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1336 シャンテル・ガードナーの信念と苦悩 ①

帝国で最も人を殺した女、それが私シャンテル・ガードナーの通り名です。


生まれつき強い魔力を持っていた私は、年齢が十を数える頃には内臓の損傷を治療する事も、首の骨を折った患者を、後遺症無しで完治させる事もできました。

その治癒力は成長するにつれて更に高まっていき、帝国始まって以来の天才と謳われるまでになりました。


今の私は呼吸が止まってさえいなければ、どんな状態であろうと治療する事ができます。

私のこの白魔法の力は、かつて存在したカエストゥス国、そこで史上最高の白魔法使いと称された、ジャニス・コルバートにも匹敵すると言われております。


私はこの力で一人でも多くの人を助けたい。

その気持ちを信念として、白魔法使いとして働きました。




私が二十歳の誕生日を迎える頃には、私は帝国で最も気高き女性と称されるようになりました。

自分の名誉など気にした事はありませんが、人々から感謝の言葉をいただくとやはり嬉しい気持ちになります。

私はこれからも人を助けるために生きていこう。そう心に誓いました。


しかしそれからほどなくして、私の力に大きな変化・・・・・そう、悪しき淀みが生まれたのです。



私はあの日の事を一日だって忘れた事はありません。


とても天気が良く、風の気持ち良い春の日の午後でした。

白魔法兵団に入団している私は、兵団の持つ施設の一つで治療を行っているのですが、頭から血を流したお爺さんが運ばれて来たのです。


お話しを聞いてみると、転んだ時に壁にぶつけたらしいのですが、だいぶ顔色が悪く、目に見える外傷よりも深刻な状態なのかもしれません。

私は急いでお爺さんをベッドに寝かせると、頭部に手を当てて癒しの魔力を流しました。


並みの白魔法使いでしたら、治療は難しかったかもしれません。

ですが私は患者の心臓が動いてさえいれば、治療可能なのです。



これまでどんな怪我だって治してきました。

切断された腕だって繋げました。頭部の陥没だって治しました。爆発魔法による腹部の破裂だって治しました。

だからこの私に治せない怪我はありません。今回だってすぐに回復して、このお爺さんは笑顔を見せてくれる。


そう信じて疑いませんでした。



ですがその日、私のヒールを受けたお爺さんは、二度と目を開ける事はありませんでした。


最初、私は眠っているのかと思いました。

治療を終えて声をかけても反応が無かったので、ポンポンと肩を叩いてみたのですが、それでもなんの反応もありません。


しばらく声をかけても揺すってみても何一つ反応がなく、そして気が付いたのです、呼吸をしていないと・・・・・




「頭から血を流していたのじゃろう?お前が治療を始めた時には、事切れる寸前だったのかもしれん。ヒールは万能ではないのじゃ、お前が気に病む事はない」


カカーチェ叔父様はそう言ってくださいましたが、私は初めて自分が無力だと打ちひしがれました。


私が治療をして助けられなかった人は、これまで一人もいませんでした。

ヒールをかけた時、あのお爺さんはまだ息をしていました。

呼吸さえしていれば助けられる。そのはずだったんです。それなのになぜ今回はダメだったのでしょう?


たまたま?運が悪かった?・・・・・そういう事もあるかもしれません。

でも私には、どうしてもそう思う事はできませんでした。



ショックを受けている私を気遣って、カカーチェ叔父様は数日の休養をくださいました。


・・・あんな事はもう起きない。休養中、私は自分に言い聞かせました。

そう、これまでずっと治す事が出来ていたんだから、あれは不運が重なっただけ。


そう自分に言い聞かせて、私は自分の心をなんとか落ち着かせました。



しかし休養があけて最初の治療を行った時、私の患者はまたしても亡くなってしまったのです。



それも今回は命の危険がある人の治療ではなかったので、さすがにおかしいという話しになりました。

あらためて言う事ではありませんが、私の使った魔法はヒールです。ヒールとは言ってしまえば怪我を治すだけの魔法であり、それ以外の事はできません。


それなのに、なぜ患者は亡くなってしまったのでしょう?


