1141 赤い視線
魔風の羽の風に包み込まれたカチュアとユーリは、荒れ狂う爆風を苦にもせず、目的の場所に向かい歩いていた。
「・・・すごい・・・カチュア、これって風が同化しているの?」
感心するほど精密な魔力の流れに、ユーリが感心して褒めるとカチュアは照れたように笑った。
「うん、そうだよ。向かって来る風の性質を見て、同調して受け流してる感じかな。けっこう気を使うから走るのは難しいけど、歩きながらなら大丈夫だよ」
「カチュアは手先が器用だから、魔力操作も上手。やっぱり一緒に来てくれて良かった」
膂力のベルトを使えば、この爆風でも突っ切って行く事は可能だろう。
だがかなりの魔力と体力を消耗する事になったはずだ。
カチュアが道を作ってくれたおかげで、魔力と体力を温存できたのは大きい。
「・・・ユーリ、みんなは絶対に生きている。私は信じてる」
「うん、あいつらが簡単に死ぬわけない。絶対生きてる」
二人の目は、ただ前だけを見つめていた。
爆風によって起こった猛吹雪の中、二人はその先で待つ仲間達を想い、足を急がせた。
カチュアとユーリが向かう先、レイチェル達が帝国軍のアダメス達と戦った場所では、轟轟と燃え上がる炎によって辺り一面の雪は消し飛び、焼け野原と化していた。
そしてそこから数百メートル程離れた雪原で・・・・・
「・・・・・ブッハァーーーーーーーーッツ!」
地中から地面を拳で突き破り、緑色の髪をした男、リカルドが顔を見せた。
「ゲホッ!ぺっ!ぺっ!・・・はぁっ、はぁっ・・・ゲホッ!・・・はぁ、はぁ・・・う、おらぁーーーッ!」
地面から顔を出して大きく咳き込むと、口の中の土を吐き出した。
そして息を切らせながら右腕を前に出し、体を支えるようにして肘をつくと、歯を食いしばって左腕に抱えた赤毛の女戦士、レイチェルを腕一本で地中から引き上げた。
「はぁっ!はぁっ!・・・ゲホッ!・・・はぁ、はぁ・・・・・・・・・くそがっ!」
体力型でも小柄なリカルドでは、女性とはいえ人一人を片手で持ち上げるのは困難だった。
だがリカルドは無理やり力を絞り出し、レイチェルを放るようにして地面に投げ置くと、力尽きたのか穴から這い出て、その場に仰向けに倒れた。
「はぁ・・・はぁ・・・し、死ぬかと思ったぜ・・・ゲホッ・・・日頃の、行いだな・・・」
しばらく仰向けのままで呼吸を落ち着けると、リカルドの目の前にフワリと黄色の炎が浮かび上がった。突然目の前に現れた黄色の炎を見ても、リカルドは眉一つ動かす事はない。
なぜならリカルドは、この炎を知っているからである。
「・・・よぉ、土の精霊・・・助かったぜ」
仰向けに倒れたまま、リカルドは黄色の炎を土の精霊と呼んだ。
そう、この黄色の炎は土の精霊である。そしてこの土の精霊が、あのブラックスフィアの爆発から、リカルドとレイチェルを救ったのである。
「いきなり地面の中に引きずり込まれた時はよ、マジでビビったけど・・・レイチェルと俺を爆発から護ってくれたんだもんな。マジ感謝だぜ。でもよ、次からは口ん中に土が入らねぇように頼むわ。息できてもジャリジャリしてめっちゃ気持ち悪いから」
黄色の炎に向けてお礼と駄目出し述べると、炎はユラユラと揺らめきながら、スゥッと静かに消えていった。
「相変わらず、愛想ねぇな・・・よっと」
一息ついたリカルドは体を起こすと、となりで体を横たえているレイチェルに目を向けた。
どうやら意識は失っているようだ。だが呼吸は落ち着いており、脇腹から流れていた血は止まっている。
「あ~・・・こりゃ土の精霊だな。あいつら愛想悪いけど、サービス良いよな」
回復効果のある土の寝巻から分かるように、土の精霊は癒しの力を持っている。
かなりの深手を負っていたレイチェルだったが、土の精霊の力によって、一命を取り留めていた。
そして爆発の中心地にいたはずのリカルドとレイチェルが、爆炎や爆風の影響の少ない場所まで避難できていたのも、土の精霊が地中から移動させていたからである。
「つーかよ、ここってどこらへんだよ?えっと・・・あ、あそこの火柱が元々いた場所か?そうすっと・・・あっちか?あっちに行けばみんなと合流できんのか?」
リカルドは立ち上がると、日差しを遮るように額に手を当て周囲を見回した。
さっきまで戦闘をしていた場所から、数百メートルは離れている。天まで届く火柱は一目で見つかり、それを目印にクインズベリー軍の位置に検討をつけた。
「あ~あ、面倒くせぇけど行くしかねぇよな?みんな俺らがここにいるって知るわけねぇし。いや、ジーンかケイトがサーチ使えばいいんじゃね?・・・うん、そうだよな?がんばった俺がわざわざ歩く事なくね?あっちから迎えに来んのが礼儀じゃんよ」
一人でぶつぶつ言っていると、ふいに背後から感じた視線にリカルドは振り返った。
「・・・・・っ!」
ハンターとして育てられたリカルドは、レイジェスの誰よりも目が良い。
だからこそ、100メートル以上離れている樹の上から、こちらを見るその女の姿を、目に映し認識する事ができた。
「ん、んだよ・・・あいつ・・・・・」
血のように真っ赤な目で、じっと自分を見つめる赤い髪の女と目が合った。
背筋が凍りつくような寒気を覚えるのは初めてだった。




