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1339 抗えない力

「ふふふ・・・白魔法使いとして、沢山の人達を癒してあげたい。 その想いを胸に抱いて生きて来た私が、どうしてこんな呪われた魔力になってしまったのか・・・・・結局原因が分からないまま今日まで七年もの月日を生きて来ました。この七年間、私がどのような生きて来たか分かりますか?帝国で最も気高き女性と呼ばれた私が、帝国で最も人を殺した女、いつしかそう呼ばれるようになったのです。だいたい想像はつきますよね?」


シャンテル・ガードナーは倒れ伏すアラタの隣に膝を曲げてしゃがむと、自分の能力とその半生について話した。


「う・・・ぐ・・・」


「・・・・・前皇帝ローレンス・ライアンが崩御されてから、継承権を持つお世継ぎ、そしてご親族の方々が全員不慮の死を遂げた事を聞いた事はありますか?・・・ふふふ、現在皇帝となられたダスドリアン・ブルーナー様は恐ろしい方です。ヴァネッサや白魔法兵団のみんなの事を考えれば、私は皇帝の言いなりになるしかありませんでした」



口元には小さく笑みを作りながら、その目には透明な雫が浮かんでいる。


「ぐぅ・・・ぅ・・・・・」


・・・ま、涙?こいつ・・・この目、この表情は・・・悲しみ?


砂の中に顔を半分埋まらせた状態のアラタだが、シャンテル・ガードナーが傍らで腰を下ろしているため、かろうじてその顔を目に映す事はできた。


アラタは困惑していた。


シャンテル・ガードナーはフェリックスをあっさりと倒した。そして自分も何もできずに倒されてしまった。その気になれば、今すぐにでも自分を殺す事ができる。なぜそうしないのか?


ここまでの戦いを見ていたのなら、自分とフェリックスが帝国に相当な打撃を与えた事は分かったはず。

自分達はすぐにでも始末すべき敵であるはずなのに、そんな相手に突然身上を語り始めたのだから、疑問に思うなと言う方が無理な話しだった。


しかしシャンテルの話しには、嘘偽りの無い気持ちがあった。

ただ、多くの人を助けたい。平和な世界であってほしい。その心が痛い程伝わってきた。


だからこそアラタは、どうすればいいのか分からなくなった。


敵として憎めばいいのか?

それともこの女も被害者だと同情すべきなのか?



「隠しきるなんて無理だったんです。私の能力を知ったダスドリアン・ブルーナーは、あらゆる手を使って私を従えました。あなたに分かりますか?本当は助けたいのに・・・人の命を奪う事なんてしたくないのに・・・友人を、仲間の命を護るために、私は大勢の国民を犠牲にしてきたのです。どんなに言い訳をしても、決断したのは私・・・誰のせいにもできないんです」



分からない・・・なんでこの女は、こんなに悲しそうな顔をしているんだ?

本当に・・・本当に平和を願っているというのか?戦争をしかけた側の人間が?


だったら・・・

もし、本当にこの女が平和を願っているとしたら・・・・・



「だったら・・・お前、が・・・本当に、平和を、願って・・・いる、のなら・・・退け・・・」


体中の力が抜け落ちて、起き上がる事はおろか、指一本動かす事ができない。

だが歯を食いしばり僅かながらでも頭を動かして睨みつけると、シャンテル・ガードナーの青い瞳と視線が交差した。


シャンテル・ガードナーは、俺から目を反らす事はしなかった。

ただ悲し気な表情で俺の目をじっと見つめ、そして小さく首を横に振った。


「・・・あなたはお優しい人のようなので、つい話し過ぎてしまったようです・・・・・私の気持ちに嘘はありません。全ての命を大切にしたいと思っていますし、平和を願ってます。ですがそのためには、帝国の大陸統一が絶対条件なのです。私はそのために沢山の人を殺めてきました。もう後戻りはできません」


「ぐ、うぅ・・・口だけ、かよ・・・人を殺した上に、平和なんて、ねぇ!」


「・・・あなたは本当にお優しいですね。そしてとても真っすぐです。私にはそれがとても羨ましい・・・・・」


瞳を閉じて悲し気に笑うと、シャンテル・ガードナーはアラタの背中に右手を乗せた。



「謝罪はしません。せめて安らかにお眠りください」



シャンテル・ガードナーの右手が淡い光を発し、アラタの全身を包み込んだ。


「あ・・・ぐ・・・・・」


「抗わないでください。苦しむだけです。受け入れれば安らかに・・・・・」



絶対に生きて帰る。その一心でここまで耐えていたアラタだが、精神力ではどうにもならない強大な力に体の力を奪われていく。


「う・・・あぁ・・」


どこまでも深い闇の中に落ちていくようなこの感覚は、かつて味わった事がある。


そうだ・・・マルコス・ゴンサレスと戦い破れたあの時、一度死の淵に沈んだあの時にもここに落ちた事がある。


これは・・・・・死だ・・・・・




「おやすみなさい」


「俺の後輩に何しやがんだコラァァァーーーーーーーーーッツ!」



ふいに背後からぶつけられた怒声に振り返ると、銀色に輝く闘気の剣を振りかぶったレイジェスの戦士が、シャンテル・ガードナーに斬りかかった!


「・・・・・」


眼前に刃が迫っているのに、シャンテルの顔には焦りなど微塵もなかった。



ジャレットはためらいもなくシャンテルの頭に剣を降り下ろした!

女性だからと拳を引いたアラタとは明確に違う。

この世界で生まれ育ったジャレットは、日本育ちのアラタとは命の価値観が明確に違い、戦う相手が女性だからと言って引く事はしない。

しかも今は戦争中なのだ。目の前の相手の性別など気にかける必要も理由もない。

敵は斬る。それだけなのだ。


そして白魔法使いに、ジャレットの剣を防ぐ手段などありはしない。

ただしそれは、シャンテル・ガードナー以外だったならばの話しである。



「うぐぁッ!」


ジャレットのオーラブレードがシャンテルの髪に触れたその時、ジャレットは突然心臓に走った鋭い痛みに、剣を手放し崩れ落ちた。


「な、ぐうぁッ!・・・あ、がぁ・・・ッ」


胸を押さえて悶え苦しむジャレットを、シャンテルは一瞥して悲し気に呟いた。



「向かってこなければ苦しまなくてすんだのに・・・今楽にしてあげますからね」


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