カカーチェ叔父様も原因がまったく分からず、頭を悩ませていました。

ですが二人続けて亡くなってしまった事は、偶然ですますわけにはいきません。最初のお爺さんはともかく、二人目の方は私に自信を取り戻させるための、比較的軽い怪我の治療だったのですから。

それで命を落とす事などありえないのです。


おそらく私に何か問題がある。

そう判断したカカーチェ叔父様の判断で、私は一旦治療から離れる事になりました。




・・・・・何日調べても原因は分かりませんでした。


帝国の魔法研究者達が何人集まっても、原因究明の糸口さえ見つけられなかったのです。

私の体からは間違いなく癒しの魔力が出ています。それなのになぜ治療された人は亡くなったのか?


時間だけが過ぎて行きました・・・・・



なぜ?どうして?私は白魔法使いなのに・・・・・・・

休養という名の、隔離された空間での取り調べ。私の心は日に日に擦り切れて、これまで白魔法使いとして培ってきた自信も消えていきました。


もう私は誰の治療もできないのかな?

そんな風に諦めの気持ちになっていたある日、こうなってしまった原因が突然分かりました。




私が治療を止めて三か月程経ったある日、一人の男性が私の自宅を訪ねてきました。

彼は帝国の兵士で、訓練中に右腕を怪我したようなのです。


「シャンテルさん、突然すみません。治療施設に行ったらいなかったので・・・あの、治療をお願いします」


「・・・バーツさん・・・」


私は彼を知ってます。私より三つ年上で、体力型の兵士として軍に所属しているのです。

そして半年程前に、私は彼の告白を断ったからです。



「・・・申し訳ありません。ご存じだと思いますが、私は体調があまり良くなくて、今治療を行う事ができません。どなたか他の方にお願いしてください」


「いえ、俺はシャンテルさんに治療してほしいんです」


私は何度も断りましたが、バーツさんはなかなか諦めてくれません。

しかたがないので、私はバーツさんに本当の事情を説明しました。


今の私は帝国で重要な立場にいます。

その私の治療で二人も亡くなってしまい、しかも原因が不明だと知れ渡ってしまえば、国民に不安を抱かせてしまう。そう考えられたカカーチェ叔父様に口止めをされていました。

表向きには体調不良という事にして。


ですがこのままでは、バーツさんは帰ってくれそうにありません。

なので本当の事情を説明すれば、分かっていただけると思ったのです。誰だって危険をおかしてまで、怪我の治療を強要する事はないと思ったからです。


ですがバーツさんは、それでも納得してくれませんでした。



「だったらなおさらですよ!俺の怪我を治せば、シャンテルさんには何の問題もなかったって照明になるじゃないですか!」


「・・・バーツさん、そういうわけにはいかないのです。原因が分からない以上、私は治療はできません。それに白魔法兵団団長のカカーチェ様から、許可があるまで治療をしてはならないとも言いつけられてます。申し訳ありませんが治療施設に行って、他の方に治療してもらってください」


何度事情を説明しても、バーツさんは諦めてくれませんでした。

そしていつまでも首を縦に振らない私に苛立ちを感じたのか、強引に玄関に上がり込んで詰め寄って来たのです。



「・・・なんだよ?こんなに頼んでんのに、なんでやってくんねぇんだよ?俺がいいって言ってんだから治療してくれよ?俺の体を俺が治してくれって言ってんだから、他の人には迷惑かかんねぇじゃねぇかよ?」


「バ、バーツさん?・・・あの・・・」


眉間に深くシワを寄せて、頭をバリバリ掻いて舌打ちをするバーツさんに、私はハッキリ怖いと感じました。さっきまでは強引ながらも、まだ紳士的な言葉使いをしていました。けれどこの豹変ぶりはなんでしょうか?・・・いえ、これが彼の本性だったのでしょう。


私がバーツさんに告白されたあの日、私は彼の紳士的で穏やかな表の顔に隠された、自分本位で暴力的な裏の顔を無意識に感じ取っていたから、気持ちに応えられなかったのかもしれません。



「なぁ、シャンテルさん・・・治療してくれよ?こうしてる間もずっと痛ぇんだよ?あんた白魔法使いだろ?だったら治す事が仕事なんじゃねぇのかよ?」


グイグイと迫ってくるバーツさんに押されて、私はとうとう部屋の隅に追い詰められてしまいました。


苛立ちを隠そうともせず、声に怒気を乗せる彼の狂気じみた目を見て、私はこれ以上は危険だと判断して、彼の望む返事をする事にしました。



「・・・・・分かりました・・・治療させていただきます」


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