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1331 アラタ 対 カカーチェ 決着

目の前の老人アーロン・カカーチェは、両手をローブの中に入れたまま、ただ漠然と立っているだけにしか見えなかった。目の前に拳を構えた敵がいるのにだ。


一見すると舐められているようにも見えるが、そうではない事は睨み合っている俺が一番よく分かっている。

さっきの右ストレートでは、こいつを倒すまでには至らなかった。

だがダメージは与えられたんだ。この老人自身が気を失いそうになったとまで言っている。

そこまでやられて俺を軽く見る理由はない。それに顔つきがさっきまでとはまるで違う。


口元は引き締まり、眼光鋭く射抜くような目で俺を見据えてくる。

柔和な表情で、余裕さえ見えたさっきまでとは別人かと思うほどだ。


俺のスピードを目で追う事すらできなかったはずだが、今はまるで指先一つ動かす事さえ見逃さない。

そんな重圧さえ感じさせられる。


うかつに動く事ははばかられたが、この状況ではどうしても俺から行くしかなかった。

今のこの一対一という状況は好機でしかないのだ。俺達を取り囲む帝国兵が動く前にカタをつける。これが最善である事は間違いないんだ。


何を隠し持っているのかは分からないが、この光に懸ける!


「スゥ・・・ハァ・・・・・ウオォォォォォォーーーーーーーーッツ!」


大きく息を吸い込んで吐き出す。

そして体中の力を両の拳に集約して、一気に解き放つ!


「むっ!?」


目も眩む程の強烈は光が放出されて、カカーチェは深く眉根を寄せた。


それは見た事も聞いた事もない力だった。

対峙する黒髪の男の両手が突然強い光を放ち出し、信じられない程に強い力持っていたからだ。



「・・・ほぅ、凄まじい力じゃな、そんな奥の手を持っておったのか」


「終わりだ」


無駄話しに付き合うつもりはない。

俺はカカーチェの言葉を無視し、右足で地面を強く蹴った。




一発で終わらせる!

こいつは俺の動きをまったく目で追えていない。


風の防御はもう完全に見切った。さっきは感覚を掴むためにあえてスローな左ジャブで試したが、あれなら今度はスピードを乗せたジャブでも対応できる。


拳に痛みを感じた瞬間に左を引く。そして風の刃が引いた瞬間に、同じ軌道で右を叩き込む!

今度は光の力も乗せた俺の最大パワーの右拳だ。絶対に耐えられるはずがない!


一瞬にして拳の射程距離に入り込む!左足が地面に着く前に左ジャブを打ち放つ!

これでも防御する素振りさえ見せないカカーチェは、やはり俺の動きに全く反応できていない!

左ジャブがカカーチェの顔面に触れるかどうかというところで、俺は拳に感じた一瞬の痛みに左拳を引き抜いた!


今だ!喰らえ!これが俺の本気の右ストレートだ!これで終わりだァァァァーーーーーーーーッツ!



光を纏った俺の右ストレートを、カカーチェの顔面にぶち込んだ!


「なッ!?」





フッ!


浅いのう、貴様の考えなど手に取るように分かるわい。


このワシを相手に同じ手が二度も通用すると思うたか?確かにワシの目では貴様の動きを追う事はできん。だがワシの絶対防御である風の口が、自動防御だと言う事は見抜いていたのじゃろう?その攻撃性能も味わった。そしてワシが更に何かを隠し持っている事に気が付いていた。


ならば貴様は考えねばならんかった。

何を隠しているのか?と慎重に、そして徹底的に、その答えにたどり着くまで考えねばならなかった。


逸る気持ちを抑えきれずに攻撃に出たのは、周りを帝国兵に囲まれた焦りからじゃろ?

行けばなんとかなると思うたか?確かにその拳が発する光の力は凄まじい。それだけの力じゃ、打てば押し通せるとでも考えたのじゃろう?だがな若いの、それが貴様の敗因じゃ。


貴様は我慢せねばならなかった。


時間をかければ貴様の勝ちじゃったかもしれんのに、惜しい事をしたな?


ワシに一発食らわせた褒美に見せてやろう、このアーロン・カカーチェの本当の力を!



「ヌォォォォォォォーーーーーーーーッツ!」



アラタが右の拳を繰り出したその時だった。

狙いすましたようにアーロン・カカーチェが大口を開けて叫ぶと、突如としてカカーチェの体から黒い風が噴き出した!

