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1334 薄れゆく意識の最後

「・・・ふーん・・・人を見た目で判断するなって言うけどさ・・・キミ、戦えるの?僕なら瞬きの間に殺せそうだよ」


およそ五メートル程の距離を空けて、シャンテル・ガードナーは立ち止まった。

そしてフェリックスの目をじっと見つめながら、自分が何者であるかを口にした。


そう・・・自分が帝国軍第六師団長シャンテル・ガードナーだと。


そのたたずまいはあまりにも無防備だった。

両手を腰の前で重ね合わせ、ただ立っているだけなのだ。そこには警戒も何もない。

ゴールド騎士を前にして、どうぞ斬ってくださいと言わんばかりだ。



「・・・私は争いは嫌いです。誰も傷つけたくないのです。それはあなた方クインズベリー国が相手でも同じです」


「へぇ・・・キミ、すっごい綺麗事言うね?それに矛盾してるの分かってる?この戦争はあんたら帝国が仕掛けてきたんだよ?傷つけたくないんなら、喧嘩売ってくるなって話しなんだけどさ?あ、もしかしてさ、だから僕達には無条件降伏しろって言ってるの?」


シャンテル・ガードナーの口から出てきた思いもよらぬ言葉に、フェリックスは眉間に深くシワを刻んだ。さっきまで口元に浮かべていた笑みは消え、不快感を露わにしながら言葉を返す。

そう、もちろん怒りもあるが、それ以上に苛立ちと不快感が強かった。


フェリックスは自分を軽薄に見せるところがある。それは生真面目に仕事をして重役を任されたり、面倒な責任を負わないようにするためだ。騎士の最高峰であるゴールドの頂に立ちながら、その振る舞いは褒められたものではないだろう。

しかしそうした性格ゆえに、ちょっとやそっと小言を言われても聞き流し、気楽にマイペースに生きて来た。


だがそのフェリックスでも今の、この青い瞳の女の言い分は、とても聞き流せるものではなかった。


フェリックスが返した言葉の通り、争いは嫌いだと言いながら戦争を仕掛けきたのだ。

何を考えてそんな事を口走ったのか分からないが、攻撃された側の人間には到底許せるものではなかった。


「・・・分かり合えるとは思ってません。帝国でも私の主張はまともに取り合ってもらえませんから。あなたの言う通り、私の主張は綺麗事で矛盾しているのでしょう・・・事実、私もこうしてあなたの命を奪おうとしているのですから」



「・・・・・キミが、僕の命を奪う?・・・笑えないね」


目を伏せて小さく頭を振るシャンテルに、フェリックスの目がスッと細められた。

肩に乗せた幻想の剣を握り直すと、凍てついた殺気が全身から滲み出る。


「私は本当に誰も傷つけたくはないのです。誰もが平和に心穏やかに暮らせる世界になってほしい。それが私の心からの願いです。ですが私の願いは、簡単に実現できるものではありません。まずは帝国が大陸統一を成して新たな秩序を作る。それが真の平和への、最初の一歩となるでしょう」


「ふーん・・・・・そのためには他国に侵略戦争を仕掛けるのも、止むを得ないって事なの?」


「許される事ではありません。ですが後の世に生きる私達の子孫が、争いの無い世界で幸せに暮らすためです。そのためなら私はこの身がどうなろうとも厭わない覚悟です」



「じゃあ死になよ」



半ば強引に会話を断ち切り、フェリックスは地面を蹴った。

これ以上目の前の女との会話はできない。話せば話すだけ苛立ちが募る。自分の行動の矛盾は棚上げにして、理想論だけを語る。しかもそれが正しい行いだと心から信じている。


聞けば聞くだけ神経が逆撫でされる。シャンテル・ガードナーという女は、フェリックスにとってストレスでしかない存在だと分かったからだ。



フェリックス・ダラキアンが最初に言った通り、白魔法使いのシャンテル・ガードナーの首など、瞬き程の一瞬で斬り落とす事ができる。それは間違いない。身体能力の差など比べようもない程隔たりがある。



しかしその瞬き程の一瞬の後、砂の上に倒れていたのは黄金の騎士だった。



「う・・・ぁ・・・・・・・」



顔の半分を砂の中に埋もれさせ、フェリックスは自分の体の力が急速の失われていく事を感じていた。



なんだ・・・ボクは、何を・・・された・・・・・?



視界がぼやけ、耳も遠くなっていく。初めて味わう感覚だったが、これは危険だと本能が警告を発した。



ま、ずい・・・立ち上がらなくては・・・・・こ、このまま、目を閉じてしまったら・・・・・



「・・・苦しい思いをさせて申し訳ありません。ですがすぐに楽になりますからね。抗わずにそのまま眠りについてください」



薄れゆく意識の最後に、フェリックスは悲し気な表情で自分を見下ろす青い瞳の女を見た。


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