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1342 説得

「生かすも殺すもあんた次第って事?そりゃすごいね、無敵じゃん?だったらあんたが皇帝にでもなればいいんじゃない?」


シャンテルの両手の平の上で揺れる三つの青い炎を見つめながら、ラクエルはゆっくりと体を起こした。


体は気怠く、足にも腕にも力は入らない。その上右足を痛めている。今自分を取り囲んでいる帝国兵に襲い掛かられたら、斬り抜ける事はできないだろう。


命を奪うシャンテルの魔力に触れかけた。

そう、ラクエルはシャンテルの魔力に触れる寸で躱したのだ。触れたわけではない。

しかしそれでもここまで疲弊させられた。魔力に触れたアラタ達三人が、命を奪われた事も合点のいく話しだった。


「・・・そう単純な話しではないのです。政治とは複雑な事情が絡みあって成り立っているものですから」


「はぁ、複雑な事情ねぇ・・・アタシはさ、難しい事はあんま考えないようにしてんだよね。自分が気に入ったヤツとは仲良くするし、気に入らなかったらバイバイ。戦いたいと思ったら戦うし、気が乗らなけりゃ戦わない」


額に滲む汗を袖で拭うと、ラクエルは一つ大きな息をついて話しだした。

突然の自分語りに、シャンテルは怪訝な表情を見せる。


「・・・何が言いたいのですか?」


「あんたが今持ってる三人の魂なんだけどさ、別にアタシはそいつらと仲が良いってわけじゃないんだよね。フェリックスはそもそも名前くらいしか知らないし、アラタとも別にあんま話さない。ジャレットは変なアダ名付けてくるし、けっこうウザいんだよね」


シャンテルにはラクエルが何を言いたのか、まるで理解できなかった。

しかし首を傾げるシャンテルを他所に話し続けるため、シャンテルは黙って耳を傾けた。


「でもさぁ、女連中はけっこう気に入ってるんだ。カチュアは優しくてめっちゃ良い子だし、シルヴィアは世話焼きって言うか面倒見が良いんだよね。アタシの事も早くみんなと馴染めるようにって、気にかけてくれてんのよく分かるし。それでルナはまだあんま話してないんだけど、あの子は健気で一生懸命だよ。色々事情は聞いたけど、応援したくなるよね」


「・・・つまり、何が言いたいのですか?」


一向に話しの全容が見えて来ず、シャンテルの声に険が含まれる。

するとラクエルは顔を正面に向けて、シャンテルの目をまっすぐに見た。


「・・・つまりさ、カチュアはアラタの奥さんで、シルヴィアはジャレットと付き合ってんの。ルナはフェリックスと良い感じみたいなんだよね。だからそいつら三人になんかあったら、みんな泣くと思うんだよね」


「・・・あなた、何を言ってるんですか?」


「仲間の泣き顔って見たくないじゃん?あんたは違う?なんかずいぶん人を殺してるみたいだけど、それって自分の意思?なんかあんたってさ、めっちゃ無理してるように見えるんだよね」


「・・・・・そんな、事・・・」


すぐに否定できなかった事が、全てを物語っていた。

歯切れが悪く、自分から視線を逸らしたシャンテルを見て、ラクエルは自分の考えが合っている事を確信した。


「ねぇ、あんたにも色々あんのは分かるよ。でもさ、誰かの道具になって、やりたくもない人殺しをしてるんなら、勇気を持って離れる事も考えたらどう?」


「・・・わ、私は・・・」



シャンテルの心に迷いが生じた。

いや、元々が争う事を苦手とし、万人を愛する心を持っていたシャンテルは、最初から迷いがあり無理をしていたのだ。

国民のため、仲間達のためにと、壊れそうな心をいくつもの殻で覆い、望まぬ行為を無心で行える鉄の仮面を付けていたにすぎない。


誰もシャンテルを止めなかった。

シャンテルに恩義のあるヴァネッサは、シャンテルの傷ついた心を理解し、寄り添い支えになろうとした。しかしシャンテルを諭し、逃がそうとした事はなかった。



「別に逃げたってよくない?戦うの嫌なんでしょ?」



「私・・・・・」



初めて自分に逃げろと言ってくれたのは、戦うべきクインズベリーの女戦士だった。



ここでラクエルの差し伸べた手を握っていれば、その後のシャンテルガードナーの歩む道は全く違うものになっていただろう。


だがそうはならなかった。



なぜならシャンテルの命令を待たずして、取り囲んでいる黒魔法兵達が、一斉にラクエルに向けて攻撃魔法を撃ち放ったからだ。


四方八方から撃たれた爆裂弾、火球、ウインドカッター、刺氷弾を、片足を負傷しているラクエルに躱せる術もなく直撃し爆ぜた。


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