たせたのですか?私は指示を出していません。師団長の私を差し置いてこんな勝手な真似ができるのは、皇帝の甥であるノーマン・ブルーナー、あなただけです」


スっと視線を向けた先には、濛々と上がる土煙が映った。今しがた黒魔法使い達が一斉射撃を行った跡だ。標的は金髪の女戦士ラクエル・エンリケス。足を痛めていたラクエルには、四方八方から撃ち込まれた攻撃魔法を躱す術はなかった。


「あ~、バレちゃった?でもさぁ、キミを護るためなんだよ?あんな近い距離で敵と向き合って、殺されてたかもしれないじゃないか?僕はキミのために魔法兵に指示を出したんだ。感謝してくれてもいいんじゃないかい?」


軽薄そうに笑うノーマンに、シャンテルは非難するように口調を強めた。


「私を護る?今までずっと後ろに隠れていたあなたが?ガルバンもヴァネッサも、カカーチェ叔父様も、みんなが命を賭して戦っていたのに、あなたは安全なところから指示を出しただけ。それで私に感謝しろと言うのですか?それに私の能力は知っているでしょう?この魔力がある限り、私の命を脅かせるものなんて何もありません」


そこまで一気に責め立てると、それまでヘラヘラと笑っていたノーマンの顔が凍り付いたように固まった。そして・・・・・


「・・・ひどいな、シャンテル。それが婚約者に言う言葉かい?僕は皇帝の甥なんだ、崇高な血を持つ僕にもしもの事があったら大変だろ?そういうところ、婚約者なら気遣ってほしいな」


「・・・あなたのそういうところが嫌いです。私は、彼女ともう少し話してみたかった・・・」


「キミもそろそろ受け入れたらどうだい?僕とキミの婚約は皇帝の決めた事だ。逆らえばどうなるか分かるだろ?キミはよくてもキミの大事な白魔法兵団はどうなるのかな?賢いキミならどうすればいいか分かるだろ?」


「・・・あなた、最低です」


「おやおや、キミがそれを言うのかい?」


互いの視線が交差する。しかし嫌悪感を隠しもせずにぶつけるシャンテルに対し、ノーマンの目には立場的優位を見せる嘲笑が浮かんでいた。


「・・・まぁ、済んだ事はもういいじゃないか?それよりも・・・え?」


フッと鼻で笑いシャンテルから目を反らしたノーマンだったが、反らした先で目に映ったものに、驚きをあらわにした。


「・・・結界?どうやって・・・?」


「ノーマン?どうしたのですか・・・っ!?」


表情をこわばらせたノーマンを見て、シャンテルもその視線を追った。


無数に撃ち込まれた攻撃魔法、それによって起きた爆発による煙が風に流されると、青く輝く結界に護られたラクエルの姿が見えた。



「・・・あなた、体力型ですよね?」


結解の中のラクエルに、その問いかけが聞こえたかは分からない。

しかし結界の中で、してやったりと歯を見せて笑っているラクエルの反応を見る限り、彼女がこの結界を張ったという事で間違いはなさそうだ。

いつの間に持っていたのか、左手に握っている小さな銀板を見せつけるように前に出した。


「なんだアレ?・・・結界を作る魔道具?大障壁だいしょうへきか?」


「いえ、大障壁ではないようです。形は似ていますが結界の規模が小さいですね。おそらく使い捨ての魔道具です。体力型が使える魔道具は限られていますから。敵ながら用意周到ですね」


眉をひそめるノーマンに、シャンテルは冷静に分析した答えを提示した。

そしてその分析が合っていると教えるように、ラクエルを包み込み護っていた結界が、バラバラと崩れて消えた。


「一度だけ結界を張れる魔道具、魔障板ましょうばん。これがなかったらヤバかったかな・・・」


効力を失った銀版を砂の上に放ると、ラクエルは右手に握る白い刃のナイフを、シャンテルではなく、その隣に立つノーマンに差し向けた。


「・・・女、僕にナイフを向ける事がどういう意味か分かっているのか?僕はノーマン・ブルーナー、皇帝の甥だぞ?」


「だからなに?聞こえてたよ、アタシに魔法ぶっ放したのアンタの指示だってね?」


やや前傾姿勢になって左足に力を込める。

利き足ではないが、それでもラクエルのスピードなら、一瞬で距離を詰める事が可能である。


「・・・シャンテル、あの女を殺せ。僕に殺意を向けるなんて許せない」


「・・・・・」


「シャンテル、返事はどうした?立場を分かっているのか?」


僅かな迷いを見せたシャンテルに、ノーマンが苛立ちを見せる。

事実上、仲間を人質に取られているようなものなのだ。シャンテルの答えは一つしかなかった。


「・・・分かりました」



できる事ならこのクインズベリーの女性と、もっと話してみたかった。

さっき手を差し伸べられた時、ほんの少しだけ夢を見てしまった。もしあの手を取っていたら・・・・・


いえ、今更ですね・・・・・・・



私は帝国で最も多くの人を殺した女。帝国の大陸統一のために心は捨てたのです。



「死が怖くないのなら、どうぞ向かって来てください」



シャンテル・ガードナーは、ラクエルを殺す覚悟を固めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