1332 勝利の理由
カカーチェが黒い風を撃ったあの瞬間、懐かしい声が聞こえた気がした。
いつも俺を可愛がってくれた、玲子ばあちゃんと健一じいちゃん。
俺が中学の時に二人とも亡くなってしまったけれど、俺が家族と上手くいかなくなってきた時も、いつだって玲子ばあちゃんと健一じいちゃんは俺を気にかけてくれていた。
アラタ自分の力を信じなさい
光の力は出し切るんだ
あの瞬間に聞こえた二人の声・・・きっとあの声が俺に力をくれたんだ。
黒い風に体中を締め付けられて、力の制御が上手くできなかった。けれどあの声が聞こえて、急に体内の力の流れがスムーズになって、俺は光の力を爆発させる事ができたんだ。
カカーチェも想定外だったんだろう。
俺の動きは完全に封じたと思い込んでいただけに、拘束を解かれて目を丸くしていた。
だからあっさりと俺の接近を許し、その結果致命的な一発を食らう事になった。
もしカカーチェがもう少し用心深ければ、黒い風を使って俺の右を防いでいた可能性はあった。
戦いはまだ続いていたかもしれない。
だが所詮たらればの話しでしかない。
結果として生き残ったのは俺だ。勝ったのは俺だ。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・ばあちゃん、じいちゃん・・・ありがとう」
俺の中に宿るこの光は二人の魂だ。
二人も若い頃に、こことはまた違う、別の世界に行った事があったと言っていた。
火の塊でできたバスに乗ったとか、嘘つきしかいない村で刺し身にされそうになったとか、荒唐無稽な話しを沢山聞かせてくれた。
当時は面白いけど作り話しだと思っていた。けれど今なら分かる。
あれは全部本当の事だったんだ。
もしかしたらその世界で、自分の魂を光として後世に残す方法を知り得たのかもしれない。
そして自分達がいなくなった後を考えて、俺を護るためにその力を使った。
自分に都合の良いように考えてしまっているけど、ばあちゃんもじいちゃんも俺の事を本当に大事にしてくれていたから、俺にはそう思えた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
問題はここからだ。
深紅のローブをまとった老人、アーロン・カカーチェが事切れている事を確認すると、俺は自分を取り囲む帝国兵達に目を向けた。
指揮官は倒した。けれど何千、いや何万人か?
確か事前の調べでは、このユナニマス大川には五万の兵を集結させていると聞いている。
ここは敵陣で、それだけの数の兵に囲まれているんだ。
さっきは奇襲をかけて敵の黒魔法使い達を叩く事ができたが、もうここからはそうはいかないだろう。
敵も体勢を立て直しているのだから。
そして副団長を倒したとはいえ、まだ師団長は残っているし、部隊長クラスだって当然いるはずだ。
俺が直面している問題は、ここからどうやって脱出するかだ。
きっと今クインズベリー軍の本体もこっちに向かっている。だから軍が来るまで何とか持ちこたえるんだ。
「はぁ・・・ふぅ・・・」
額から流れ落ちる汗を拭っても、拭ったそばからまた汗が滲み出て来る。
肩で息を吐きながら、なんとか呼吸を落ち着ける。思いの他疲労は大きかった。
傍から見ていれば、一瞬で決着を付けたようにしか見えなかっただろう。
だけど黒い風の拘束を解くために、俺は一気に光の力を開放したんだ。その反動は大きい。
店長との修行でスタミナを付けて、光の力の持続時間を伸ばしてなかったら危なかったかもしれない。
とは言っても残りの体力で光の力を使えば、2分ももたないだろう。
ここからは光の力無しで戦うしかない。
全身を覆う光を消すと、俺は拳を握り締めて構えた。任務は達成した、あとは俺が生きて帰るだけだ!
なんとか穴を見つけてこの包囲網から脱出するんだ!
「かかってこい!」
指揮官であるアーロン・カカーチェを倒された事で、帝国兵達には動揺が走っていた。
すぐに斬りかかるべきなのだが、黒髪の男の体からほとばしる光の力に気圧され、うかつに近づく事ができないでいた。
あの力に真っ向から挑むなど考えられない。一発でもくらえば、それは死につながる拳なのだから。
しかしアーロン・カカーチェが起き上がってこない事を確認すると、黒髪の男はなぜか光を消し、ぐるりと周囲を見回した。
おそらく自分を取り囲む、我々帝国兵の位置や数を確認したのだろう。その行動自体はおかしなものではない。だが問題はなぜ光を消したかだ。光を消した途端、黒髪の男の戦力が大きく低下した。
それでもかなりの使い手である事は分かるが、光を放っていた時に比べれば段違いだった。
弱体化するのになぜ光を消すのか?それはつまり、消さなければならない理由があるという事か?
あれだけの力なのだ、無限に使えるというわけではないのだろう。
そこまで考えがいきつくと、アラタを囲っていた兵達の中で身分が高そうな男、おそらく部隊長クラスの男が声を上げた。
「全員でかかれ!ヤツは今あの光は使えん!怯む事はない!全員でかかれば勝てる!行け!」
その一言で帝国兵達の瞳から迷いが消えた。
前に出ていた体力型の兵達は剣を握りしめ、後方の黒魔法使い達は手の平に魔力を込め始めた。
万を超える帝国兵達の殺意が一斉にアラタに向き、飛び掛かろうとしたその時・・・・・
「へぇ、頑張ったみたいだね?」
背中にかけられた緊張感の無い声に振り返ると、黄金の鎧を身に纏った小柄な男が、大勢の帝国兵の頭上を跳び越えてその姿を現した。
「っ!?お、お前、フェリックス!」
「幻想の剣よ!帝国のクズ野郎を吹っ飛ばせぇーっ!」
突如戦場に現れた男、それはゴールド騎士フェリックス・ダラキアンだった。
フェリックスはその手に握る、淡く光る虹色の剣を頭上に掲げると、闘気を漲らせて勢いよく振り下ろした!
七色の光を発する波動が剣先から撃ち放たれると、アラタを取り囲んでいた帝国兵達に直撃して爆ぜた!
濛々と立ち昇る土煙、悲鳴を上げて吹き飛ばされる帝国兵達、フェリックスの一発はいきり立っていた帝国兵達を黙らせるのに十分な威力を見せた。
「ぐっ、あ、あっぶねぇな!俺を巻き込むつもりかよ!」
危うく巻き込まれそうになったアラタは顔をしかめ、両手で顔を護るようにして構えた。
今の一発は全力ではないのだろう。しかしアラタの目の前にいた敵を一掃するだけの破壊力はあった。
「おいおい、助けに来てあげたんだから、文句を言う前にありがとうじゃないかな?」
軽やかにアラタの前に着地した黄金の騎士は、まるで悪びれる様子もなく明るく笑いかけた。




