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1328 拳の選択

対峙する黒髪の男の言葉に、アーロン・カカーチェの眉がピクリと上がった。


「・・・ほぅ、ワシの防御方法が分かったと?面白い事を言うな、若いの。しかしさっきも言ったが、威勢が良すぎると身を亡ぼすぞ?」


平静を装った声だが、微かな揺らぎがあった。

カカーチェの防御方法は、その仕組みを解かない限り、絶対無敵とも言えるものである。

それをたった二発の打撃で解明したと言うのだから、カカーチェがハッタリと思っても無理のない事だった。



「・・・俺はな、この二つの拳だけで戦ってきた。だから分かるんだ。この拳が感じ取ったソレがお前の謎の防御の答えだ。もう一度言うが、お前のそれはもう俺には通用しない。予告するが、次はその鼻っ柱をへし折ってやる」


そう言って黒髪の男は、血まみれの両手を顔の高さまで上げて拳を握りしめた。

拳から流れ落ちる赤い血は、手首を伝って肘まで赤く色を染める。出血量は決して少なくはない。


「ふっ、その出血でまだやる気とはな・・・いいじゃろう。そこまで大口を叩いたのだから見せてみろ!」


カカーチェの目が鋭さを増した。

アラタをギラリと睨みつけると、好きなように打って来いと言わんばかりに両手を広げた。


もっとも戦闘に向かず、肉体的強さは一般的な老人と変わらないアーロン・カカーチェが、現役のボクサーであり体力型のアラタに向って、打って来いと体を開いている。



「・・・すげぇ自信だな」


よほど自信がなければこれはできない。生きるか死ぬかの戦いで、敵に対して無防備に体を開く。

きっとこの男は今までこれで勝ち続けて来たんだ。自分が強者だと信じて疑わない。その狂気さえ感じる自尊心が、この老人を今日まで支えて来たんだ。



・・・・・俺がこれから挑むのは、この老人を形成する全てと言えるものだろう。


殴った俺の拳がダメージを受ける。

とんでもない防御だ。鉄糸のグローブが無ければ、この両手は使い物にならなくなっていたはずだ。

ここまでボロボロになってしまったのだから、もうこのグローブは使えないな・・・

けれど、このグローブのおかげで、俺の両手はまだ残っている。


ジャレットさん・・・シルヴィアさん・・・ありがとう・・・・・


おかげで俺はこの男の謎を解く事ができました。



「どうした?打って来ないのか?やはりハッタリだったわけじゃな?そうじゃろう、そうじゃろう。ワシに攻撃を通すなど誰にもできん事じゃからなぁ!」


左半身で拳を構えたきり、一向に動き出さないアラタを見て、カカーチェはあざ笑うように声を上げた。



「・・・いいや・・・今からだ。今から俺が破ってやるよ!」



そう言うなり、アラタは右足で地面を強く蹴って飛び出した。



二人はほんの五メートル程の距離で睨み合っていたが、今のアラタにとって五メートルなど一蹴りで詰める事ができる。


瞬き程の一瞬で拳の間合いに入ったアラタには、左ジャブ、左フック、右ストレート、いくつかの選択肢があった。

当てる事を優先するならば左ジャブが最も有効だろう。

ボクシング・・・いや、格闘技全般において、最速と言っていい技がジャブだからだ。


倒す事だけを考えるならば、初手右ストレートでもいいだろう。

相手は自分の攻撃に全く反応ができてないのだ。思い切り右を打てばいい。


しかし今回はカカーチェの防御を破って見せる事が第一である。

可能ならばそのまま倒してしまえばいい。しかしそれが難しいのであれば、まずはカカーチェの防御を破り、倒すための下積みを重ねる事が大事だ。


その考えで動いたアラタが選んだ拳の選択は・・・・・



「シッ!」



顔の前に出した左の拳を真っすぐに突き出す。


そう、左ジャブだった。


「ッ!?」


それを見た時、カカーチェの目が驚きに開かれた。

なぜなら、さっきまでは目で追う事もできない程に速い拳だったのだ。

しかし今は驚く程に遅い・・・そうジャブが遅かったのだ。


アラタが選んだ拳の選択は、ジャブはジャブでも遅い左ジャブだった。


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