1338 シャンテル・ガードナーの信念と苦悩 ③
「・・・敵意、ですか?」
「うむ、正確には負の感情と言うべきか。怒りや憎しみはもちろん、嫉妬なども含まれるじゃろう」
「そんな事が・・・・・」
「シャンテルよ、にわかには信じがたいじゃろう。ワシだって最初は馬鹿げた事をと吐き捨てた。じゃがな、お主の魔力の流れを徹底的に分析し、これまで起きた事を一つ一つ検証した結果、これしか考えられんのじゃ」
バーツさんが息を引き取った後、私はカカーチェ叔父様の元に走り、全てを話しました。
私はよほど取り乱していたのでしょう。
話している間も涙はどんどん溢れてくるし、体の震えも止まりません。冷静に伝えられた事は何一つなく、涙ながらに必死に自己弁護をしたという感じです。
それだけ私はショックでした。
突然目の前で首を掻きむしって死んだだなんて、普通は信じられない話しです。
そして床の上に倒れて、白目を剥いて事切れたバーツさんの顔が頭から離れないし、もしかしたら私が毒でも使って殺害したのでは?そう疑われるかもしれません。
悪い考えばかりが頭を駆け巡り、頭の中はぐちゃぐちゃでした。
それでもなんとか話しを終えると、カカーチェ叔父様はそのまま私を施設で受け入れてくれました。
このまま一人で帰すのは危ないと判断したのだと思います。
それから一か月程経ち、今日ついに私に何が起きているのか判明したのです。
今日この日まで本当に長かった。でもやっと原因が分かる。原因さえ分かれば解決できる方法もあるはず。私は希望の光を見た心持ちでした。
しかしその答えは、全く想像もしていないものでした。
「で、では!私の治療で亡くなった三人は、みんな私に敵意、悪い感情を持っていたと言うのですか!?」
荒唐無稽としか言いようのない叔父様の説明に、私はつい声が大きくなってしまいました。
はいそうですか、と受け入れられるものではありません。
なぜ私に悪い感情を持った人の治療をすると、その人の命が奪われる事になるのでしょうか?
そんな事例は前代未聞で、到底ありえるものではないのです。
「最初に死んだ老人、あれは以前からお前に邪な感情を持っていたそうだ」
「・・・え?」
「今回亡くなった三人の事は、徹底的に調査した。お前のヒールが原因なのか、それとも元から体に持病でも抱えていたのか、色々確認せねばならんからな。その調査であの老人の自宅にも入ったのだがな、シャンテル、お前の行動記録やら趣味嗜好、色々細かく書かれたノートが何冊も出て来た」
「・・・・・え、あの・・・・・ 」
カカーチェ叔父様が何を言っているのか、すぐには脳が受け入れられず、言葉を失い呆然としてしまいました。
どう言葉を返せばいいのでしょうか?私の行動記録?趣味?嗜好?そんなものを調べられていたのですか?いったいいつの間に・・・そう言われてみると、あのお爺さんの顔をハッキリ覚えてるわけではありませんが、どこかで見た事があるような気はしました。
これまでも何度か、治療をした事があったのかもしれません。
「・・・やはり、ショックじゃろう?これ以上はお前の負担が大きいから言わんが、あの老人はお前に邪な気持ちを持っておった。それもずいぶん歪んだ形でな。これが一人目じゃ。そして次の男じゃが、こいつはワシがお前に自信を取り戻させるために治療させた男で、腰を怪我した中年の男じゃったな」
話し始めからショックを受けてしまい、私はカカーチェ叔父様の話しに返事もできませんでした。
言葉は聞こえますし、話す内容も頭には入ってきます。けれどとても受け止められず、私はただ、困惑する頭と心を整理し落ち着かせようとする事で、精いっぱいでした。
カカーチェ叔父様はそんな私を見て、少し休むか?と気遣ってくれましたが、私は首を横に振りました。
聞きたくない、けれど聞きたい。矛盾してますが、自分に起きているこの現象を、早くなんとかしなくてはなりません。だからどんなに嫌で辛くても、私は最後まで聞かなくてはならないのです。
分かった、そう短く答えて、カカーチェ叔父様はゆっくりと話しを続けました。
「その二人目の中年男だがな、こやつはお前に恨みをもっておったようじゃ」
恨み?なぜ?私があの人にいったい何を?
驚いて顔を上げると、カカーチェ叔父様が私の心中を察したように、一度頷きました。
「分かっておる。お前の疑問は当然じゃ、お前は誰よりも患者に向き合い、患者に寄り添い、患者の心を第一に考えておる。それは白魔法兵団の誰もが認めておる。じゃが、こちらが良かれと思ってした事、人として当然の行動をしたつもりでも、それが理解されず、あまつさえ遺恨を残す結果になる事もあるのじゃ。シャンテル、あの男はな、治療の順番を変えられた事を恨んでおったようじゃ」
「・・・治療の順番、ですか?」
「ああ・・・これにはワシも首を傾げたわい。部下が聞いていたらしいんじゃが、なんでもあの男、以前自分の治療の順番が来た時に、一刻を争う重体者が運ばれて来て、待たされた事があったらしいんじゃ。その時の事をずいぶん根に持っているそうでな。それ以来、お前の悪口をよく口にしておるそうじゃ。まぁ、誰も相手にせんし、一人でぶつぶつ言ってる事が多いようじゃから、お前の耳にまでは聞こえんかったようじゃがな」
驚きのあまり声が出ませんでした・・・・・
思い当たる事はありました。確かに以前、そういう事がありました。
ですが、重傷者を優先するのは当然の事ではないでしょうか?
打ち身、捻挫、そのくらいと言うのはいけない事かもしれませんが、すぐに治療しなければ命に関わる患者を後回しになんてできません。
「シャンテル、お前の考えている通りじゃ。重傷者を優先をするのは当然じゃ。だがさっきも言った通り、ワシらの常識が通じん人間もおるという事じゃ。あの男はお前を恨み、敵意を持っていた」
「そんな・・・そんな、事で・・・・・」
「そして三人目、最後のあの男だが・・・今更確認する必要もないが、お前に一方的で歪んだ愛情を押しつけた。分かったか?三人それぞれがお前に対して負の感情を持っていたんじゃ」
三人目、バーツさん・・・思い出したくもありませんが、あの方の歪んだ黒い恋愛感情は、恐怖しか感じませんでした。
カカーチェ叔父様の言葉通りなら、三人が三人とも私に負の感情を持っていて、そしてそれが原因で命を失ったという事になります。
「シャンテル、結論を言おう。お前に負の感情を持った者が、お前の魔力に触れた時・・・その者は死ぬ。ある種の防御能力とでも見るべきか、お前の魔力はそういう魔力に変質しておるんじゃ」




