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1140 助けに

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ブラックスフィアの爆発は凄まじいものだった。

天をも焼く程の巨大な火柱が立ち昇り、荒れ狂う爆風は樹々を薙ぎ倒す。大地さえも割るその破壊力は、アダメスが口にしていたように、上級魔法の光源爆裂弾さえも上回るものだった。



「お、おい!まただぞ!なんだこの爆発は!?さっきの黒い球か!?」


叩きつけてくる風に目を細くしてミゼルが叫んだ。腰を落とし、腕を盾にして風を防いでいるが、気を抜くとバランスを崩して転びそうになる。


爆発地点から数百メートルも離れているが、それでも強烈な風は雪を巻き上げて、まるで吹雪のように荒れ荒んでいた。



ミゼル達は軍隊に残り、空中に浮かぶ黒い球、ブラックスフィアを魔法で攻撃していた。

するとある瞬間に、突然黒い球が猛スピードで元の場所へ飛んで行ったかと思うと、ほどなくしてこの大爆発が起きたのだ。


「ミ、ミゼル、風魔法を使いましょう!この爆風はちょっとキツいわ」


ミゼルと同じく腰を落として耐えていたシルヴィアだが、あまりの風圧に転びそうになり、地面に手を着いた。


「大丈夫かシルヴィア、分かったすぐに風の盾を・・・」


「ミゼル、その必要はないよ。僕にまかせて」


両手に魔力を込めて、風魔法を使おうとしたミゼルを止めたのはジーンだった。


ジーンはミゼルとシルヴィアの前に立つと、両手を前に出して魔力を放出し、青く輝く結界を張り巡らせた。

そしてそれは、さっきまで黒い球の光線を防いでいた結界よりも、強く大きな輝きを放っている。


「お?風が止んだ?ジーン、これはまさか・・・」


「天衣結界だよ、ミゼル。すごい爆発だったね、この爆風は普通の結界じゃ防ぎ切れなかった。しかも二発だ。アラタ達の向かった方向だけど・・・・・」


結界の最高峰、天衣結界で爆風は完全に遮った。しかし数百メートル離れたところからの爆風がこれ程なのだ、そこに向かって行ったアラタ達は、はたして無事なのだろうか?


ジーンは最後までは言葉にしなかったが、全員が同じ事を考えていた。



「・・・行って来る」


全員が口をつぐんだその時、ユーリが前に進み出た。

そして一言だけ残して結界の外に出ようとすると、後ろからケイトが肩を掴んだ。


「ちょっ、ちょっと待ちなよユーリ!いくらあんたの膂力のベルトでも、この風じゃ無理だって!」


「でも、みんな怪我してるかもしれない。白魔法使いは必要なはず。だから行かないと」


そう答えて肩に置かれたケイトの手をそっと離すと、ユーリはもう一度背を向けて歩き出した。


「待ってユーリ!私も行く!私もみんなを助けたい!」


ユーリを追いかけて、カチュアが後方から駆け寄って来た。


「カチュア・・・でもカチュアには、この風の中を進むのは無理だと思う」


「大丈夫、ユーリも私の魔道具を知っているでしょ?風を起こす魔風の羽なら、なんとかできると思う」


そう言ってカチュアは白いローブの内側から、十数センチ程の白く美しい羽を取り出した。



「・・・知ってる。でも、この風は台風以上。ジーンが天衣結界を使うくらい強い。大丈夫?」


「うん、まかせて。ユーリ、私もね、店長との修行で少しは強くなったんだよ」



カチュアはユーリの目をじっと見つめてそう告げた。

その薄茶色の瞳には、これまでのカチュアにはなかった、ハッキリとした自信が見えた。


「・・・分かった。アタシも正直、この風の中を突っ切るのはキツイと思ってた。カチュアがなんとかできるんなら助かる」


「うん、決まりだね」


「こらこらこら、勝手に決めてんなって!」


カチュアとユーリで話しがついて、二人が天衣結界の外に出ようとすると、ジャレットが後ろから二人の肩を掴んで止めた。


「・・・ジャレット、今すぐこの手を離さないと、ぶっ飛ばすよ?」


ユーリがギロリと睨みつけるが、ジャレットは首を横に振って、落ち着いた口調で話しを続けた。


「待て待て、ちょっと一回頭を冷やして話しを聞け。俺はお前達の保護者みてぇなもんだから、安全が確認できないうちは行かせられねぇんだ。カッちゃん、その魔風の羽で本当にこの爆風をなんとかできんのか?簡単にまかせてって言ってたけど、天衣結界で防ぐような圧力なんだぞ?」


二人の身を案じるからこそ、ジャレットはくどいくらいに言葉を重ね、言い方も問い詰めるようなものになってしまった。だがカチュアは結界の中からぐるりと外を見回し、そしてジャレットに向き直ると、確信を持った目で言葉を返した。



「ジャレットさん、心配してくれてありがとうございます。でも、見た限り大丈夫だと思います」


「・・・・・自信満々だな?」


「はい。店長にみっちり鍛えてもらいましたから」


「・・・いつの間にか強くなっちまって・・・分かった。どうやら俺がカッちゃんを過小評価してたみたいだな。行ってこい、レイチー達を頼んだぞ!」


控えめなカチュアが、こんなにも自信を持って主張してきた事に、カチュアの成長を感じ取った。


ジャレットはカチュアの肩に右手を置くと、左手の親指を立て、やたらと白い歯を見せてニッと笑い締めくくった。そして残ったメンバー達も、ユーリとカチュアの背中を押すように頷いて見せた。





「よし、行くよ、ユーリ。私から離れないでね。今道を作るから」


カチュアは後一歩で結界の外という距離で立ち止まると、魔風の羽を右手でしっかりと持ち、となりに立つユーリに念を押すように声をかけた。


「ん、分かった。カチュアにくっついて行く」


「うん、じゃあいくよ・・・・・魔風の羽よ!」


頭の上に右手を掲げ、魔風の羽に魔力を込めると、カチュアとユーリを風が優しく包み込んだ。


その様子を後ろで見ていた黒魔法使いのミゼルは、カチュアの精密な魔力操作に目を見張った。



「・・・すげぇな、静かで柔らかい・・・あんな魔力操作があるのか・・・」


「ふふ、ミゼルはカチュアの修行をあんまり見てなかったわよね?あの子、回復ばかりじゃこれから役に立てないって、店長に率先して教えを受けてたのよ?その努力があの魔力操作ね、カチュアらしい優しい魔力だけど、すごい密度よ。あれなら外の暴風も平気かもしれないわね」


シルヴィアは妹分のカチュアの成長を、優しい笑みで見つめていた。



そして仲間達に背中を見守られながら、カチュアとユーリは結界の外へ一歩足を踏み出した。



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