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【134 髪】

翌日、朝食を済ませると、俺とジャニス、師匠の3人は、一階の広間で、膝丈まである深い緑色のマントを羽織り、城へ向かうための準備を行った。


このマントは、風のマントと呼ばれており、風の精霊の加護を受けている。

僅かだが魔力が増幅するので、カエストゥス国の魔法使いは全員これを着用している。



「ウィッカー、ちょっと髪が引っかかったみたい、見てくれない?」


ジャニスは、明るい栗色の髪を一本結びにして肩へ流している。

マントを羽織った際に、首元でなにかに引っかかったらしい。


「あぁ、どれ・・・・あ、これか?一度留め具外すぞ」


首元のマントの留め具に、髪が引っかかっているように見えたので、俺は一度首元の留め具を外して、引っかかった髪を取り、再度留め具を戻した。


「ほら、どうだ?」


「ん・・・大丈夫だね。ありがと、ウィッカー」

首の後ろを撫でながら、ジャニスはニコリと笑った。



「ウィッカーさまぁ~・・・・・」



背中から恨めしい声で名前を呼ばれ、振り返ると、メアリーが悲し気に眉尻を下げ、俺を見つめて立っていた。


「メ、メアリー・・・ど、どうした?」


「ウィッカー様、酷いです・・・私の髪は撫でてくれませんのに、ジャニス様の髪は撫でるのですか?」


「え?いや、だってこれは、ジャニスの髪が引っかかったから・・・」


「私の髪は・・・撫でてくれませんのに・・・」


メアリーの表情はどんどん曇り、ついに目に涙が浮かんで来た。



「あーっ!ウィッカー兄ちゃんがぁー!またメアリーちゃんをいじめてるー!みんな集まれー!」


子供達用の大部屋で遊んでいたトロワが、タイミング悪く部屋から出て来ると、俺の前で俯いているメアリーを目にし、大部屋に残っている子供達に向かって声を張り上げた。


「お、おい!トロワ、誤解だ!ちょっと待てって!」


俺の声をかき消すように、地鳴り様な足音を響かせ、子供達が一斉に集まって来ると、トロワが代表するように中心に立ち、俺に指を突き付ける。


「ウィッカー兄ちゃん!なんでいっつもメアリーちゃんをいじめんだよ!本当にいいかげんにしろよ!許さねぇぞ!」


「だから!誤解だって!」


「みんな、いいんです。私がわがままを言ってしまったのが悪いんです・・・」


メアリーが両手いっぱいに子供達を抱きしめると、子供達の俺への怒りが頂点に達し、謝れコールが響き渡った。


「ウィッカー兄ちゃん謝れー!」

「女の子泣かせちゃ駄目!」

「もう遊んであげないから!」

「ごめんなさいでしょ!」


子供達の叫び声に、師匠とジャニスも耳を塞ぎながら、俺に非難の目を向けて来る。


「おい、ウィッカー!早くメアリーに謝らんか!」


「ウィッカー、あんたが髪を撫でればすむ事でしょ!早くしなさいよ!」


「分かった!俺が悪かった!ごめん!だからちょっと黙って!」


俺が声を上げ謝ると、トロワが両手を左右に伸ばし、子供達に制止の合図を送る。

その瞬間、子供達は一斉に口をつぐむのだから驚きだ。本当に、この統率力はなんだ?


トロワは腕を組んだまま、吊り上がった目で俺を睨みつけている。

もたもたしていると、また騒ぎ出すので、俺はすぐにメアリーに近寄り声をかけた。



「メアリー、悪かった。頼むから泣かないでくれ。どうしたらいい?」


「・・・・・・私も髪を撫でてほしいです」


俺に背を向け、しゃがんで俯いているメアリーの肩に手を置くと、メアリーは俯いたまま小さな声で返事を返してきた。


ジャニスの事も、ただ引っかかった髪を解いただけなのだが、どうやらその言い訳では納得してくれそうもない。

子供達は小声で、メアリーちゃん可哀想、ウィッカー兄ちゃんは酷い、など好き勝手に言っている。


師匠は普段から、弱い者いじめはしてはならない。

男の子は女の子より力が強いのだから、守ってあげる事。と、とても良い教えをしてきた事が、ここで最大限に発揮されているようだ。

特に俺はもう大人だから、子供達も過剰なくらいの反応を見せている。


師匠も、自分でそう教えてきたにしても、まさか、ここまで騒ぐとは思っていなかっただろう。

本当に驚いた顔をしている。


ジャニスに目を向けると、さっさと撫でなさいと、手を振って俺を急かして来る。



「分かった。じゃあ、メアリー撫でさせてもらうよ」

「はい!お願いします!」


俺が言うなり、メアリーは驚きの変わり身の早さで振り返ったかと思うと、そのまま俺の胸に飛び込み、両手を背中に回し力いっぱいに抱き着いて来た。


「え!?ちょっ、メアリー!?」

「ウィッカー様、どうぞお気のすむまで」


予想外の出来事に顔が赤くなる。俺が慌てていると、ヤヨイさんとキャロルが、スージーとチコリと抱っこして、散歩から帰って来た。



「ただいまーって・・・あ、ごめんウィッカー兄さん、おじゃまだったかな?」


メアリーが俺に抱き着いているところを見て、キャロルが目をパチパチと瞬かせながら、真顔で謝ってきた。


「ウィッカーさん、私達、もうちょっとお散歩してきますね」


ヤヨイさんは、俺に会釈えしゃくをすると、腕の中で上機嫌に笑っているスージーに、もう少しお外歩きましょうね~、と言葉をかけ、あやしながらキャロルと2度目の散歩に行ってしまった。



「ウィッカー様、どうぞご遠慮なさらずに」


メアリーは全く周りを気にせずに、より腕に力を入れて来る。


ジャニスは早く撫でろと、身振り手振りで急かしてくる。

師匠は、なにやら微笑ましいものを見る目を向けて来る。


その後、俺はメアリーの気がすむまで髪を撫でる事になった。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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