それはまるで噴射砲と見紛う程の勢いだった。カカーチェの懐まで踏み込んでいたアラタは、とっさに防御も回避もできず、噴き出た黒い風を正面からまともに受けてしまった。

その強烈な圧力に踏ん張りが効かず、アラタは空中へと吹き飛ばされた。



「な、にぃっ!?う、ぐわぁぁぁぁぁーーーーーーッ!」


それで終わりではなかった。アラタを吹き飛ばした黒い風はそのままアラタの体に纏わりつくと、アラタの両手両足、そして胴体に巻き付いて、その体を張り付けるようにして空中に固定したのだ。


黒い風は肉に食い込み、ミシミシと骨が軋む程に強く締めつけて来る。

自分が体力型でなければ、一瞬にして体を破壊されていたかもしれない。そう感じる程の痛烈な圧だった。


「ふっふっふ、これがワシの切り札、闇の風じゃ」


顔を上げて笑うカカーチェの目は、真っ暗な闇に染まっていた。

全身から立ち昇る黒い風は、闇の力そのものである。アーロン・カカーチェは闇の力をその身に宿していたのだ。



「ぐっ!・・・う、ぐぅ、お、お前・・・闇の力を! 」


胸に巻き付く闇の風に肋骨を締め上げられる。

気を抜くとへし折られそうな圧迫感に呻き声がもれる。



あ、あの目、そしてこの黒い風、こ、こいつも闇に染まってやがる!

くそっ、ま、まさか、隠してた力が闇だったなんて!

あまかった、焦りで敵の脳力を見極めなかったなんて、俺は何をやってんだ!



「ふっふっふ、動けんじゃろ?勝負ありじゃ。このまま捻り潰してやってもいいんじゃが、貴様のその両手の光・・・やはり危険じゃな。ワシの闇にも届きえる力のようじゃ、長引かせると危ういかもしれん。黒き風に飲まれて死ぬがいい」


ニヤリと笑うカカーチェ。

その肌も闇の力を開放した事で黒ずんでいく。


「ぐぅっ、お、お前、その力が、どんなものか分かってんのか!?人間をやめてまで手にする力なのかよ!」


「帝国の大陸制覇のためじゃ。そのためならばこんな老体などいくらでも差し出そう。我が帝国がクインズベリーとロンズデールを支配下に置く。三国統一を成せばこの大陸から争いなど無くなるのじゃよ。全ては真の平和のためじゃ」


「ふ、ふざけんな!そんなのてめぇら帝国が好き勝手やりたいだけだろ!人を力で従わせて何が平和だ!ねぼけた事言ってんじゃねぇぞ!」


「貴様と問答をする気はない。所詮は力無き者の遠吠えよ。さぁ、もういいじゃろう?死ね」



頭上で黒い風に縛られているアラタを見て、カカーチェは嘲笑う。

アラタが何を言おうとも、黒い風の拘束を解けなければ運命は決まっているのだ。

力こそが正義の帝国に生まれたカカーチェにとっては、自分よりも弱い者の言葉は何も響かない。


真紅のローブから右手を出すと、ゆっくりと持ち上げて空中のアラタに手の平を向けた。

黒い風が右手を覆っていく。その黒がより深く黒く染まっていくにつれ、風は重みを増していった。


「夜の闇は人を食らうと言うが、実際にどう食われるか見た事があるか?ふっふっふ、喜べ、身を持って体験させてやろう」


アラタに向けたカカーチェの黒い手の平は、恐ろしい程の闇の気配で満ちていた。

それは夜の闇を目にした時に感じた、あの闇の主トバリと同じものだった。


「ぐっ!て、てめぇーーーーーーーッツ!」


これはくらっちゃダメだ!こんなものまともに受けたら・・・・・ッ!


「無駄だ!黒い風の拘束は解けん!食われて死ねぃ!」


もがくアラタをあざ笑い、カカーチェは黒い風を撃ち放った!




この時、カカーチェはもちろん、周囲で戦いを見ていた帝国兵達も勝利を確信した。

光の拳を持つ黒髪の男は、空中で黒い風に体を縛られており身動きがとれない。どうやっても躱すすべなどないのだ。カカーチェの黒い風を受けて食われて死ぬしかない。


そうなるはずだった。



そこから決着までは時間にしてほんの数秒の出来事だった。


カカーチェが黒い風を撃った瞬間、それまで慌てふためき藻掻もがいていたアラタの全身から、眩いまでの光が溢れだした。


その強烈な光にカカーチェが驚き目を開いた次の瞬間、アラタは己の体を拘束する黒い風を千切り飛ばし、一瞬にしてカカーチェの目の前に迫ると、その光輝く拳でカカーチェの顔面を殴り抜いたのだ。


ドガン!とまるで爆発でも起きたのかと思わせる程の轟音が響き渡った。

同時にカカーチェの体は空高く打ち上げられ、顔面から飛び散った真っ赤な血は地面に撒き散らされ、そして無防備に頭から落下した。



「はぁ・・・はぁ・・・これが光の力だ。あまく見たのはお前だったな」



倒れ伏すカカーチェの首は捻じ曲がり、口からは血の泡を吹いていた。

それだけ見れば十分だった。アーロン・カカーチェは死んだ。



「・・・勝った」


静かにそう呟いて、アラタは拳を握りしめた。


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